妃それぞれに対する想い
アオとルリは双青輝を実演しました。
♯♯ 天兎王国軍 演習場 ♯♯
アオとルリは双青輝として模擬演習した後、演習場を囲む高い塀の側のベンチに腰掛けた。
演習場では、各国護衛達の相手をミモザとアンズが楽しそうにしている。
(そういえば、人界では何も問題は起こらなかったのか?)
(どの国も、これまでに俺達が関わってきたからね。
それに魔竜王がサクラだって事は桜の宴で見知っているし、招待状を配った時に軽く説明しただけで御納得頂けたよ。
天界は大変だったんだろ?)
(妖狐王様がお助けくださった)
(えっ!?)
(アオが懸念していた通り、説明など聞く耳を持たぬ状態であった。
せめて一通りの説明を聞いてから騒げ、と怒りが湧いてきた所に妖狐王様が現れ、御説明くださったのだ)
(そう……)
(その後、天人達からの質問にもお付き合いくださり、戦い方を、という話から双青輝する運びになったのだ)
(そうか……妖狐王様にお礼を言いたいけど、俺だけは避けられているからなぁ)
(避けられてなどいない。常にお見守り頂いていると感じる。
何かは知らぬがご事情がお有りなのだ。
時を待つより他に無いのだろうよ)
(……そうだね)
(その時には、この封印も解いてくださるさ)
(封印?)
(母から聞いた。
私とアオは特級修練で出会ったのが初めてではないらしい)
(え?)
(その時、何か見てはならないものでも見てしまったのだろう。
感動する事は間違いないらしいからな。
楽しみにしている)
(もしかして幼い頃の記憶のあちこちに有る微かな楔のような違和感は、全て妖狐王様の封印なのか?)
(そうらしい。
アオの記憶に有る違和感は、初めて共心した時に気付いたのだが、まさか封印だったとはな)
(確かにルリの記憶には沢山の封印が有ったよ。
うん。確かに俺の記憶の楔と同じだけ有るね)
(ま、楽しみが増えたと思う事にしよう)
(本当にルリは大きいね)
(褒めてくれている、と素直に思っておく)
(ルリには敵わないよ)
(そうだろ?)ふふっ。(終わったようだ)
(当てているのは回復かな?)
手を繋いで演習場中央へと曲空した。
♯♯ 中の城 ♯♯
「おお、婿殿♪」にっこにこ♪
撮影を終え、曲空して来たクロを、殿の満面の笑顔が迎えた。
「遅くなってスミマセン」ペコリ。「あ、父上」
「千里眼で話していたのだがな、大事な話なので、コハクに引き継いで来たのだ」
「飛んで?」
「いや、サクラに頼んだ」
「いつの間に? あ、何でもねぇ」
ホント、断らねぇヤツなんだな。
「輝竜のスケジュールはワラワが確と覚えておるからの。
結納はオフに決めたのじゃ♪」
「ありがとな、姫♪」「うむ♪」
「爽蛇、連れて来た~♪ はい♪」
「あわわわっ! サクラ様っ!?」
「おお♪ 次代の家老殿♪」わははっ♪
「爽蛇が家老なのか?」
「然様なので御座いまする。
アオには確と許可を得ておるので御座いまする」
「それなら問題無い。爽蛇、頑張れよ」
「本当に本当に本っっ当にっ!
私なんぞでよろしいので御座いますかっ!?」
皆、機嫌良く、大きく頷く。
「まぁ、爽蛇だけに重荷を背負わせるなんて考えてないからな」
「匡鷹も連れて参った方が良かったか?」
「いや、まだいいだろ」
「静香、家老は二人なのか? 説明せよ」
「然様じゃ♪」
「あ、はい。爽蛇は天界でアオの補佐もしなければなりませんので、もうひとり、この国の方も家老にと考えているんです。
匡鷹は根性あるし、友達になれそうな、いい奴だから、頼もうと思っているんです」
「ふむ。虎縞津の、か。よかろう。好きに致せ。
それにしても静香よ。良い婿殿を見つけたな♪
天竜王様、どうか末長く良しなにお頼み申す」
「いえ、こちらこそ愚息の御指導、宜しくお願い致します」
「あっ、サクラ」「ん?」
「日程、コレでいいのか?」
「なんで俺に聞くのぉ?」
「オレより確かだろ?」
「キン兄に聞いてよぉ。連れて来る~」曲空♪
♯♯ 天兎王城 ♯♯
行きと同じく、塊になって曲空で戻った。
「その技は本当に素晴らしい技ですな。
それに、とても楽しい」
「ありがとうございます」
アオは天兎王と話しながら、曲空の為に触れていた天人達の手が離れるのを待っていたのだが、離れるどころか、腕やら外套やらをしっかり掴まれてしまっていた。
「どうか致しましたか?」振り返る。
「その技は竜にしか出来ないのですか?」
「いいえ。気と属性の鍛練は必要ですが、風と光属性でしたら可能と存じます」
「では! 我が国で御指南を!」
「是非とも我が国で御指導を!」
あとは一斉に叫び始めた。
「では、こう致しましょう」
水を打ったようになる。
「各国2名まで、集中指導致します。
風か光属性で、気の鍛練を積んだ方を私にお預けくださいますか?
その方が修得されましたら帰国して頂きますので、どうぞ広めてください」
騒めきが喜色に変わった。
「今日のところは明日の式典も御座いますので、これにて閉会とさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
同意を得る。
「では、長時間お付き合いくださり、ありがとうございました。
お送り致しますので、お並び頂けますか?」
♯♯ 中の城 ♯♯
「私としてもスケジュール的には問題は無いと考えます。
ただ、輝竜として、公表すべきか否か、その点は決めかねております」
キンが予定を書いた紙を置いた。
「皆、隠してるんだから、オレも同じでいいと思うけどな」
「この国の姫様なのだから、そうはいかぬ。
結納は隠せても、祝言となれば隠せぬだろう。
輝竜衆に受け入れて頂けるよう、知らせる方法を考えねばならぬ」
「アオに相談するよ」
「クロ、この己にとって最大事ですらアオを頼るのか?
先ずは自身と向き合い、考えてから相談するように」
「確かに……そうだよな。考えるよ。
でも、キン兄は輝竜したいのか?
辞めたがってるんだと思ってたよ」
「中途半端が嫌なだけだ。
遣るからには完璧を目指したいのだ。
ただ……強要は出来ない。それは解っている」
「そっか……うん。
ちゃんと考えるし、輝竜も修行も人界の任も、ちゃんとやる!」
「そうか」微笑み、頷いた。
♯♯♯
クロと姫は風穴に戻り、爽蛇は現家老に連れて行かれ、キンとサクラが洞窟に戻った後、中の殿・竜静とギンは酒を酌み交わしていた。
「竜静殿、他の兄弟に比べれば、まだまだ至らぬ点が多過ぎるクロですが、どうか長い目で見てやってください」
「いやいや、何を仰る。
あの真っ直ぐな目、快活さ、我が儘奔放な静香をも御し得る器の大きさ。
何れもこの国を担うに相応しい、天晴れな青年と存じておりまする」
「ありがとうございます。
しかし、先程のキンとの遣り取りだけでも、その差は歴然。
同い歳のアオには遠く及びません。
僅かに歳下のアカにもです。
何となれば、遥かに歳下のサクラにもです」
「しかし、伸び代は大きいと見受けておりまするが?
各々に向き不向きというものも御座いまする。
儂は、黒之介殿にこそ、この国を任せたいと思うておりまする」
「そうまでお認め頂けるとは、親として最高の誉れで御座います」
父二人は穏やかに笑い合い、酒を注ぎ合った。
「人界の酒、なかなかに良いものですな」
「天界の紅い酒も、美味の極みで御座る」
「この酒は、アオが何年も懸けて造り上げた薬酒なのです。
アオは医師として、薬の味にまで拘っているのですよ」
「どうやら、ギン殿最愛の御子息は、青右衛門殿なのですな?」
「そうなのかもしれませんね。
何度も助けられました。
頼りにしておりますよ」
「お育てになったのはギン殿で御座ろうに」
「いえ……王家の慣わしで、子は孵化して直ぐに自らが選んだ執事長と共に、城から離れて暮らすのです。
ですので、アオを育てたのは爽蛇なのですよ」
「此は此は!
静香は意外と見る目が有るのですな。
次代は安泰! 善きかな、善きかな!♪」
♯♯ スオウの家 ♯♯
「結局、呼び出してしまって、すまなかったな」
「いいよ、いろいろ頼んでいるのは俺の方なんだからね。
それで、聞きたい事って?」
「話し難い事だとは思うんだが……」
「とにかく言ってよ」
「実際のところ、副長としては、お妃様達それぞれに対して、どう想ってるんだ?
同じだなんて有り得ないだろ?」
「うん……そうだね……表現は難しいけど、恋愛という面では、どうしてもルリなんだ。
もちろん相棒としてもルリなんだけどね。
ただ、ルリは俺より上なんだ。
歳じゃなくて内面がね、遥かに上なんだよ。
だから、目標として見上げているんだ。
憧れ、追い付きたい、並びたい……そういう存在なんだよ。
アンズは、護りたい存在。
まだ子供で、とにかく可愛くて、一生懸命に背伸びしているのが健気で。
手を取って引いてあげたくなる存在なんだ。
ミモザは気が安まる存在。
対等に並んでいて、気負わなくていい、構えなくても解り合える存在。
性格的にも俺と一番近いのがミモザだと思っているんだ。
だいたいこんな感じかな?」
「そうか。
とにかく三人三様だが、好きなんだな?」
「そうだね……自分で自分にも説明できないんだけどね、好きなんだろうね」
「おいおい」
「ただ護らないと、ってだけでは結婚までは、いくらなんでもしないよ。
だから好きには違いないんだ。
こんなふうに暢気に漠然と考えられるのも、姉妹三人、仲がいいからなんだけどね。
だから何の心配も憂いも無いけど、もしも諍い合っていたら、俺はどうしただろうな、と思うよ」
「その点なら、班長が言ってたよ。
『そんな狭量な女などアオが選ぶものか。
そんな者は、アオが目指す未来を理解など出来よう筈も無いからな』だそうだよ」
「ほら、俺はルリには敵わないだろ?」
「そうか。そういう事か。
踏まえて書かせてもらうよ」
「踏まえるに留めてね。
妻達には知られたくないからね」
「たぶん、とっくに気付いてるよ。
女性は鋭いからな♪」
「そうか……特にルリは鋭利だからね」
「おいおい、聞こえてしまうぞ」あははっ♪
「ルリには聞こえていそうだね」くすくす♪
♯♯ アオの屋敷 ♯♯
「ルリお姉様? どうかなさったの?」
「ん? 少し疲れただけだ。先に休む」
「お兄様、どちらにいらしたのかしら?」
「スオウと楽しそうに話している」
「ミモザお姉様のお話ねっ♪」
「アンズは可愛くて仕方ないそうだ」
「えっ?」真っ赤♡
「お姉様♪ アンズ♪ お菓子が焼けたわ♪
あら? アンズ、どうしたの?」
「ミモザは安らげる存在だそうだ」
「え?」
「そうアオが言っている」
「あ……♡」
「ひとつ頂く。二人も早く休め」扉に向かう。
「「あのっ! お姉様の事は!?」」
「内緒だ♪」パタン。
銀「アオが素っ気なくしたり、ひねくれた事を
言うのは、『氷王子』と揶揄われた頃に
始まったのです。優しい子ですから、
傷付いたのと同時に、そのギャップに戸惑い、
優しさを恥ずかしいと思ってしまったから
なのだと思うのです」
静「こちらでは、とても優しい医者先生で
御座るのだが?」
銀「人界では、氷王子時代を知る者など
居りませんからね。
安心して素直にしているのでしょう」
静「然様で御座るか。幼い頃の心の傷が、
更なる優しさに繋がったので御座るな。
それに致しても、王子ともあろう御方が
揶揄われるなど、如何な事なので
御座るのか?」
銀「発端は子供同士の事なのです。
貴族などが城に子を連れて来た時には、
王族の子が相手をするのは常の事なのです。
上二人を揶揄うなど、子供であろうが
出来なかったようですが、アオ以下は
酷い事を言われていたようなのです」
静「黒之介殿も?」
銀「いえ。クロは早々に脱走しており、
役目を果たす事が無かったそうです。
アカも相手をせず、無言で背を向け、
ひとり何かを作っておったそうです。
それでアオだけが相手をし、揶揄われる
対象となってしまったようなのです」
静「それでも役目として遊び相手をしたので
御座るか……真面目で健気で御座るな」
銀「それでも腹は立っておったのでしょうな。
難解な医学書を読み聞かせて眠らせたり
しておったそうなのです」
静「ああ、それで『氷王子』と。なるほど」
銀「アオは幼くして大学に入り、様々な改革も
成しておりました。それが周囲には、
ある種の恐怖を感じさせてしまったの
かもしれません」
静「そして広まってしまったので御座るな?」
銀「そうなのです」
静「その下のご兄弟、となりますと、
藤之丞殿と桜左衛門殿で御座るな?」
銀「『フジ婆ちゃま』と『サクラ姫』です」
静「男子にとっては、かなりな屈辱では
御座らぬか!」
銀「その為に、フジは早々に薬師の修行に
出てしまいました。
サクラは別な理由で隠れ住む事になった
のですが、大喜びで行ってしまいましたよ」
静「各々に乗り越えたからこその今なので
御座るのですな」