表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/347

『杏の花影』10

 スオウはアオ達に読ませた後で、前話の

チャコル(スミヤ)の部分を追加しました。


 チャコルから話を聞き、帰宅したアンリは、自室の窓辺で璃双杏の大木を見詰め、考えていた。


 ラピス=カムルス様と私は、

 見間違う程に似ている。


 そんな存在は、同腹以外に考えられない。

 でも、年齢差が……有り得ないわ。


 当時の副長、ブルー=メルング様は、

 きっと、お兄様よね。


『ブルー』も『メルング』も珍しくないけど、

 チャコルさんはチェリーを見て

『副長』と仰ったのだから、

 お兄様で間違いないわ。


 ラピス様は、お兄様を副長にしていた

 とてもお強い女性。

 あのブルーお兄様よりも、なんて……


 ラピス様とお兄様は、竜体がそっくりで、

『双青輝』と呼ばれて活躍していたのに

 記録は消されて……


 仮に戦死しても、行方不明でも、

 そうまでされるなんて有り得ないわ。


 どうして……?


 チャコルさんは言葉を濁して

 教えてくださらなかったけれど、

 ラピス様は行方不明なのだわ。


 お兄様も行方不明のような仰りようだったわ。

 お元気なのに、どうして?


 ラピス様が、お兄様の恋人なのよ。

 眠ったままの方がラピス様……


 だとしても、どうして隠しているの?


 分からない事だらけだわ……

 どうして教えてくださらないの?

 私は知ってはいけないの?


 どうして?


 誰か本当の事を教えてよ!



―・―*―・―



『神の水』とも呼ばれる、最強の聖水、神聖光輝(シンセイコウキ)を作る準備をしている筈のウィスの気へとブルーが曲空すると、竜宝薬研究所に出た。


「ブルー兄様、お帰りなさい」

ウィスが嬉しさを零れさせた。


「ここで作っていたんだね。

 珍しくアンリは早く帰ったんだね」


「アンリ、考え事してる~」

チェリーは材料を並べ、古文書と照合していた。


「器具は、これでよいか?」現れた。


「ありがとうございます、カーマ兄様」


「カーマも来てくれたのか。ありがとう」


「人界の材料も、カーマ兄貴が持って来てくれたんだよ♪」


「お~い、始める前に食っとけよ」

オニキスが料理を運んで来た。


「オニキスまで来てくれたのか。

 皆、ありがとう」


「ブルー兄貴♪ 魔莉花(マリカ)は?」


「ああ。これだよ」


「揃ったね~♪」


「冷める前に食えってぇ」


「兄さん達は……ああ、深蒼の祠に居るんだね」


「魔人さん、浄化してる~♪」


「食事なら運んでやっから――あ……」


長兄(ゴルディ)次兄(プラティ)が現れた。


「ゴルディ兄貴♪ プラティ兄貴も~♪

 魔人さん達は?」


「魔界から王様が来て、連れてったよ♪」

プラティがチェリーの頭を撫でる。


「回復した後、地下より安全な天界に住む事を望まれる方の受け入れは、父上が約束された」

ゴルディが微笑み、弟達ひとりひとりと目を合わせていった。


「手伝える事、有るのか?」


「その前に食えってば!」


「そうしよう。皆、席に着くように」



―・―*―・―



「アンリ、お食事は?」


「あ……お母様……」


「あら……こちらに運ぶわね。

 スープだけでも、ね?」


「ありがとうございます、お母様」


 ビリジアは、一度、(アンリ)を抱き締めてから部屋を出た。


 近くに居た執事に食事の事を伝え、もう一度アンリの部屋に戻ろうとした時、

「またアンリは泣いていたのか?」

背後から心配そうなラセットの声がした。


「そうなのよ。ねぇ、あなた。

 なんとかブルー先生に受け入れて頂けないかしら?

 アンリが可哀想で……」


「ブルー君がラピスさんの他に妻を得ようなどと思うものか。

 それこそアンリが不幸になると思わないか?

 そう私を説得し続けていたのはビリジアではなかったのか?」


「でも、あまりに……」


「私にとってもアンリは可愛い娘だ。

 アンリの幸せに繋がるか否かは分からぬが、ブルー君とは話してみるよ。

 他の解決策を探す為、になりそうだが」


「お願いしますね」


そこに食事が運ばれて来た。


「ありがとう。あとは私が」


「畏まりまして御座います」


ワゴンを引き渡した執事が去ると、

「でも……ラピスさんも私達の娘なのよね。

 どうしたら二人とも幸せにできるのかしら?」

呟いて、ビリジアはアンリの部屋に向かった。



―・―*―・―



「あ~あ、アンリってばラセット様とビリジア様のお話、神眼で聞いちゃったよ」


「そうだね。更に急がないといけなくなったね」


「ビリジア様がアンリの部屋を出たら、アンリがここ来ないよぉに引き留めに行くよ」


「ありがとう、チェリー」


「では、急いで掛かろう。

 石の類いは全て粉末にすればよいのか?」


「はい。お願い致します。

 植物は、使用部位を集めますので、乾燥後、擂り潰してください。

 オニキス兄様、優しく風乾お願いしますね。


 ゴルディ兄様、ブルー兄様。

 古文書の、この辺りに記されている通り、治癒と属性の光を混ぜて、こちらの蒸留水を浄化して頂けますか?」


 兄達は作業に掛かり、チェリーは璃双杏の枝へと曲空した。



―・―*―・―



 ビリジアの慰めの言葉も、上の空なアンリには届いておらず、食事も全く進んでいなかった。


 どぉしよ……これじゃビリジア様

 アンリにつきっきりだよねぇ。


 でも、アンリを納得させとかないと、

 いつ行っちゃうか分かんないからなぁ。

 正面から会いに行くっきゃないよねぇ。


 ここで見てるだけなんて時間ムダだし、

 ホントしょ~がないなぁ――



 チェリーが玄関に曲空すると、丁度ラセットが出て来た。


「おや、チェリー君。どうしたのかな?」


「研究所でのアンリ様の様子が気になって、来てみたんです。

 今どうしていますか?」


「そうか……おそらく、まだ泣いているのだろうな。

 それで私がブルー君を訪ねようかと思っていたのだが……ブルー君は一緒ではないのだね」


「兄の家に寄ったのですが留守でしたので」


「出掛けているのか……それでは行っても仕方がないな」


「後で、もう一度訪ねてみます。

 明日にでも、こちらに伺うよう伝えますよ」


「そうか。ありがとう。

 では、アンリに会ってくれるか?」


「はい。

 僕では解決できる事ではありませんが、話させて頂けますか?」


「そうしてくれるか?

 こういう時、父親は無力だな……あ、いや。

 つい愚痴を言ってしまったな。

 宜しく頼むよ」




 そしてアンリの部屋へ――


「あらまぁ、チェリー君、いらっしゃい」

扉を開けたビリジアが、にこやかに迎えてくれた。


 アンリも顔を上げ、何か言いたげにしていた。

振り返った時、それに気付いたビリジアが、

「二人だけでお話しした方が良さそうね」

ラセットを連れて出て行った。



「チェリー……」


「うん。知ってるコト話そうと思ってね。

 でも、その前に食べなよ。

 あんまりご両親に心配かけちゃダメだよ」


「うん……」


「食べなきゃ話さないよ。

 温め直してあげるから」光を当てた。


「チェリーって……便利ね」


「次からは自分でしなよ。おんなじ光でしょ」


「優しいんだか、冷たいんだか……」


「だって、俺はアンリの恋人じゃないもん。

 どぉしてそこまで優しくしなきゃなんないの?」


「でも、来てくれたのね」


「まぁね。相棒だからね」


「相棒かぁ……チェリーを好きになっていたら、それも楽しかったんでしょうね……」


「俺、帰ろ」


「ちょっと! 話してくれないの!?」


「俺と居たくないんでしょ?」


「そんな事なんて言ってないでしょっ!」


「じゃあ、サッサと終わらせたいから、早く食べてよね」


「ホント、優しいんだか、冷たいんだか」


「帰る」


「ゴメンってば!」


「ソレ、謝ってる?」


「……ごめんなさい」


 同様の会話を繰り返しつつ、アンリは完食した。



「俺だって孵化してなかったんだから、あんまり知らないんだけどね」

そう前置きをして、チェリーは話し始めた。


「兄貴の『眠り姫様』は、ラピスさん。

 兄貴が結婚を約束してたヒトだって。

 チャコルさんの話、チラッと聞こえたから、交替の時に兄貴に聞いたんだ。


 ラピスさんは大怪我して眠ったままになってしまったんだって。

 地下界に巣食ってる『闇の神』ってヤツに、ずっと命狙われてたみたい。

 だから兄貴はラピスさんの全てを隠したんだ。

『闇の神』にラピスさんは死んだと思わせる為にね。


 実は、兄貴と俺も、ずっと『闇の神』に狙われてたんだ。

 卵の頃からなんだって。

 理由は『闇の神』に会って聞かなきゃ分かんないんだけどね。

 そんなだから、今は無抵抗なラピスさんにまで害が及ばないよぉに、兄貴自身も隠れたんだ。

 兄貴の家って、物凄い結界なんだよ。


 兄貴がアンリを護ってるのは、接してしまったから。

 アンリが孵化する前にもビリジア様は大病を患ったんだって。

 それで親戚で医師な兄貴が、ここに通ってたんだ。

 ビリジア様って医者嫌いだから。


 兄貴が、そんな理由で隠れて暮らしてるなんて知らないラセット様が、アンリと会わせちゃったからね。

 兄貴は心配で、ずっとアンリを見てたんだって。

 ラピスさんに似てるから、心配で仕方なかったって」


「ラピス様と私は……同腹ではないの?

 ラピス様も、この家の娘ではないの?」


「ラピスさん、兄貴よりずっと歳上らしいよ。

 俺と兄貴の年齢差でも奇跡だとか何度も言われたんだよ?

 有り得ると思う?」


「でも……お母様が娘だって……」


「養女なんじゃない?

 貴族に嫁ぐんだから、そゆのアリアリでしょ?」


「あ……そっか……」だから『さん』付けなのね。


「納得した? 眠れそぉ?」


「あ……うん」


「何? まだ納得しきってなさそぉだね」


「チェリーは軍人学校に行ったの?」


「行ってないよ。

 俺、狙われてたから、閉じ込められてたんだ。

 フツーの学校にも通ってないよ。

 兄貴が全部教えてくれたんだ。

 で、高等の卒業資格取得して、大学は通信」


「それで竜宝学博士にまで?」


「なったよ」


「凄いね……それに、羨ましい……」


「俺と一緒に居た時間と同じくらい、その木の枝に兄貴は居たと思うよ。

 兄貴の気が染み着いちゃうくらいにね」


「え? あの感じは本当にお兄様だったの?

 お母様が慰めてくださっただけなのかと思ってたわ」


「ホントだよ。しょっちゅう来てたんだよ。

 兄貴の分身みたくなっちゃってるからね。

 だから余計なコト考えずに、兄貴のお嫁さん目指して頑張りなよ。

 兄貴はラピスさんしか考えてなさそぉだけど、アンリだって嫌われちゃいないんだから。

 グジグジ暗ぁくしてたら嫌われちゃうよ?」


「グジグジって……」


「してるでしょ?

 今夜は、ちゃんと寝なよ。

 誰かさんのお陰で俺も眠いんだからね。

 もぉ来ないでね」


「ねぇ……どうして私、大学と軍人学校では

『カムルス』を名乗るように言われたのかな?」


「貴族としてチヤホヤされたいヒトだけがフツーに姓を名乗るって聞いたよ。

 甘やかされないよぉに、良識あるオトナになれるよぉに、って愛情でしょ。

 で、知ってる庶民的な姓が、ラピスさんの『カムルス』だったってだけじゃない?」


「そっか……」


「廊下でビリジア様が心配そぉだから、俺は帰るよ」


「チェリーってばっ」


「まだ何?」


「あ……明日から頑張るからっ」ありがとう――


「うん。じゃあ、また明日」にこっ。

チェリーは部屋を出た。



 その、お兄様と同じ笑顔は……今は辛い……

 お兄様からの笑顔が欲しいからよね……


 お兄様は、チェリーには話したのね。

 私には?


 チェリーは口止めされなかったのかしら?

 お兄様が私に話すように仰ったのかしら?


 やっぱり私は嫌われて――あ……これが

 チェリーの言う『グジグジ』なのね?


 だったら、こんなふうには

 考えてはいけないのだわ。


 希望を持って、前を向いて。

 難しいけれど、そうしなければならないの。


「アンリ……あら♪ 食べられたのね♪」


「お母様、心配かけて、ごめんなさい」


「心配は親の特権。だからいいのよ。

 ねぇアンリ、今夜は私の部屋に来ない?」


「行きます♪」


「そう♪ では、支度しましょ♪」


「はい♪」





 スオウの家からアオの屋敷に移動し、

ドンチャン騒ぎの後、やっと来訪(シュウゲキ)者達が

寝静まった夜中――


瑠「良い奴等だ」


青「そうだね」


瑠「しかし、ミモザは大丈夫だろうか……」


青「そうだね。アンズにはサクラの足跡が

  有るけど、ミモザには何も無いからね」


瑠「ミモザの部屋に行く」立ち上がる。


青「アンズが行ってるよ」


瑠「そうか……」座り直した。


青「だからミモザには、俺が接触していた事に

  したんだ。友達も居ないけど……架空の人

  ばかりだけど、俺は居る。

  作り話ばかりだけど、俺だけは現実。

  作った過去も、ミモザの記憶も俺と共に。

  これから、家族としても共に。

  これからはルリもアンズも共に」


瑠「妹達には両親が三組も居る」


青「そうだね。皆で家族だね」



青「あ……それで思い出したけど、

  ルバイル様と約束していたんだった」


瑠「今から行くのか?」


青「静寂の祠の外にいらっしゃるよ。

  ルリも一緒に、ね?」


瑠「ふむ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ