成人式
前話はリハーサル前のお話。
今日は成人式当日です。
そして、城下で成人式が行われる日――
城の武道館に若者達が犇めいていた。
姫と志乃、神無月と氷月も参加している。
殿の祝辞と訓示が有り、成人として認められた証となる書状を受けた後――
ステージでは、輝竜が歌い踊っていた。
これを見ようと成人式無関係な若者達が武道館の外のスクリーン前に犇めいているのだった。
(アオ、この後は、新成人の挨拶だよな?)
(そうだよ。女性の代表は姫だよ)
(そっか……大丈夫かなぁ……)
(歴とした姫様なんだから心配要らないよ)
(男の代表もいるのか?)
(当然。若年寄殿のご子息だ)
(姫と並ぶのか?)
(気になっているのは、そこか。並ぶよ)
(そうなのか……)
(その後、奉納試合が有る)
(何するんだ?)
(剣の試合だよ。リハでも言ってたろ?)
(……覚えてねぇ)
(姫しか見ていなかったんだろ?)
(……ああ)
(輝竜の誰かと、その男性代表が試合するんだ)
(えっ!?)
(一応、クロだと伝えているけど、マズいか?)
(やる!)
(中の国式だぞ。頑張れよ)
(おうっ!)
曲が終わり、司会進行をしているアオだけがステージに残った。
『新成人よりのご挨拶を頂戴致します。
男性代表、虎縞津 匡鷹様。
女性代表、中橘 静香様。
壇上にお願い致します』
精悍な若武者と姫が並んだ。
お決まりの挨拶が、つらつらと述べられる。
(クロ、そんなに敵意を露にするな)
(仕方ねぇだろ! くっつき過ぎだっ!)
(どぉして昨日も言わなかったのぉ?)
(うっせーっ! サクラは黙れっ!)
(クロ兄がヒドぉいぃ~)
(サクラは悪くないからね)掌握よしよし。
(ん♪ アオ兄だ~い好き~♪)掌握ハグ♪
(クロ、奉納試合だ。ルールを守れよ)
(分かってるって!)
(これは儀式なんだからな)
(分かってる!)
『――これにて、挨拶と御礼の言葉と致しまする』
拍手が湧く。
(クロ、準備はいいか?)
(もちろんだ!)
『続きまして、奉納試合を――』
『その前に、ひと言。
よろしゅう御座いまするか?』
『ええ。虎縞津様、どうぞ』
(何なんだ? アイツ……)
(聞いてみるしかないよ)
(だな……)燃える瞳で睨む。
『この試合に勝てたならば、静香姫様に、試合を申し込み致しとう存じまする!』
(はあっ!? 何で姫とっ!?)
(まだ続いているよ)(ぐっ……)
『――で、如何で御座いまするか?』
『構わぬが、何故じゃ?』
『静香姫様は、予てより、強き男でなければ婿にせぬと、我を拒み続けられました故、より強いと証明致したく存じまする』
『然様か……』目を閉じ、呼吸を整え――
(クロ、勝てよ。姫を護れ)
(もちろんだっ! 負けっかよっ!!)
――カッと見開き『受けて立つ!』言い放った。
会場が湧き立つ。
『――では、奉納仕合に移ります。
東は赤、虎縞津 匡鷹様。
西は白、竜ヶ峰 黒之介様。
位置にお着きください』
二人が壇上で対峙し、礼。
防具から覗く瞳は、双方共に燃えている。
『始め!』
(サクラ、クロは手加減なんて考えられないだろうからね。
頼んだよ)
(うん。ヤバくなったら飛び込むよ)
大人数が、まんじりともせず見詰める中、二人が竹刀を打ち合わせる音だけが響く。
(アオ……サクラ……)
(姫、だいじょぶだからねっ)
(クロなら心配要らないよ)
(然様か……)
「おおおりゃああっ!!」パーンッ!
「ぃやああぁどおぉ!!」バシッ!!
クロが面を、匡鷹が胴を打ち――
双方、打ったままの体勢で止まり――
――匡鷹の面が割れ、膝から崩れた。
床に当たる前にアオとサクラが支え、治癒の光で包んだ。
「クロ!」姫がクロの背に飛びついた。
「オレが勝つに決まってんだろ」ぽふっ。
「あっ……」慌てて離れ、コホン。
「審判、判定はどちらじゃ?」
「西で御座いまする」白を挙げる。
匡鷹が気付いたのでサクラに任せ、アオは立ち上がった。
『勝者、竜ヶ峰 黒之介様』
歓声が湧き上がる。
「だいじょぶ? 礼できる?」
サクラに支えられ、匡鷹も立った。
「善き試合で御座った」礼。
クロも慌てて礼を返す。
「ありがとうございました!」
『もう一度、盛大なる拍手をお願い致します』
拍手喝采に送られ、四人は退場した。
(サクラ、匡鷹さんは大丈夫かい?)
(もっちろ~ん♪
ちゃんと頭にクッションしたよ♪
アオ兄、竹刀に光かぶせたでしょ)
(そりゃあね。
もう少し匡鷹さんをお願いね)
(うん♪ 治癒で包んだ~♪)
舞台袖で面を取ろうとしたクロの背に、匡鷹が近付いた。
「黒之介殿、改めて、お手合わせ願いたい!」
「まだやるってのか?」手を止め、向き合う。
人相手は手加減ムズいから嫌なんだよなぁ。
「道場には、最早、我と手合わせ出来る者が居らぬのだ。
黒之介殿に鍛えて頂きたいので御座る」
「鍛えて、どうすんだよ?」
だいたい、オレに近寄るなっての!
「静香姫様に勝ちとう御座いまする!」
「ムリだよ。オレも勝てねぇからな」
これはマジだ。姫を打つなんて出来ねぇ。
「まさか、そのような……。
姫様は、其程迄に御強う御座いまするか?」
「ああ、オレじゃ到底敵わねぇよ」
全て敵わねぇよなぁ……。
「しかし、諦めるなど――」
「諦められるくらいコテンパンにしてやろうか?」
姫を打つ気なら、オレが打ちのめしてやる!
「は? まさか、先程は手加減を――」
「当然だろ。
オレが本気で打ったら、お前、死んじまうぞ」
姫に小突かれただけでオレは死ぬけどな。
「然様で御座るか……。
ならば、更なる精進を致しまする!
その後、再び挑みまする!」メラメラッ!
「まさか……姫をそこまで……」倒したいのか?
コイツ……もしかして、姫に恨みを――
「幼少よりずっと……静香姫様だけを見詰め続け、愛しく思うておりまする!」
「ゲッ……」マジかよ……。
姫がクロの背に飛びついたのを見ておらず、クロが恋敵だと気付いていない匡鷹と、未だ片想いなクロのやりとりは続く。
(ねぇねぇ、姫は、どっちが好きなの?)
(サクラ!?
童に言える事ではないのじゃっ!)
(俺、もぉ成人してるよ~♪)
(どぅ見ても童ではないかっ!)
(でも、オトナだも~ん♪
ね、クロ兄のコト、好き?)
(知らぬ!)真っ赤!
姫は、クロと匡鷹のやりとりを聞いてはいなかった。
(皆、輝竜にアンコールだから、ステージに戻ってくれないかい?)
「クロ兄、アンコールだって~♪
着替え、はい♪」衣装ばふっ! 面を奪う。
「えっ!? まさか……」匡鷹、愕然。
「俺達、輝竜だよ~♪ クロ兄、早く!」
兄弟はステージに駆け出て行った。
匡鷹の眼中には、輝竜を見送る姫の姿しか入っていなかった。
嗚呼、静香姫様……なんと麗しい。
キラキラしておいでで御座る。
残念ながら、姫の眼中には、クロしか入っていないのだが――
しかし、今後どうなる事やら……?
(匡鷹さん、本気だねぇ)
(そうだね。あの色は……)
(クロ兄、ピ~ンチ)
(まさかライバルが現れるなんてね)
(そぉだね~)
「姫様♪ 静香姫様♪
黒之介様をご覧になっておられますのね♪」
「志乃っ! はしたないではないかっ!」
「まあっ♪
静香姫様から『はしたない』などとっ♪
大人にお成りあそばしましたので御座いますねっ♪」
「煩いのじゃっ!」
「し、し、しず――」背後からの声。
「あら、静まりませぬと――あらっ」
振り返った志乃が固まる。
「志乃、如何したのじゃ?
ん? 頬が赤いぞ?」志乃の視線を追う。
はは~ん。然様か……♪
「志~乃♪」背を押した。
「あらあらあららっ」よろよろよたっ――
よたたっ「あらまっ!?」ぱふっ。
「――し、し? ……志乃殿!?」焦っ!!
「志乃♪ ゆるりとのぅ♪」ふふんふんふん♪
スキップスキップ♪ そそくさっ♪
(あ、志乃さんだよ)
(え? あの色って……)
(間違いないね~)
(これは……ややこしいね)
(そぉだね~)
「あ……あの……匡鷹様?」益々頬染まる。
「は? あっ! 申し訳御座らぬっ!」
受け止めたままだった両手を放した。
「あ、あら……」離れて背を向けた。
「忝のう御座いまする」
「あ、いや、拙者こそ、申し訳御座らぬ。
女人に易々触れるなど……」
「いえ……匡鷹様にならば……」ぽっ……♡
「は?
あっ! 静香姫様!?」キョロキョロ!
「静香姫様に御用で御座いましたか……。
では、お取り次ぎ致しますれば。
ささ、こちらに――」歩き始める。
「忝のう御座る」付いて行った。
(あれぇ? 姫、戻ってきたね~。
志乃さん、どこ行っちゃったんだろ?)
(まぁ、あの二人で落ち着いてくれたら、クロも姫も嬉しいんだから、そっとしておこう)
(そぉだね~♪)
アオとサクラは、全力で踊るクロと、クロだけを見詰める姫を交互に見た。
(言えばいいのにね~)
(本当に、その通りだよね)
凜「志乃さん♪」
志「は? えっ? その笑みは如何に?」
凜「解ってますよね~♪
匡鷹さんをどこに連れてったんですか?」
志「この後、城内にての儀式が御座います故
静香姫様も向かわれますでしょうから
その場所に――疑っておられまするか?」
凜「好きなんでしょ?
どうしてそんなに真面目なのぉ?」
志「お役目は、お役目で御座いますれば」
凜「匡鷹さんには言わないの?」
志「そっ、そのようなっ!」真っ赤っか。
凜「姫のためにも頑張って~」
志「静香姫様の御為……で御座いまするので?」
凜「そうだよ~♪
姫がクロと幸せを掴むためには、
志乃さんが先に幸せを掴まなきゃ、ね♪」
志「然様で御座いまするか……。
では、私が、気合いを入れましょうぞ!」
凜「そうこなくっちゃ♪」