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『ミモザ色の風』11

 ブルーはミモザと接すると決めたので

しょうか?


「行こう。早く出ないとね」


 大講堂の講壇から下り、控室に入るなりブルーは、そう言ってミモザの手を取った。




 白い石造りの場所に出た。


「ここは?」


「竜骨の祠。

 王族のご先祖様がいらっしゃる場所だよ」


「お墓!?」


「一応そうなるかな?

 ここがいいかな? 座ろう」

笑った後、笛を取り出し、奏で始めた。



 3曲奏で、笛を仕舞う。

「ここで、この曲を吹けば、ご先祖様方は

『ああ、またあの子孫が休憩しに来たな』って思ってくださるんだ」


「そういう儀式?」


「そんな御大層じゃないよ。ただの挨拶。

 そうしないと『用件は?』って出て来てしまうからね」


「誰が? もしかして……幽霊?」


 ブルーの小さな笑い声に、別の小さな笑い声が重なり、ミモザが恐る恐る振り返った。


「リーフリィ様、すみません。

 場所をお借りします」

ブルーが笑顔のまま頭を下げた。


ミモザも慌てて礼をした。


『どうぞ、ゆっくりなさい』

穏やかな微笑みを湛えた男性は奥へと向かい、ゆっくりと薄れて消えた。


「え……?」


「気にしないでね」


「神官様?」


「気になるんだね」くすくす♪


「何方なの?」


「先代の最長老様だよ。

 今の最長老様のお父上様なんだ」


「最長老様の、って……あ!

 引退なさったのよねっ!?」


「引退と言えば引退なんだけど――」


「ダメダメダメ! 言わないでっ!」


「だから気にしないでね。

 とにかく、ここは王族のご先祖様方がいらっしゃるから、結界も強固なんだよ」


「もう振り向かないんだからっ!

 気にしちゃダメ! 気にしない気にしない……」


「生きてる人と何も変わらないんだよ。

 お優しい方々だから大丈夫だよ」

震えているミモザに近寄り、その肩を抱いた。

「こうすれば大丈夫かな?」


ミモザが瞬間的に固まった。


「ん?」

ブルーが覗き込むと、真っ赤になっていた。


「震えは止まったね。

 でも、どうすればいいんだろう……他に結界の強い場所は……他の祠は使っているのか。

 困ったな……あ、離れればいいのかな?」

触れていた右手を離し――


「ダメッ!」

ミモザに掴まれた。


「そう?」もう一度、肩を抱いた。




「それで……気になって仕方ないんだけど、どうしたんだい?」


「え?」


「この前の講演会、来ていたよね?

 でも聞いてなかったよね?

 君の気、物凄く乱れていたよ。

 何があったんだい?

 俺が王子なのが、そんなにショックだった?」


「それは……確かに……でも、それよりも……」



「それよりも?」


「言えるわけ――っ!?」

勢いよくブルーの方を向いてしまったミモザが動きを止め、ブルーの左肩を見詰めていた。

「……また光ってる……」


「また?」


「あ……先生の封印は解けてないのね……」


「封印? どういう事?」


「私……初めて先生を見たの、エルムさん家じゃないの。森の中なの。

 魔物から逃げてて、先生に助けてもらって、怪我も治してもらって、一緒に買い物して、山に送ってもらったの。

 そしたら猟師のおじさん達が大怪我してて、一緒に治療したの。

 ……その記憶、封印されてたの」


「そうなんだ……」


「その時、あ、森で助けてもらった直ぐ後ね、同じように先生の王紋が光ってたの。

 それ、見せてもらったから、王子様だって最初から知ってたの。

 でも一緒に買い物して治療もしたの。

 それが、とっても幸せで……すっごく嬉しかったのに……ずっと忘れさせられてて……だから……それ、思い出しちゃったから私……」


「泣かないで……君が泣くと俺も辛いから……」


「先生!?」

グラリとしたブルーをミモザが支えた。

「泣かないから、しっかりしてっ!」

回復と浄化を全力で当てた。


 しかしブルーは気を失ってしまった。


「先生のご先祖様! 助けてください!」

放つ光で輝きの塊となりながら、後ろに向かって叫んでしまっていた。


 リーフリィが現れ、やわらかな碧色の光で二人を包んで微笑んだ。

『心配には及びませんよ。

 心の内で何かと戦っているだけ。

 そのまま、ミモザの光で包んでいてあげなさい』


 リーフリィはミモザの左肩に触れ、

『まだまだ強くなれます。励みなさい』

優しい微笑みを向けたまま薄れていった。



 先生、頑張って! 死なないで!

 勝てなくてもいいからっ!

 思い出せなくてもいいっ!

 何でもいいから戻ってきて!


 そんな言葉を必死で繰り返していた。何度も何度も――


 大好きなんだからっ!


「うん……ありがとう」抱き締め返された。


「先生……」


「聞こえていたよ。ありがとう」


「聞こえて……」真っ赤に染まる。


「うん。聞こえてたよ。

 大きな力をありがとう。俺も……好きだよ」


 至近距離で見詰められ、耐えられなくなって俯こうとしたが、ふわりと止められた。


見えはしないが、顎の下にぬくもりを感じた。


そのぬくもりが、ゆっくりと唇を上げていく。


睫が触れそうな近さでブルーの瞳が微笑する。


そこでやっと見開いていたと気付き、閉じた。


唇が重なる。


幸せと喜びが溢れると同時に、光が迸った。



―・―*―・―



 外が暗くなっていた。


 しかし、二人の光で満ちている祠の中は、まだ昼間のようだった。


 ブルーが少し離れて微笑むと、ゆっくりと身体を離した。


「残念?」くすっ。


「……意地悪」ぷいっ。


「可愛い」スッと横抱きにした。


「えっ!?」


「たぶん……いや、間違いなく、また封じられてしまうから。どうせ束の間なら、ちゃんと伝えておきたいんだ。

 恥ずかしがってなんかいられないんだよ」


「……やっぱり、また……なのね……」


「認められて解いてもらったんじゃなくて、抉じ開けてしまったんだからね。

 今度は君――ミモザと接した記憶の全てを封じられてしまうだろうね」


「そ……んな……」


「あの山の事も、他の山に重ねられて、大学での事も、ミモザ抜きにされてしまうんだろうと思うよ。

 でも……それでも、思い出しておきたかったんだ。

 俺にとっても大切な記憶だから」


 そう言って微笑み(悲しみ)を向けると、ミモザの顔を自分の胸に押し当てた。


「大切過ぎるから避けていたんだから……」




 不意に髪を撫でていた手が離れた。

「そのまま少し待っていてね」


「何をしてるの?」


「見ないでね。持ち去られたくないから」


何かを書いている音だけが聞こえた。


「すぐ戻るから待っていてね」曲空。




「お待たせ」戻るなり抱き締めた。


 不安そうに見上げるミモザに微笑み、額に口づけた。

「大丈夫だよ。もっと強くなればいいんだから。

 全てを封じられても、きっとまた出会えるよ」


そう微笑んだブルーが険しい表情に変わった。


「どうしたの?」


「……うん……」


「また気絶しないでね?」


「それは大丈夫だよ。

 さっきは説明しようとしたら見つけてしまったんだ。

 でも……これは……どうやら俺には、もうひとり出会ってはいけない人が居るらしい。

 さっきので、微かな違和感を知る事が出来たんだ。

 強く意識して探さないと見つからないくらい小さな小さな違和感なんだよ。

 それが沢山あるんだ。

 どれも同じ人? 神様なのかな?

 とにかく同じ方が封じているらしいね」


「私にも、あるの?」


「……ひとつだけ。でも、これは記憶じゃなさそうだよ。

 きっと、これに絡んでる筈だよ」

左肩をミモザの左肩に寄せた。


 黄金光が迸った後、瑠璃光と呼吸を合わせるように明滅し始めた。


「初めて会った時に俺の個紋が反応したのも、やっぱりミモザだったんだよ。

 お姫様♪」


「えええっ!?」


「だってほら」


「光ってる……ね……」


「全ては、ここから始まっているのかな?

 コルクさんには個紋が反応していないから……」


「まさか……親子じゃ――」


「それは分からないよ。

 亡くなったお母様かもしれないんだからね」


「そっか……」


「でも、あんな山奥で暮らしているなんて、訳あり確定だよね?」


「……そうね」


「ここからは俺の勝手な想像なんだけど、封じられているのは神竜様の御力だよ。

 きっとね。

 だからミモザはもっと強くなれる。


 王族は孵化と同時に個紋の力で、子供が扱うには危険な大きな力が封じられるんだ。

 それを成人の儀で解放するんだよ。

 それとは別に、ミモザは大きな力を持っているんだ。

 おそらく近親に神竜様がいらっしゃるんだ。


 その事と王族である事を隠す為に、力も個紋も封印して、山奥に隠されていたんだよ」


「どうして? どうして隠さないといけないの?」


「それは知らない。

 でも解放してもらえるくらいに土台を作らないといけないんだろうね」


「まだ、そこまで出来ていないのね……」


「そうみたいだね。

 俺が直接には関与していない鍛練は、このまま継続できる筈なんだ。

 だから頼んである。

 俺は特級修練で実戦経験を積むよ。

 他にも修行するし、必ず強くなる。

 だから、きっとまた出会える。

 こんなにも好きなんだから」


「先生……」


「同時に生まれたんだよ?」


「いいの?」


「呼んで欲しいな」


「……ブルー……」


「ありがとう、ミモザ」



 吸い寄せられるように近付いた二人は、互いの切なさを込めた口づけを交わした。




「来ないわね」


「ここには来れないのか……少しの間だけ許してくれているのか……悪意で封じているんじゃないから、きっと後者だね」


「安心したわ。必ず会えるのね」


「強くなれればね」


「なるわ!

 あ、でも医師と看護師として出会うかもしれないから、そっちも頑張るわ!

 こうしてるのを許してくれてるんだから、きっと出会わせてくれる。

 たとえブルーを忘れていても、女の子は王子様を待ち焦がれる生き物なんだから!」


「真っ黒だったミモザちゃんも、色白の女の子になったから、王子様というのを待ち焦がれていたの?」


「真っ黒だった頃からずっとなんだもん」


「うん。気づいてたよ」


「やっぱり意地悪っ」


「男の子は大好きな女の子に意地悪したくなる生き物なんだ」


「大好き……ずっと?」


「うん。ずっとだよ。

 これまでもずっと。

 これからも、封じられても、ずっと……大好き……だよ。大好き……だけど、ね……」

苦し気に手の甲を額に押し当て、瞼を閉じて俯いた。


「ブルー!? ねぇ、どうしたの!?」





青「受け継ぐ、で思い出したんだけど、

  さっき、もうひとつ考えていたんだ」


ミ「うん。それも私の事?」


青「二人、かな?

  複製には、天竜にとって後付けとなる

 『神の力』だけは引き継げないんだ。

  それが出来てしまうと神のコピーだらけ

  になってしまうからね。

  でも、さっきの相殺には神の力が

  込められていたんだ。無意識だろうけど」


ミ「それって、まさか――」


青「うん。ルバイル様とセレンテ様の御子の

  力だろうね。

  それが使えてしまうんだ。

  ミモザに出来るのならアンズもね」


ミ「これからもっと協力できるのね♪」


青「うん。それは頼りにするよ。

  それと同時に、俺はルリと同様に二人を

  護る。何モノからもね。

  その力が知られれば、より狙われるのは

  目に見えているからね」


ミ「そういう理由だけ?」


青「他に何が――欲張り」


ミ「ね♡」


青「夫が妻を護るのは当然だからね」


ミ「素直じゃないんだからぁ」


青「似たり寄ったりだろ」


ミ「そうね♪

  だから普段は友達みたいな関係で、

  時々夫婦♡みたいなのがいいな♪」


青「また無理して……素直じゃないね」


ミ「お互い様~♪

  でもね、これも正直な気持ちなの。

  邪魔もしたくないのよ。本当に」


青「なら、遠慮なく、そうさせてもらうよ」


ミ「素直じゃないわね」


青「あのなぁ」


ミ「だから好き♡」ちゅっ♡


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