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『ミモザ色の風』1

 オマケ第2弾です。

スオウ=バクテル作『ミモザ色の風』です。


「エリカ! リリィさん!

 2人はその()達と逃げろ!」


「兄さんも!」


「俺は元軍人だ!

 卵1つくらい護りながらでも戦える!

 とにかく逃げろ!」


「伯父さんも一緒に!」


「この()は護り徹す! 早く行け!」


 3竜が各々に卵を抱え、必死で逃げていた。

前を飛ぶ赤紫と白の竜は女性。その背後を護るように飛んでいる緑竜は男性だ。


「リリィさん、先に、この2つを隠しましょう」


「お義母さん、でも――いえ、そうするしかないですね……あの森へ!」


 女性2人は森へと飛び去った。


 残った男は、卵を袋に入れて背負い、迫り来る追っ手達の方を向いた。


「俺が相手だ!」



―◦―



 見えていた森を抜けた女性2人は、住んでいる村を迂回し、山裾に広がる森へと飛んでいた。


 村外れの畑から青紫の鱗光が飛んで来た。


「リリィ!」


「あなた! 伯父さんが、あの森の向こうで!」


「解った!」


 卵達の父親は、残って戦っている伯父の方へと飛び去った。



―◦―



「フォレス伯父さん!」


「ライラ君! この()を!」


卵の父(ライラ)が投げられた袋を受けた。


「逃げろ!」


「でも、この数では――」


「だから逃げろ!」


その時、輝きが辺りを白く変えた。


「「えっ!?」」


そして景色が戻る。


 フォレスとライラの前では、碧光を纏った大きな白狐が、威厳ある鋭い眼光を向けていた。


「お前達を襲うつもりは無い。

 その卵達は、闇の神に狙われておる。

 故に同時に育てるのは困難を極める。

 ひとつは間も無く孵化する。

 それは止め様が無かった。

 護り育てるのは容易くは無いが、儂も、神も協力する。護り抜け。


 母親が抱いていた卵は、護れる者が現れる迄、孵化せぬよう、神が封じた。


 その卵は百年程、眠らせておく。

 百年あれば長子も其なりに成長しておるであろうからな。

 フォレス、お前が隠して護れ。

 卵の母親と、お前の妹には伝えておる。

 今直ぐに身を隠せ。


 ライラ、戦い方を教える。

 付いて来い」


 圧倒的な力の差を感じたフォレスは、白狐の言葉に従い、袋を抱えて山へと飛んだ。




 ライラが白狐に付いて行くと、森の中でリリィが待っていた。


(こども)達は?」


「私の両親の家よ。

 お義母さんはお義父さんにお願いしたわ」


「今、卵には神が付いておる。心配無用だ。

 二人は神の血族だ。だから戦える。

 子供らの方が神の血を強く受け継いでおる。

 だから狙われておるのだ。

 護る為、その力を開き、鍛えよ」


「神……の血族……?」


「先祖に神が居る。それだけだ。

 そう珍しい事では無い。

 竜の王族は皆、そうなのだからな」


「王族の皆様は、そうかもしれませんが……」


「お前らも王族だ、と言っているのだが?」


「「ええっ!?」」


「神よりも王族に驚くとはな」


「神は、あまりに現実味がなさ過ぎて……」


「言葉にもならなかったのか?」


「その通りです。

 それで……貴方様も神様なのですか?」


「いや。ただの魔人。妖狐の王だ。

 地下界を救って欲しいと、命懸けで竜の神に頼みに来たのだが、救う者は未だ生まれておらぬと言われたのだ。

 だから協力せよ、とな。


 儂は国を護る為、お前らに協力する。

 それだけだ。では始めるぞ」



―・―*―・―



 フォレスは退役した軍人仲間達と共に、山深い小屋に住まい、木伐(きこり)や炭焼きをして暮らしていた。


 炭焼き小屋から最も離れた小屋へと降下し、フォレスが逃げ込むように入ると、裏口から親友のコルクが慌てた様子で、しかし音を立てずに入って来た。


「また襲われたのか?

 お前、行く度に襲われてるだろ」囁く。


フォレスは頷き、袋から卵を出した。


「お前、また卵を拾ったのか?」


「いいや。この()は、あの卵の子供だよ」


「妹さん、ちゃんと育てたんだな」


「ああ。死んだ子と同じライラって名にして、実子として育てたよ。

 そのライラの子、3つの卵のうちの1つだ。

 卵達は魔物に狙われているんだ」


「狙われてるのはフォレスじゃなくて卵だったのか?」


「そうなんだ。

 だから、この卵は俺が隠して護る。

 親には会えないが、死ぬよりはマシだろう」


あの卵(ライラ)って、誰の子だったんだろうな……もしかして――」


「それは有り得ない……と信じたい。

 前女王様は未婚だったんだからな」


「でも、現王妃様は前女王様の御子だと噂されてる。そっくりだからな」


「確かに……ライラも雰囲気が似ている。

 しかし、認めてしまえば俺は大罪人だ」


「ちゃんと育てたのに、それはないだろ?」


「報告もせずに持ち帰ったんだから、卵泥棒だよ。

 この卵を護るためには認める訳にはいかない」


「黙認した俺も同罪だよな……」


「もしもバレたら俺だけが勝手にしたと言う。

 その時はコルク、この卵を頼む!」


「そんなに強く頼み込まなくても見殺しになんて出来るかよ。

 ここいらに住んでる皆で育てよう。

 それはそうと、この卵……生気を感じないが生きてるんだろうな?」


「隠す為に100年くらい眠らせるとか、そんな事を言ってたな……」


「誰が?」


「大きな白い狐の……神様?」


「はあっ?」


「なんかそんな感じの威厳たっぷりな狐だよ。

 一瞬で魔物の群れを消したんだよ。

 だからきっと神様だ」


「そんな強いんなら卵3つとも預けりゃいいんじゃないのか?」


「預かってくれるような雰囲気じゃなかったんだよ。

 おっかない目に睨まれて、逃げ帰ったようなもんなんだ」


「身内で護れってかぁ。

 でも100年後が楽しみだな♪

 男の子だったらビシバシ鍛えてやるぞ♪」



―・―*―・―***―・―*―・―



 111年後――


「おい鳴いたぞ♪」


「揺れてるよな?」


「揺れて――あっ♪」


「ちょっと割れたけど、どうすりゃいいんだ?」


「殻つついて割るんだっけか?」コツコツ。


「出てきたっ♪」「黄色だなっ♪」


「「かっわいいなぁ~♪」」


「男? 女? どっちだ?」


ぴぃ♪


「「どっちでもいいか~♪」」


きゅる♪


 コルクが恐る恐る手を差し伸べると、小さな黄色い竜は身動ぎして殻から出、その掌に乗った。


ぴきゅ♪


「ど、どうすりゃいいんだ?」


「夜明けまで、このままか?」


「その前に誰か起きるだろ」


「そうだな。待とう」


コンコンココン。『何を騒いでるんだ?』


「あ、オーカー入れよ」


ギィ~。「ああっ♪ 孵化したのか♪」


「可愛いだろ♪」


「まだ咲いてないけど、この辺りに咲く、木の花みたいな色だな♪」


「あの花、なんて名前なんだ?」


「知らんが、似てると思わないか?」


「似てるから、その花の名前にしたいんだよ」


「そっか」


「アンタ達、扉も開けっ放しで、何騒いでるんだい?」


「「「あ♪」」ちょうどいい所に♪」


「おや? とうとう孵化したのかい!

 それならそうと――お湯は?

 沸かしてないのかい?

 これだから男ばかりってのは――ホントしょうがないねぇ。

 アンタ、水を汲んで来ておくれよ。

 コルクさんは火を起こしておくれ。

 エルムさん、柔らかい布は有るかい?

 (サルビア)さんを起こすんじゃないよ!

 風邪ひいてるんだからねっ」


男達はバタバタと散った。



「クラレさん、布って、これしか……」


「十分だよ。この子専用にするからね。

 他の事に使うんじゃないよ。いいね?

 さぁ、スッキリしましょうね~」


隣の奥(クラレ)さんは、慣れた手つきで小さな黄竜を沐浴させた。




 そして、夜が明ける頃、小さな黄竜は籠の中で丸まって、心地よさげに眠ってしまった。


「それで、名前は決めたのかい?」


「ここいらに咲く花、あれ何て名だ?」


「ああ、そっくりだねぇ。ミモザだよ」


「それにしようかと――」


「いいんじゃないかい? 女の子だしねぇ」


「女の子か!?」「そうか!♪」


「おやおや、知らずに花の名前にするつもりだったのかい?」


「色が似てるから、なぁ?」「うん」


「でも、いいのかい?

 フォレスさん抜きで決めちゃって」


「居なくなって、もう15年だ。

 今日、明日だけ待って帰らなきゃ……なぁ?」


「そうだな……名無しちゃんには出来ないよな」


「確かにねぇ……生きてるのかねぇ……」


「そう、信じてるけどな」


「木の塊を入れた袋を抱えて」

「魔物を引き連れて飛んでったきり」

「あれからもう15年かぁ」


「そうか。フォレスは行方不明なのだな?」


「「「「ええっ!?」」」」


「儂の事はフォレスから聞いていないのか?」


「きっ、狐の神様っ!!」


「ただの妖狐だ。

 孵化を察知したのでな。来てみたのだ。

 その娘が、闇の神に見つからぬよう、力と個紋を封じておく。

 守護珠は王族の最長老に預けておく。

 術を施す。少し離れよ」


「個紋!?」「って、やっぱり!」


「想像通りだが、知らぬ振りを徹せ。

 その娘にも知らせるな」


「「はひいっ!!」」

コルクとエルムは思わず敬礼した。

オーカーとクラレ夫妻は抱き合って震えながら、ただただ何度も頷いていた。


 大きな白い妖狐は、籠を中心とする魔法円を描き、術を唱えた。


 小さな黄竜の左腕、肩の近くに浮き出た個紋は、強い光を放った後、見えなくなった。


「普通の子として育てよ。

 護るには最善の方法だ」


「は「は「は「はいっ!!」」」」


妖狐王は姿勢を正し、頭を垂れた。

「三界の未来の為、この娘をどうか護り抜いて頂きたい。

 血縁でも無い其方らに頼むのは筋違いも甚だしいが、血縁者も減り、他二人を護る事で精一杯なのだ。

 竜でない儂には協力以上の関与は出来ぬ。

 どうか、その娘を頼む」


「そんなに頭を下げなくてもっ」

「護りますからっ!」





 アオは戸惑うミモザを抱き上げると、

自分の部屋へと曲空し、ベッドに並んで腰掛けた。


青「ミモザ、俺に遠慮しないでよ」


ミ「ですが……」


青「俺の過去も想いも全て知っているからこそ

  だって解っているけどね、ミモザはもう

  俺の複製じゃない。

  ひとりの女性なんだからね」


ミ「ですが、お兄様は、お姉様を――」


青「確かにルリは俺にとって特別だよ。

  それは揺るがないけど……ミモザも

  アンズも、俺にとって特別な存在なんだ。

  アンズはまだまだ『妹』だけど、

  ミモザは最初から『妹』だなんて思って

  いなかったんだよ」


ミ「複製……ですよね?」


青「敢えて言うなら『己』だけどね、

  でも、それもなんだか違うんだ。

  言葉にするのは本当に難しいんだけど、

 『全てを共有して生きてきた別個体』

  そんな感じの特別なんだよ。

  ミモザは生まれたばかりじゃなくて、

  ずっと一緒に生きてきたんだ」


ミ「一緒に……これからもいいのですか?」


青「もちろんだよ。

  好きな人ができたら行っていいなんて

  言ったけどね、実は手離したくないんだ。

  我が儘で勝手な感情だし、自己愛とか

  父性愛なのかもしれないんだけどね」


ミ「それでも……嬉しいです」俯いた。


青「ミモザ? 俺が怖い?」


ミ「いえ……怖いとしたら、私自身の感情……」


青「嫉妬とか?」


ミ「お姉様も好きですので、それは……でも

  これ以上、お兄様を好きになってしまうと

  有り得るかもしれなくて……それが……

  とても怖くて……」


青「寂しくならないようにすればいいんだね?

  俺なんかを好きになってくれて嬉しいよ。

  ちゃんと向き合うからね」


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