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誰が授与する?

 今回のコンテストのテーマは『癒し』。

アオが奏でる笛の音が、優しく響きます。


 心地好く皆を包み込んでいた音色の余韻が消え、天竜王都ホールに静寂が戻る。


 アオが礼をして去ろうとすると、拍手が爆発的に湧き起こった。


 皆、笑顔で立ち上がり、拍手は益々大きくなる。


 アオは、もう一度礼をして、歩き始めた。


 すると、拍手は手拍子へと変わり、大波のようにホールに響いた。


(まさか、アンコール?)


(としか思えぬな)


 舞台袖ではスタッフ達が慌てふためいている。

そこにフジが駆けて来るのが見えた。


(とりあえず引っ込もう)少し早足。



「フジ様、如何致しましょう?」


「時間的には問題ありますか?」


「いえ、特に何もございません」


「アオ兄様、もう1曲お願いします」にこっ♪


スタッフは司会者の方に駆けて行った。


「仕方ないな……吹くよ」


『コンテストと致しましては異例では御座いますが、アンコールをお受けくださいましたので、お静かにお願い致します。

 次の曲は審査対象外で御座います。

 アオ天竜王子殿下、お願い致します』


(審査対象外って……俺は、そもそも対象外だよね?)


(念を押しただけではないのか?)


(ああ、そうか。そうかもね)


 アオは音の精霊(クレフ)王お気に入りの曲を奏で始めた。



♯♯♯



 審査員控室では、得点の集計が行われていた。

アオのアンコール演奏は、嘘から出た実となったのだった。


(さっすがアオ兄、満点だ~♪)


(トロフィー授与はサクラ王だったな?)


(俺でいいのかなぁ?)



「お身内は審査していないと説明すべきでは?」

「そうですね。司会者に伝えます」

「皆様ご納得頂けるでしょうが念の為に」

「はい」ひとり駆けて行った。


 小声で話しているスタッフの方にサクラが寄って行った。

「授与は他の方に変更して頂けますか?

 私は兄を審査しておりませんので」


「えっ……ですが、それでは……」


「通して審査した方が授与すべきですよ」


「えっと、、何方がよろしいのでしょう?」


「最年長の方でよろしいのでは?」


「ええっと、何方でしょう?」


審査員をした天人達の視線がキンに集まる。


「キン兄なのぉ?」


「そ、そうだな。

 見た目はともかく、生まれは早い」

キンの目が泳ぎ、ハクが大笑いする。


「通しの中で最年長は?」


 魔人は天人の、天人は魔人の年齢が分からないのをいい事に、視線で押し付け合っている。


「じゃあ、天馬王太子(ルルクル)♪」友達~♪


「歳上に見えるだろうけど、僕はサクラと同い歳っ!」


「じゃあねぇ――」


皆、首を横に振っている。


「どぉしてぇ?

 紫苑さん、珊瑚さん、いいでしょ?」


「元々は、天界のコンテストですので」

「私共では、天人の皆様に失礼ですよ」

「それに……」「本当に最も若いのは」

「「私共なのですよ?」」


「あ……そぉだった~」


「サクラ、アオに渡してやれよ。

 それがイチバンだよ」ぽふぽふ。


「ハク兄ってばぁ」


皆、同意する。


「ホントにいいのぉ?」


「サクラが適任だと皆が言っておるのだ。

 代表として渡すだけなのだから、大人しく従え」


「ココおじちゃまぁ」


「その呼び方は止めよ!」真っ赤!


皆が引き攣り、紫苑と珊瑚が笑いを堪えている。


「魔竜王、顔を貸せ」掴んだ。


「やぁん、顔は貸し借りできないのぉ」

ジタバタしているサクラは妖狐王に連れ出された。



『ココおじちゃまってば乱暴っ! や~ん!』

 足音とサクラの声が遠ざかる。


「お祖父様がっ」くすくすくす♪

「あんな風にっ」くすくすくす♪


皆から笑いが吹き出した。


「サクラって儀式ではビックリしたけど、やっぱりサクラだった~♪」

ルルクル爆笑♪


「魔竜王様って、楽しい方だったんだね♪

 あの妖狐王様までお友達なんだね♪

 父上、仰る通り、お手本にします♪」

古狸皇太子にっこにこ♪


「いやその何だ。

 狸聡(リソウ)よ。上辺だけでなく、本質を真似よ。

 よいな?」


「はいっ♪ 魔竜王国に留学させてください♪」


「後程、先方に確かめる」


「確かに善き手本となる若者ですよ」

息子に困り顔を向けている古狸帝に、天兎王が微笑んだ。



♯♯♯



 吹き終えたアオが優雅に礼をした。


 心の中で嬉しそうに拍手していたルリの表情が唐突に険しくなった。


(ルリ? 急に、どうしたの?)


(アオ……これが、前兆と、いう奴か?)


(直ぐに移動するからっ!)舞台袖に向かう。

(サクラ! ルリも覚醒なんだ。

 後は頼む!)


(うん! 任せて!)


(ルバイル様! ルリも覚醒なんです!

 静寂の祠にお願いします!)


【はい!】

客席後方で聞いていた先祖神達が一斉に移動した。



♯♯♯



(妖狐王様、ルリ姉の天性が覚醒しそうなんです。

 授与が俺から俺へ、になってしまいました。

 代わって頂けませんか?)


(サクラからサクラで、何か問題でも有るのか?

 アオに受け取らせるのは困難極まりないのだから、好都合であろう?)


(あ……そっか)


(兎も角だ。あの呼び名は止めよ。

 人前では決して使うな)


(今ならいいんだよね? ココおじちゃま♪)


(サクラ……)


キャッキャと笑った後、表情を引き締めた。

(ゴルチル様に何を吹き込んだのですか?)


(今日は拾知を使うな)


(ただの推測ですよ)


(それが聞きたくて、ふざけたのか?)


(はい。最近なかなか二人きりでは話せなくなりましたので。

 お教え頂けませんか? 魔界王様)


(それも推測すればよい)


(三界王様)


(何故その名を――それこそ他言無用だ!)


(これも、ただの推測でした。

 天神のゴルチル様を『魔界王』が止められる筈もありませんので)


(小賢しい真似を……儂を騙しおって。

 アオは無理強い等せずとも、何れ神に成らざるを得なくなる。

 そう伝えただけだ)フンッ。


(そうですか。アオ兄も神に……)


(他言無用。サクラの胸だけに留められぬのならば封じるのみだが……今度は、サクラが補佐だ)


(ん♪ ココおじちゃま、あっりがと~♪)

曲空して消え、控室の扉前で手を振った。



♯♯♯



『――次回のコンテストでは、人界も含め、大々的に開催できる事を願っております』

サクラがステージ中央で総評を述べていた。

その後ろに審査員、更に後ろに全奏者が並んでいる。


『それでは、優勝者を発表致します。

 優勝は……アオ天竜王子です!』


『アオ殿下、どうぞ前にお進みください』

司会者が引き継いだ。


 暖かい拍手を浴びてアオ(サクラ複製)が進み出、にこやかに礼をした。


『尚、アオ殿下の審査に関しましては、ご兄弟であらせられます天竜王太子殿下、魔竜王陛下に代わりまして、古狸帝陛下、天兎王陛下、妖狐王陛下が評じてくださいました。

 ですが、そのような事を申すまでもなく、素晴らしい演奏であったと、畏れながら付け加えさせて頂きます』


 拍手が一層大きくなり、歓声が混じり――


『アオ兄、おめでと♪』

小さく言ったサクラの声がマイクに乗ってしまった事が騒めきを生み――


「輝竜! 輝竜!」

コールと共に、拍手が手拍子に変わり――


(どぉしよ……キン兄、ハク兄。

 また俺、やらかしちゃったぁ)


 客席だけでなく奏者達からも、ホール一丸となって湧き上がる輝竜コールが、アオへのアンコールを超える大波となった。


(アカとクロを呼ぶか、複製を増やすか、だな)


(やるの決定? 何するの?)


(ここは、やっぱ笛だろ♪)


(『癒し』がテーマなのだから、『優しい光』でどうだろう?)


(うん♪ クロ兄♪ アカ兄♪

 輝竜するよ~♪)

『お呼び出し致します。

 運営のフジ兄♪ 控室のクロ兄とアカ兄♪

 ステージにお願い致します♪』




♯♯ 静寂の祠 ♯♯


【ルリの覚醒も成功ですよ。

 アオ、続けてとなりましたが大丈夫ですか?】


「はい。少しは慣れましたので」


【では、ルリの調整をしますね】


「「お願い致します」」


【ランメル、先程と同じですよ】


【はい。兄様】



 他の先祖神達は、祠入口に集まっている。


【また輝竜しているわね♪】

【あとはお任せするしかないのだから~】

【行きましょう♪】

女神達が一斉に消えた。


【私も、プリムラが聞きたがっておりますので】

バナジンも移動。


【俺だって笛が聞きたいんだっ♪】

【待て! コバルト!】

【オッサンも勝手に来りゃあいいだろ!

 親父、行こうぜ♪】


【ロズオラがメレーン様を連れて行ってしまったね。

 ユークレ様、私達も参りましょう】

【そうですね、ジャスパ様】



【あ……父様まで……】


【近いうちにライブで存分に聴けますよ】


【ライブ?】


【アオ達兄弟はアイドルなのです♪】


【アイドル?】「ルバイル様ぁ」


【嘘など申しておりませんよ?

 王子でアイドルで、アオは大臣でしたよね?

 それに――】


「青身神ではありませんからね」


【この国の王なのです♪】「あ……」


【もしかして、ここって、竜宝の国?】


【そうですよ。

 アオとサクラは2代目の王なのです】


【2代目かぁ。

 だったら、けっこうすぐに出してもらえたんだね♪】


【いいえ、5万4千年弱も……見つけられなくて、すみません】


【でも、僕は生きている。

 父様も母様も、僕は見つけられなかったのに、兄様は見つけて、救い出してくれた。

 閉じ込められていた長さじゃないよ。

 出してもらえた事が嬉しいんだ】


【そうですか……良かった……】


【また、こうして話せるのが嬉しいんだ♪】


【私も……とてもとても嬉しいのです。

 ありがとう、アオ】


「え? 俺?」


【見つけてくださったでしょう?】


「ですが、遠過ぎて、後回しにしてしまって、すみません!」


 そうではなく、家族を集めてくださって

 ありがとうございました、青身神様。


【確かに、とても遠かったですね。

 私では神眼ですらも、全く届きませんでしたよ。

 兄弟の合わせた力の強さとは、素晴らしいものですね】


【兄様、これからは僕が居るよ。

 力を合わせようね】


【そうですね♪】


【アオの兄弟って、サクラとアカとハクだけじゃないんだよね?

 チラチラ聞こえてくるけど、何人いるの?】


【「7人兄弟です」よ♪】


【天竜って、そんなに生まれるの!?】


【アオ達は特別なのですよ♪】





写【終わったら、と思っていましたのに……】


水【あのアオ様は?】


写【この手鏡を見て。

  ほら、サクラ魔竜王ですよ】


水【真実鏡か。

  しかし何故サクラ様が2人なんだ?】


写【それは私には……あ、水鏡が『様』を

  付けたという事は、アオ様の兄弟も皆

  青身神様なのですね?】


水【青身神様はアオ様とサクラ様だけだよ。

  赤虎は匠原神だがな。

  神竜に再誕せずに匠原神になったんだ。

  こっちはこっちで凄いだろ?】


写【『虎』という事は、もしや金虎様の

  お弟子様なのですか?】


水【そうだ。愛弟子で絆まで結んだらしい】


写【あの金虎様が……】


金【儂がどうした?】


写【いらしたのですか!?】


金【赤虎が舞台に立つ時は、全て見ておる】


写【本当に愛弟子なのですね……】


金【そうじゃな♪】


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