客演と挿入歌
早朝にアオは、神界から戻ったアカと
話していたようです。
シノビマンの戦闘シーンを撮りまくって3日が過ぎた。
兄弟の控室で待機しているとアカが現れた。
「あ♪ アカ兄お帰り~♪」ぎゅっ♪
「うむ。アオ、ルリ殿は?」
「天界だよ。
ミモザとアンズが出ないといけないからね」
「そうか。
長く留守にして、すまなかった」
「いいよ。ルリも楽しんでいたからね」
(さっき話した通りだからね)
「アカ兄♪ 神界どぉだった?♪」
「竜宝の村の長老様にお会いした」
「へえぇ~♪ お話しした?」
「これを頂いた。闇護竜だ」
「「護竜!? もう1枚あったの!?」」
「見事な揃いっぷりだな」フッ。
「「しかも闇って!?」」
「今夜、工房で話したい」
「行く~♪」「うん。お願いね」
♯♯♯
「では、シーン0055、お願いします!
5、4、3、、!」スタート!
おしゃべりしつつ街を歩く2人の女の子が、レストランの常連客とすれ違った後、闇くノ一に拐われるシーンだ。
つまり、十九社長のイチオシは3人で、常連客の男は毎回チラ出する予定の俳優で、女の子達はデビューしたばかりの新人アイドル。女優ではなく歌手だ。
悲鳴が聞こえ、常連客が振り返ると、闇くノ一達が女の子を肩に担ぎ、走り去る。
台詞も無い、それだけのシーンなのだが――
「カットォ!!!!
悲鳴が悲壮感出過ぎだっ!!
子供が泣くだろっ!!」
演出家とメイク係がアイドルに駆け寄る。
メイク直しと指導が同時進行だ。
「シーン0055テイク2、お願いします!」
♯♯♯
兄弟は少し離れて撮影を見ていた。
(休憩、長くなりそうだね)
(アカ兄♪ お話しして~♪)
(匠神殿で作業していると、竜宝の村の長老様が最高匠神様を訪ねていらしたのだ)
(最高匠神様にもお会いしたの?♪)
(お会いした。金剛様は彫刻の匠神様だ。
宝石の加工技を認められ、匠神様に成られたと伺った。
長老様の方だが、竜宝の村は青身神様が竜宝を開発する為に造られた村なのだそうだ)
(光神様の村なのかい?)
(そうだ。光神様は大神戦で行方不明となられる迄、その村にいらしたそうだ。
兄神様と姉神様は、常は旅に出ており、数万年おきに現れ、知識を広めては、また旅に出るのだそうだ。
弟神様は、様々な神族、人族に姿を変え、力を蓄え、光も闇も自在に使っていたそうだ。
その弟神様が生み出したのが闇護竜だ。
光神様の護竜を真似、闇を護る力を加えたものらしい。
ただし、これもまた眠っている)
(起きてくれるかな?)掌を当てる。
(アオ兄、アカ兄、あれ!)(む?)(え?)
サクラが指す方を見ると、十九社長と監督が揉めていた。
(行こう)(うん!)走る。
♯♯♯
「客演ナシにするか、放映回数を減すか、来クールに変更するか、3択だっ!!」
「新人なんですから、そこは大目に――」
「見てられないスケジュールなんだよっ!!」
アカが社長を、アオが監督を引き離す。
「落ち着いてください!
こんな無駄な時間はありません!」
サクラは泣いているアイドル達を慰めていた。
「悲鳴のひとつも上げられないダイコンなんて要らないんだよっ!!」
「きゃっ!」「誰かっ!」
「ソレだよソレっ!♪ って、え?」
「助け――ぅ……」
「ラスト1テイクだっ!」
監督の声で、ザザッと皆、位置に着く。
サクラはセットの店に入り、アオとアカは社長を引っ張って離れた。
「シーン0055テイク7!
5、4、3、、!」今度こそ頼む!
(5回は我慢したんだね)(そのようだな)
そして、無事に撮り終えた。
サクラが店から出、闇くノ一達が駆けて来た。
「お疲れ様。行こう」
アオが微笑み、闇くノ一達が頷いた。
「次の準備、お願いしま~す!」
慌ただしくスタッフ達が動き始める。
社長と客演達を残し、その団体のまま、兄弟の控室に戻った。
♯♯♯
「悲鳴はサクラで、闇くノ一は皆だったんだね」
覆面を取った兄弟が緋月煌した。
「月衆さん達、2テイクでヘロヘロだったんだよ」
「だから俺達が代わりに、なぁ」
「回復は当てたので心配無用だ」
「人の女性に、人を担いで何度も走れなどと、あんまりですよ」
「それで、ミモザとアンズも?」
「「はい♪」」
「月衆半分だったからなっ」
「アオ達は話している様子だったから声を掛けなかったのだ」
「んで、アカは、どこ行ってたんだ?」
クロの問いかけに、アカが無言で上を指したのを見て、
「神界で結界竜宝を作っていたんだよ」
苦笑したアオが答えた。
「では、今日から空き時間に結界を成すのだな?」
「はい。その打ち合わせをしていたんです。
それと、竜宝の村の長老様とお会いしたという話を聞いていたんですよ」
「竜宝の国じゃなくて村なのかぁ?」
ハクが竜宝の王達を見た。
「竜宝の国は宝魂の居場所で、竜宝の村は竜宝開発の為の場所なんですよ」
「アオ、サクラ、行きたくて仕方ないんだろ?♪」
クロが二人を突っつく。
「そりゃあね」「行きたいよねぇ」
「行ける。闇護竜は、その為の竜宝だ。
クロの為の竜宝に関しても御助言頂いた」
「オレの? また何か作ってるのか?」
「クロの供与を使えるものにする竜宝だ」
「領域を拡げるのか?♪」
「本来の供与を使いものにするのだ」
「本来? ええっ!?」口を隠す。
「そこに集まらぬようにする」
「それはそれで……」姫と、その……口実が――
「案ずるな。そこにも集めたければ集まる」
「恥ずいから言うなって!」真っ赤!
コンコン。『休憩のところ、すみません』
兄弟、監督でも助監督でもない声に、顔を見合わせる。
神眼持ち達は当然ながら確かめた後で首を傾げて、見合わせていた。
キンが扉を開けに行った。「どうぞ」
「次レストランシーンの詰めかぁ?」
「ハク兄さん、いきなり失礼ですよ」
「響タロさん♪ 入って入って~♪」
常連客役の俳優が来ていた。
が、すぐには入らずに後ろを向き、手招きした。
「二人が、どうしても謝りたいと――」
アイドル達の背中を押す。
「「先程は、すみませんでしたっ!」」
「そんなのいいからぁ。
さっきも役者じゃないんだから気にしちゃダメ~って言ったでしょ?」
「それも、なんですけど……」
「くノ一さん達から、何度も走ったのは輝竜の皆様だったって聞いて……だから……」
「気にすんなって~。
男なんだから、あのくらい何でもねぇよ」
「大丈夫ですので、お顔を上げてくださいね」
「あの……」
「なぁに?」
「「この後の撮影、見学させてください!」」
「監督さえ良ければ、私達に許可など要りませんよ。
響さんも、よろしいのですよね?」
「もちろんですよ」
『響タロ』こと響 太郎衛門が微笑み、頷いた。
「あ、助監督さん走って来てるよ~」
「準備できたみたいだね」
「輝竜さん、響さん。
『い』の屋内セットにお願いします。
客エキストラとしてアンズさんとミモザさんもお願いします」
「エキストラだったら、こっちの2人もいい?」
「座って食べるだけですが?」
「ね♪ やろ~よ♪」
「いいんですか?」「させてください!」
「静かに食べてくださいね。
あ、別人って事で、服とメイクは変えますね」
「「はいっ!♪」」
「助監督さん、この回の挿入歌なんですが、俺達の演奏で二人に歌ってもらっては如何ですか?」
「あ……いいですね♪
ミモザさんとアンズさんバージョンも、だったら監督が大喜びしますよ!」
「社長も、だろーなっ♪」
♯♯♯
十九社長は、やっぱり大喜びだった。
監督も喜んでいたが、難しい顔になった。
「毎回、客演毎に挿入歌を変える気なのか?」
「社長、音は録らせてもらえますよね?」
「勿論ですとも♪」
「でしたら曲は用意します」
「あ、そうか。本業は歌手だったな」
いいえ。王子です。
確かにもう何だか分からなくなって
いるような気はするんだけど……。
挿入歌の件が落ち着き、常連客と兄弟との絡みシーンの纏め撮りは順調に進んだ。
♯♯♯♯♯♯
♯♯ 中の国 動物病院 ♯♯
その夜、ルリは父を呼び出した。
【またアオ様とは別行動なのですか?】
(お父さんと話したくて、私が夜勤をすると言ったのよ。
アオはアカ様の所で禍石を分けているわ。
それも急いでいるんだから)
【それでアオ様の姿なのですね】
(あ……忘れてたわ)蒼月煌。
【今はよいのですか?】
(患者が来るまでは仮眠時間なの。
だからあまり悠長に話していられないのよ。
笛のコンテスト、フジ様から聞き出せた?)
【はい。どうにか。
複数団体が合同で開催するコンテストで、テーマは『癒し』。
薬師会も参加しており、フジも主催者側なのだそうです】
(審査員は?)
【天竜王太子にはフジから打診しているようですが、各国未定ですとか】
(サクラも加えてもらえない?)
【天竜王子として? それとも魔竜王ですか?】
(どっちでもいいわよ。
とにかくアオが単独で吹かないといけなくしたいだけだから)
【分かりました。フジに話してみます】
(今度は早くしてよ?)
【はい。……ルリは出ませんか?】
(どうして私?)
【アオ様と合わせている様子が、眩しい程に幸せそうですので……】
(アオを頂点に立たせるのが目的なのよ?
一緒に吹くのは、家でいくらでも出来るわ)
(何やら面白そうな相談をしているのだな)
(【えっ!?】妖狐王様、如何なさいましたか?)
(その話、儂も加わろう。
アオを『笛の三界王』にでもするか。
何れは正真正銘『三界王』にするつもりなのだからな)
(妖狐王様がアオを避けるのは、その為なのですか?)
(それは……確かに、そうなのやも知れぬ。
ま、さておきだ。此をアオに渡せ)
重そうな麻袋をルリの前に置いた。
(この感じ……眠らせている禍石ですね?)
(その通りだ。
城内の社に納められておったのだ)
(この為だけに直々にお越しくださったのですか?)
(集めた者に返しに来た。それだけだが?)
(集めた覚えは御座いませんが?)
(何れ判る。では、な)ニヤリとして消えた。
(どういう――)
【確かに、アオ様とルリの気を感じます。
とても微かですが、私がルリの気を間違うなど有り得ません】
(その記憶も封じられてる、って事?)
【そこまでは……】
(まぁそれはいいわ。
それよりも、笛のコンテストが大きくなってしまいそうよ?
お父さん、ルバイル様に伝えてよ)
【そうですね。この禍石は?】
(朝、私からアオに渡すわ)
【そうですか。では】消えた。
青「あ……」
桜「どしたの?」
青「ちょっと思い出して。外に出るね」
桜「ん。進めとくね~♪」
アオは工房の外に出ると、千里眼をスオウに
繋いだ。
青「ミモザ物語の進み具合は?」
蘇『もう連載してるけど?』
青「そうなの? 今回は読ませてくれずに?」
蘇『班長には渡したんだが?
喧嘩でもしているのか?』
青「ないよ。俺とルリが喧嘩なんて
有り得ないだろ」
蘇『それならいいけど。とにかく、班長の
了承を得たから、連載開始したんだよ』
青「そう……なら、雑誌を読むよ」
蘇『今、班長は?
複写して持ってる筈だけどな』
青「別行動だし、何も言ってくれていないけど、
喧嘩していないからね」
蘇『こんな夜更けに別行動?』
青「人界で夜勤なだけだよ」
蘇『今度は王子様の真実を書こうかな♪』
青「何だよ、それ」
蘇『バイトしててアイドルしてるなんて
世間的な『王子様』のイメージには
全く無いからな♪』
青「書くなよ」
蘇『今、アイドルの方は?
こっちでライブはしないのか?』
青「人界でしか活動しないよ。
今はドラマ撮影で忙しいんだ」
蘇『見たいなぁ』
青「見せないからな」
蘇『班長に頼もうかな♪』
青「頼むなっ!」
友を作らなかったアオにも、ちゃんと友が
出来たようです。