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『ミモザ色の風』14

 妖狐王様は、ここまで出されるとは

思っていなかったそうです。

『勝手にせよ、等と言わねばよかった』と

ぶつくさ仰っていました。


 30年後、ミモザは大学を卒業し、煌麗山(長老の山)病院の看護師となった。


 働きながらも鍛練は続けており、属性技も術技も高難度のものを使い熟せるようになっていた。


「パープル様、以前、大学の講義で、治癒以外の天性を医療に活用したいってお話を聞いたんです。

 でも、それを学べる学校なんて無くて……そういう道を目指したいのですが、どうすればいいのでしょうか?」


「ふむ。神眼や掌握を活用したいという話ならば、医師をしておるブルー王子から聞いておる。

 この山にも、その天性に長けた者は居るからの。

 ここで学べばよいぞ」


「この山って……いったい……」


「ここ、煌麗山はのぅ、『長老の山』とも呼ばれておっての。

 王族の隠居達が住んでおるんじゃよ」


「ええっ!?

 どうして私、ここでご指導受けてるんですか!?」


「大学の特待生じゃからのぅ」


「卒業しましたけどっ!?」


「構わんよ。続けたいならのぅ」


「いいんですか!?」


「年寄りは、頑張る若者が好きなんじゃよ。

 居たいだけ居ればよいよい」


「では、まだまだ宜しくお願い致します!」


 大学入学直後に曲空を習った事で、ずっと師と仰いでいるパープルが前王であったなどとは、辺境の山奥で育ったミモザは知らないのだった。



「ミモザさん、今日も頑張っているのね。

 休憩にお団子は如何かしら?」


「あ、ピーティ様♪

 いつもありがとうございます♪」


「パープルさんも、休憩しましょ」


「そうじゃな♪」



―◦―



「ピーティ様は薬師なんですよね?」


「そうよ。今は孫に教えているの♪」


「私も学びたいんです!

 特に竜宝薬について!」


「あらあら。でも、古文書なのよ?」


「それなら文字から学びます!」


「そう? では、明日からね」


「宜しくお願い致します!」



―◦―



「ミモザちゃんは、あれこれ学びたいんじゃな?」


「はい♪

 私、いろんな意味で強くなりたいんです。

 たくさん学んで、たくさん鍛えて、強くなれば良い事が起こるんです。

 どんな事、って分からないけど、絶対、良い事なんですよ」


「うんうん、そうじゃな。

 きっと良い事が起こる。うん」



―・―*―・―



 翌日、鍛練の休憩時に、ピーティが本を持って来た。


「今日は孫から『ふわふわ』を焼いてほしいと、せがまれたのよ♪」


「チェリーじゃな?」


「そうなの♪ どうぞ召し上がれ」


 ミモザは初めて見る『ふわふわ』をフォークで掬い取り、じっくり観察して口に入れた。

「美味しい……とっても美味しいです!♪」


「また新しい事を知ったわね♪」


「はい♪」


「それでね、この本が古文書の写しなの。

 行間に手書きしているのが、今の言葉よ。

 孫達が書き込んだの。

 こちらが辞書のように纏めたものよ。

 特に教科書なんてありませんからね、これを読んで慣れてくださいね」


「ありがとうございます!」


「ピーティ、ここに居ったのか」


「あら、あなた♪」


「ワシの分も有るかのぅ?」


「もちろん有りますよ♪」うふふ♪

「ミモザさん、また明日ね」


ピーティは夫と仲睦まじく去って行った。


「パープル様の奥様だと思ってたわ……」


「従兄の奥さんじゃよ。

 儂の許嫁じゃったんじゃが、儂は恋愛がしたくてのぅ……ピーティさんと一度も会わずに破棄してしもぅたんじゃ。

 従兄の結婚式で愕然とし、三人で仕事をするようになってからは後悔が嵩むばかりでのぅ……結婚出来ず仕舞いじゃよ。


 ミモザちゃんは恋愛で後悔せんよぅになぁ。

 人生を左右する事もあるからのぅ」


「……はい」



―・―*―・―



 遅くに帰宅したミモザは、すぐに本を開いた。


「え? この字……」

急いで抽斗(ひきだし)から箱を取り出し、中の紙片を机に並べた。


「同じ人の字だわ……じゃあ、これ全部ピーティ様のお孫さんなの?」


 最初に剣から小さく畳んだ紙片が落ちて以降、武具や本など、パープルから渡された物から紙片が出てくるのは常になっていた。


 そこに書かれてあるのは、いずれ共に歩もう、と受け止められる、孤独に奮闘しているミモザにとって、励まし以外の何物でもない言葉ばかりだった。


 ミモザは、上品なピーティに『様』を付けて呼んではいたが、前王妃だとは思ってはいなかったので、その孫が王子だとも思い至れなかった。


「確かめたい、けど……」


 最初こそコルクに見せたが、以降は誰にも見せずに集めていた紙片を見詰め、ミモザは考え込んでいた。

『後悔せんよぅに』というパープルの言葉が、ぐるぐると巡っていたが、踏み出す気にもなれずにいた。


「とっても元気づけてもらってたのに……私宛てじゃなかったのかなぁ……」


 いいや、ミモザ宛てだよ。


 背を向けて眠っている振りをしているコルクは、言ってしまいそうになるのをグッと堪えていた。



―・―*―・―***―・―*―・―



 励まし続けてくれている者が誰なのかを確かめられないまま時は過ぎ、155歳(15人歳半)の誕生日を迎えたミモザは、神眼と掌握も自在に使えるようになり、供与も見つけ、開き、伸ばし始めていた。



「ミモザさん、一緒にいらして頂きたい所があるの」


 微笑むピーティに連れられて行った広間では、これまでに見た事のない程の、とても大きな青みがかった紫竜が優しい気を漂わせていた。


「ミモザ、近ぅのぅ。緊張せずともよいよい」

ゆったりとした穏やかな言葉が気品を纏い、ミモザに届いた。


 そう言われても緊張しちゃう~!

 絶対、高貴な御方なんだわ!

 どうして私なんか――


「ミモザさん?」

ピーティが覗き込んでいた。


「あ! はいっ!」


 にこにこと優しく微笑む大きな紫竜から目が離せないまま、ミモザは震える足で進んで行った。


「近ぅのぅ、ゆるりとのぅ」にこにこ。


 紫竜は両掌をミモザの頭上に翳し、包むように囲んで下ろしていった。


「よぅよぅ鍛えておるのぅ」にっこり。


「あ、あ、ありがとう、ございますっ」


「年寄りを初めて見るのかのぅ」ほっほっほ♪


「はい、いえあのっ、すみませんっ」


「よいよい。155歳を迎えたのじゃな?」


「はい!」


「では、略式じゃが、成人の儀を執り行う」


「ええっ!?」


「力の解放じゃ。他には何も変わりはせぬよ」


「力……解放?」


「もっと強ぅなる。それだけじゃ」


「あ……はい!♪」


「その力を御し得る土台が出来た、という事じゃよ」


「はい!♪ 皆様の御指導のお陰です!♪」


「そぅかそぅか」にこにこにこ。


「大婆様、失礼致します」

背後から威厳が漂う男性の声が聞こえた。


「シルバ、宣詞を頼むぞ」


「畏まりました。

 お前達は彼女の後ろを囲むようにな」


「「「はい。父上」」」


 背後を確かめたかったが、向くなんてとんでもなく、神眼も発動してはいけないような気がして、ミモザは動けなかった。


 複数の足音が近付き、豊かな長髪が銀の波のようにゆるやかにうねっている、精悍な男が横に並んだ。


「ミモザ、怖がらなくても大丈夫よ」

ピーティがミモザの左肩に触れ、微笑んだ。

「シルバ、ミモザ。向かい合ってね」


「はい、母上」

「えっ、あっ、はい!」


 後ろで控えていた3人が、シルバと向かい合ったミモザの背後を囲むように立ったと感じた。

老紫竜が黄色く光る珠を掲げた。


 ええっと……この人がピーティ様の息子さんで、

 だったら後ろがお孫さんなのね?


 あの手紙を書いた人が来てるのね?


 あら? 近くで何か光ってるの?


 宣詞は始まっていたが、ミモザは聞いている余裕など無かった。


左側に光を感じ、確かめようとした時、

「次、眩しいから目を閉じて」

真後ろから囁かれた。


正面の男(シルバ)が、珠が付いた杖を掲げた。


「目を閉じて」


慌てて閉じると、瞼の向こうに強い光を感じた。


 ミモザは思わず仰け反ったらしく、背を支えられた。

「大丈夫? もう終わるよ」


 自分の中心から力が湧き出、身体中に広がるのを感じた。

それと同時に、背を支えてくれている掌からも優しい気と、力が流れ込んできていると感じた。


 姿勢を正そうと思えば、そう出来たのだが、その優しい手に身を委ねていたミモザだった。



―・―*―・―



 成人の宣詞を受けたミモザは、ピーティと共に鍛練場に戻った。


「今日は、まだ落ち着かないでしょうからね、無理はなさらないでね。

 調整は息子と孫達がしますからね。

 ああ、来たわね」


 銀と黒と赤の竜が飛んで来て人姿で着地した。

「では、オニキス、軽く手合わせしろ」


「はい。ミモザさん、その剣で」


「はいっ!」


「普通にしてくれよな?」


 声が違う……それに、ひとり足りないわ。


思いつつ、オニキスについて行った。


「では、始め!」


剣の音が響き始める。


「カーマ、神眼でミモザさんの気を見ていてくれるか?」


「はい」


「オニキスも宣詞したばかりだからな。

 俺はオニキスを見る」


「ブルーは?

 会わせてはいけないのか?」


「知っているのか?」


「少し……」


「まだ、なんだろうな」


「そうか……」



―◦―



 ブルーは大婆様と話していた。


「彼女もラピスの同腹なんですね?」


「そうじゃ。

 卵のうちに山奥の集落に隠され、本当の親を知らずに育ったのじゃ」


「個紋も、ラピス同様、封じられていましたね」


「アンリの個紋を封じたのは正解、という事じゃろぅのぅ」


「きっとそうですね。

 俺は……彼女と接してはならないんですね?

 だから俺だけ引き留められたんですよね?」


「そぅではのぅての、気になっておるじゃろぅと思ぅたまでじゃよ」


「でも、ラピスは眠ったままになってしまったし、アンリの周りには魔物が絶えないのが現実です。

 俺が接しさえしなければ、今も平穏に暮らせていた筈なんです」


「それは、ちと違うじゃろぅのぅ。

 姉妹は卵のうちから狙われておった。

 ブルーが接する事がのぅても、親族全てを失ぅてしもぅたのじゃぞ?

 (アンリ)は孵化せぬよぅ封じられておったのじゃし、ブルーのせいなどでは有り得ぬぞ」


「それでも……接しないようにします」


「ラピスが目覚め、アンリに全てを話し、落ち着いたならば、会わせてやればよいじゃろ」


「そうですね。

 でも、良かった……ラピスには2人も妹が居るんですね。

 孤独なんかじゃなかったんですね」



―◦―



「気に輝きが出た」


「ふむ。オニキスより早かったな。

 気を送っているのか?」


「少しだけ。呼び水にもならぬ程度だ」


「それで早かったのか……」


「いや。本人の力だ」


「オニキスは鍛え直さねばならんな」


「そうだな」


「そこまで! 二人共、こちらに!」


 ミモザとオニキスは向かい合って礼をし、駆けて来た。


「オニキスはカーマと手合わせだ。行け」


「ゲッ……」「行くぞ」

「休憩ねぇのかよぉ」「必要か?」

話しながら行き、剣を抜いた。



「今日は、仕事は?」


「夜勤です」


「ならば、ここまでだ。

 最初から無理をしてはならん」


「はい! ありがとうございました!

 あの……明日は休みですが……」


「ならば続きは明日だな」


「はい! 宜しくお願い致します!」


「仕事まで、あの二人を見ていればいい。

 余裕が有るなら神眼でな」


「はい♪」





青「なんか伝わるんだけど?」


ミ「静かにしているわ♪」


青「視線が煩い」


ミ「だって横顔が綺麗なんだもん♡」


青「綺麗とか言うなよぉ」


ミ「素直に言ってるだけなのにぃ」


青「分かったよ。続きは後にするよ」


ミ「正面も素敵♡」


青「ミモザもね」


ミ「やん♡」


青「喜ぶんだ……」


ミ「どうして呆れるのよ?」


青「俺かと思えるくらいだったり、全くの

  別人になったり、混乱してしまうよ」


ミ「私にもよく分からないの」


青「だから言うのもどうかと思っていた

  んだけどね……」


ミ「言ってよね♪」


青「ミモザは、俺とは別人だと神様が

  お認めになった。確かに素材は俺だけど、

 『別人』なら卵は出来るのかもしれない」


ミ「確かめてみる?」


青「結婚したらね」


ミ「うん♡」


青「『今』とは言わないんだね」


ミ「そういうのはアオらしくないもの」


青「ご理解頂けて光栄至極で御座います」


ミ「うん♡

  それにね、アンズも成人待ちだし、

  アオなら、お姉様とも何とかする筈よ。

  ううん。絶っっ対! 何とかするわ。

  だから私は、その後がいいの。

  私にも出来るかどうかも分からないけど

  試すのは、それからがいいの」


青「そういうところ、好きだよ」


 嬉しさが溢れる細めた瞳が迫る。

微笑み返したミモザも瞳を閉じた。


青(でもね、無理はしないでね)


ミ(そういうところ、大好き♡)


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