表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/347

『ミモザ色の風』4

 アオイが山奥の集落を訪ねたのは、

アオが孵化した数年後だったようです。

スオウは、この事を40年程後にずらしたんです。


「待ってくれ! 先生!」


「おい、エルム」


「俺のカミさん、ずっと臥せったままなんだ。

 医者なんて、こんな山奥なんかに来やしない。

 街に連れて行こうが、診せる金なんか持っちゃいないし……でも、家に有るモン全部で払うからっ!」


「お金なんて……とにかく診ます。

 お宅は……ああ、向かいですね。

 行きましょう」


「ありがたい!」


「おい、コイツらの治療費は?」


「要りませんよ」


 ブルーとエルムが駆け出し、コルクとオーカーが慌てて追った。

「クラレ、そいつら頼む!」


「あいよっ、アンタ!」



―◦―



「おい、サルビア。医者だぞ」


クラレの妻(サルビア)は眠ったままだった。


 ブルーはサルビアの呼吸を確かめると、また薬液入り光球を作り、次々と胸元に込め、左手で強い光を当てつつ、右手で患部を探していた。


「かなり前からですよね?

 症状が出始めたのは50年程前ですか?」


「やたらと風邪ひくようになったのは、そのくらいだ」


「そうですか……強い光を当てます。

 下がっていてください」




 すっかり暗くなるまでブルーは輝き続けていた。


 窓の外では、漏れる光に何事かと集まった男達が犇めき合っていた。


 輝きが収束する。


「ひとまず、命は保てました」

ブルーが振り返った。


「ありがとう! 先生!」


「そんな……」弱く微笑む。


「先生、こっちに座ってくれ」


「ありがとうございます」


「で、サルビアさんの病気って……?」


「それは……俺が半人前で……すみません」


「先生……禍黒(カコク)なんだろ?」

エルムの無理に笑おうとした顔が歪んだ。


コルクとオーカーが驚きで息を呑む。


「それは……」


エルムは大きく息をついた。

「俺とサルビアは軍医の助手をしていたんだ。

 治癒を持っていなくてな。

 助手しか出来なかったんだよ。

 軍だから治すのは怪我ばっかだったが、それでもな、病気の知識は経験から多少は有るんだ。


 サルビアは何も言わず、静かに痛みを堪えていたんだろ?

 もう手遅れなんだろ?」


「俺は禍黒を不治の病だとは思っていません。

 その治療に関する研究も大きな課題なんです」


「だったら、これからの為に、先生の研究にサルビアの身体を使ってくれ。

 禍黒に絶望しなくていい未来を作ってくれ。


 俺は……もう何年も前から、そうなんだろうと諦めていたんだ。

 だからもういい。

 家族が、こんな思いをしなくていい世に早くしてくれ。


 出来るなら、あまり苦しまずに逝かせてやってくれ……お願いします」


「そのお申し出は、とてもとても有難いです。

 ですので、半分だけ……受けさせてください。

 俺はサルビアさんも治したいんです。

 治療法確立の為に、試させてください。

 その部分だけ、お願い致します。


 禍黒は治せます。

 ただ……魔人の協力が必要なんです。

 地下界に行けなければ進まないんです。

 ですので大至急、地下界への道を探します。

 少し猶予が出来ましたので、その間に――」


「儂も魔人だが、協力とは如何な事だ?」


「えっ!?」「あっ!」

声に振り返ると窓際の壁に凭れて、初老の男が立っていた。


 声で気付いたコルクは、その男の視線に射竦められていた。


「魔人……?」


「人姿では信用出来ぬか?」


「いえ。その闇の気、確かに魔界の方ですね」


「儂はハザマの森から天界に入った。

 強い光を見付け、ここに来たのだ」


「神眼と掌握はお持ちですか?」


「持っている。

 魔人には珍しく治癒もな。

 基属性は闇。

 助けられるか?」


「十分過ぎる程です。

 どうかお願い致します」


「儂も、その治療方法が知りたい。

 禍黒には魔人も困っておるが、魔人には治癒持ちが少ないからな。

 基属性の光は必要なのか?」


「有るに越した事はありませんが、無くても治療出来る筈です。

 治癒さえ有れば、ですけど。

 それで、竜宝薬が必要なんですが、材料の中に地下界でしか採取出来ないものが有るんです」


「ふむ。書いてくれるか?」


 ブルーは頷くと、一度も手を止める事なくサラサラと材料の名を連ねていった。


 大人達は、全て覚えているのかと驚愕していた。

それと同時に、少年にとっては初めて見るであろう魔人、しかも威厳の塊のような男に、全く臆する事なく話していた事にも、今更ながらに気付き、驚きで言葉を失い、ただ互いを肘で小突き合っていた。


「これです」紙を差し出した。


「……ふむ。揃えると約束しよう。

 明後日、この場にて、でどうだ?」


「はい。では、その時に、ここで調合します」


「そうか。作り方も教えてくれるのだな?」


「当然です。

 お願いしているのは、こちらですので」


「儂が魔界に広めてしまってもよいのか?」


「お願い致します。

 どうか多くの患者を救ってください」


魔人は呆れたと言いたげな視線を向けた。

「少しは欲を持て。

 ま、悪いようにはせぬ。

 では、明後日だ」


「はい。

 宜しくお願い致します」


 深く頭を下げたブルーに、魔人は光を放ち、包み込んだ。

ブルーから力が抜け、倒れかけたのを魔人が支え、抱えた。


「な……何を……?」


「疲れ過ぎだ。故に眠らせた」

スタスタとエルムの家を出、コルクの家に入って行った。


「え? ・・・ええっ!?」

コルクが大慌てで追い、エルムとオーカーも続いた。




「なっ、な、何をっ!?」


「騒ぐのならば出て行け」

男達を睨んだ後、光球の上で眠るミモザを見、光球を膨らませると、同様にブルーを横たえた。


「ライラの子の内ひとりは、天人でありながら闇障(アンショウ)持ちだ。

 闇の神を倒す者なのだ。

 互いを護り合えるようになる迄は、『光』と『闇障』は接触してはならぬ。

 危険が増すだけだからな」


「その……『闇障』とは……?」


「闇属性を強化する天性だ。

 本来は魔人にしか存在し得ない天性なのだ。

 それが天人に備われば、光を闇に変える強力な天性と成る。

 闇の神は『光』諸共、脅威となる『闇障』を消し去ろうと目論んでおる。

 あわよくば『闇障』を支配し、己の配下とすべく動いておるのだ」


「もしかして、その子が『光』?」


「そうだ。

 だから二人の記憶を封じる。

 辻褄は合うようにしておく。


 この壺の中の物を出しておけ。

 壺は王都では日用品だ。

 買った、とでも言えばいい」


 コルクは渡された小壺をまじまじと見、逆さにしようとした。


「馬鹿者!

 手を入れて出せ。

 見た目の数百倍の容量が有るのだからな」


「「「え?」」」男達、顔を寄せ、覗き込む。


 魔人は、もう1つ光のベッドを作り、テーブルで寝ている男を移動させた。

「ここに出せばいい。

『光』は、医者を呼びに行こうとしていたコルクと出会った事にしておく。

 ミモザは魔物に追われた後、森で気絶していたのを発見した、としておけ。

 怪我人は、もう完治しておる。

 目覚めたならば各々の家に帰せ」


「……はい」

コルクは壺に指を入れ、触れた物を取り出した。

出すにつれ、その物は大きくなっていった。


出てきた大袋をエルムが覗く。

「食料品だ。村で買った物みたいだ」


「きっと、この袋もだな」

オーカーも覗く。


「小さな壺の中に大きな壺? あ、まただ」


「便利だから使えって事か?」


「そうみたいだな。どれも空っぽだ」

コルクは肘まで突っ込んで掻き回している。

「2つずつ持って帰れよ」


「いいのか?」


「いいよ。あ、本だ」パラパラパラ――


「何だ? もしかして教科書?

 見せてくれよ」


「ああ。ほら。

 何冊入ってるんだ? どんどん出るぞ」


「凄く詳しいぞ♪ 俺でも解る♪

 借りて勉強しようかな♪」


「アンタ、今更かい?」

嬉々としているオーカーにクラレが寄った。


「ほら、見てみろよ♪ 解るんだよ♪

 なんで学校では解らなかったんだろうなぁ」


「確かに解いてみたくなっちまうねぇ」


「だろ? コルク、借りるぞ♪」


「ああ。しっかし多いな……初等から高等まで?

 あ……医学書!?」


「ミモザちゃんも、治癒とやら持ってるんじゃないかい?

 さっき光出してただろ?」

クラレが光を出す真似をする。


「もし……サルビアが治ったら……看護師の勉強なら見てやれるかもな……」


「あの大怪我を治した先生が診てくれたんだから、治るに決まってるよ。

 エルムさん、元気出しなよっ」


「おい、お前、そんな軽々しく――」


「治るよ♪ すぐに笑顔が見れるよ♪

 アタシは、そう信じてるよ♪」


「治してやる。

『光』と儂が治療するのだ。

 治らぬなど有り得ぬ。


 その教科書は『光』が作ったものだ。

 地方には学校に通えぬ子が多いと知り、教える者が居らずとも学べるよう、工夫を凝らしたようだ。


 壺と教科書は、王都からの行商人に会い、買ったとでも言え。

 ま、教科書は此奴が配っておる物だ。

 行商人にも手当てを渡し、配らせておる。

 だから此奴が見ても不思議には思わぬ。


 その壺は、生き物は入れられぬ。

 人を運ぼうなど以ての外だ。死ぬぞ。

 それだけは気をつけろ。

 もしも落ちたなら、直ぐに出ればいい。


 今後はエルムの家に直行する。

 ミモザと『光』を会わせるな」


「その……『光』――その子は一体……」


「……まぁ、王孫を育てておるのだから、このくらいでは動じぬであろうな。

 此奴は、この国の第三王子だ」


「「「「えええっ!?」」」」動じた。


「本人は名乗る気など無さそうだからな。

 そっとしておいてやれ。

 今は、ただの医大生で医司長補佐だ。

 医師試験には合格したが、大学院を出る迄は医師としては働けぬそうだ。

 しかし腕は確かだ。任せておけ」


「ミモザと同い歳、、ですよね?」


「そうだ。同時に孵化した。

 ここに来るのが遅れたのは、先にブルーの所に行っていた為だ。

 さて、そろそろ先程の続きを遣るぞ。

 エルムの家に移動だ」


 魔人(妖狐王)はブルーを抱えると、来た時と同様に、スタスタとエルムの家に入った。



―・―*―・―



 妖狐王は、ブルーとは何事も無かったかのように挨拶を交わし、去った。


「サルビアさんは明日の朝には目覚めると思います」


「目覚めるのかっ!?」


「はい。病を抑えてはいますので。

 ですが、まだ動けないと思います。

 安静に、お願いします」


「分かった!」


「それでは、明後日に――」


『アンタ、コルクさん』コンコンコン。


「どうした? クラレ」

オーカーが扉を開けると、クラレの後ろに怪我をしていた3人が立っていた。


「クラウドさん達、次々と起きちまったんだよぉ」


「帰っていいですよ。完治していますから」


「お前らを治した先生だよ」


「「「子供!?」」」


「だけどな、ちゃ~んと先生なんだよ。

 サルビアさんも治してくれるそうだ」


「マジかよ……あ! ありがとうございます!」

「「ありがとうございます!」」


「治すのは当然ですので、お礼なんて要りませんよ。

 では明後日、参りますので」

照れて真っ赤になったブルーは、逃げるように窓から飛んだ。



「ホントに子供だよな?」


「ミモザと同い歳だ」


40歳(4人歳)!?」「嘘だろっ!?」

「あっ! そのミモザちゃん、寝てたんだが」


「逃げ疲れただけだとよ」


「「「よかったぁ~」」」へなへなへな――


「ミモザには、あの先生の事は言うなよ。

 会わせる気なんて無いんだからなっ!」


「まさか……」

「もう結婚なんか心配してるのか?」


「そーだよっ! 悪かったなっ!」


「あの先生ならいいじゃないか」「なあ?」

「医者となんて玉の輿だろ?」


「ミモザは嫁には出さないんだっ!」


「親馬鹿だ……」「バカ親だろ」

「とにかくバカだよな……」「「ああ」」


「何とでも言いやがれっ!!」





青「あれは心の距離を縮めようと思って――」


ミ「そういう時、誰にでもあんなふうにするの?」


青「ミモザだからだよ。

  現に、こうして普通に話せるように

  なったじゃないか」


ミ「確かにね……心の壁が弾けたわ」


青「成功したんだから許してよ」


ミ「私に成功したって事は――」ずいっ。


青「おいっ」座ったまま後退る。


ミ「アオにはまだ壁が有るわ」


青「待てっ」


ミ「私の壁だけ壊すなんて許せない」


青「待って! え――」動けない!?


ミ「同じ技が使えるのよ♪

  アオに限っては弱点も知っているわ♪

  だから解けないでしょ♪」うふっ♪


青「んっ――」


ミ(大好き♡)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ