アオイも腹を括りなさい
『白銀の宴』も、あと少しです。
昼食ステージの後、アオはルリ先生としてアンズと共に救護室で治療に当たっていた。
【アオ様、ルリは?】
少し落ち着いた所で、アメシスが寄って来た。
(今は休んでもらっています。
ずっと頑張っていましたので)
【そうですね。
こんなにも大変な仕事とは思っておりませんでしたよ。
このイベントは、まだ続くのですか?】
(ハク兄さんのイベントは、今日で終わりですが、フジ、キン兄さん、アカ、クロと、数日ずつ空けて続きます)
【そうですか……次も手伝わせて頂いてもよろしいですか?】
(それは有難いのですが、それを決める前にお話ししなければならない事があります。
この後で、お願い致します)
【アオ、1号室の最終確認をお願い】
(ヒスイも後で)
【僕も? スミレは?】
(あまり関係ないんだけど、後で煩いから連れて来て)
【除け者にしたら騒ぐね……解ったよ】
ルリ先生は、アメシスに小さく頭を下げ、ヒスイに付いて行った。
【話とは、何なのでしょう?】独り言ちた。
【あのアンズちゃんの事じゃないの?】
【あ……ユリ、戻っていたのですか。
サクラ様が、どうかしたのですか?】
【ちゃんと見ないと~】
【え?】
【あのアンズ先生は、サクラ様ではないわ】
【どうしてそれが?】
【勘よ♪ 男っぽさが漂わないの。
サクラ様も上手に隠してるわ。
でもね、時々ふわっと漂うのよ。
それが感じられないの】
【ユリ……サクラ様を男として見ているのですか?】
【なぁに勘違いしてるのよぉ?
王子様皆様と~っても格好良いわ。
ずっと見ていたい程よ♪
でもね、私はアオイが好きなの♡
神様になっても人臭いアオイが大好きなの♡】
【そう……ですか……】恥ずかしそうに外方向いた。
【そういうとこ♪ 好きよ♪】
【仕事に、、も、戻ります、ので】
【女姿で、って聞いた時は、ひきつってたけど、すっかり真剣モードね~。
あ、アオ様、お帰りなさい♪
お話って、あのアンズちゃんの事でしょう?】
(はい。サクラから独立しましたので。
その事と、もうひとつ有るんです。
患者が減りましたので、各病室を個室に出来た段階で、治癒の眠りで包んで一気に治します。
その後で、お願いします)
【はい♪】
♯♯♯
「全ステージ終わった~♪♪♪」
「ハク、まだ明日の朝が残っている」
「えっ!?」
「救護室で寝ていなければならなかった方の為のステージだ」
「そっか。確かになぁ。
せっかく来たのに寝てただけなんてナイよな。
よしっ! ラスト一発、頼んだぞっ!」
「「「「「はい!」」」」」
「い~い弟達だぁ♪」
『ハク様♪
写真撮影会の方にお願いしま~す♪』
「お迎えだ」
「ミカン不足で死ぬぅ……」
盛大な ため息を残して、ハクは連れて行かれた。
「アオ、救護室の方は?」
「回復完了です。新たな患者が出るかもしれませんので閉める事は出来ませんが」
「では、私が待機する」
「ありがとうございます」
「キン兄、バイトは?」
「今日も休みにしている」
「ん♪ アオ兄、ヒスイが呼んでる」
「うん。サクラも一緒に。アンズ、行くよ」
「うん♪」「はい♪」
――アオの屋敷。
「あ、ルバイル様まで……」
【勝手に来てしまいました】
「お父さん、お母さん。私から説明するわ。
禍石の事は知っているわよね?」
ルリは口を開こうとしたアオを手で止めた。
【はい】【プラチナ様でしょ?】
「プラチナ様だけでなく多くの神様や人が石に封じられているの。
でも石はバラバラになっていて、封印を解く為には、ある程度纏まらないといけないの。
だから私達は禍石を集めているのよ。
その禍石の中に、ルバイル様の御子様も封じられていたの」
【私の子は、未熟卵のまま封じられておりました。
ですので、状況としてはヒスイよりも悪く、禍石から取り出せば、消滅するより他にないと、諦めざるを得ない状態でした。
ですが、アオとサクラの機転に依り、生きる道を与えて頂けたのです。
私の子を護る器として、複製を提供してくださったのです】
「それが、このミモザとアンズなの。
もうアオとサクラの複製ではないの。
各々ひとりの女の子なのよ」
【『複製』という術技は闇属性技です。
閻魔大王様に確かめました所、今回に関しましては最適の器との事でした。
ただ、感情を持って生きているのは、流石、アオとサクラの複製、としか言いようがないそうなのです】
「何にしても、ちゃんと生きているのが現実。
私なんかよりもずっと『女の子』なの。
私は……妹だと思っているの。
お父さん、お母さん、妹達を受け入れて、親になってくれない?」
【そういう事だったのですか……】
【大歓迎よ♪
もうひとり増えるなんて嬉しくて仕方ないわ♪
ね♪ あなた♪】
【私も、もちろん歓迎ですよ】
「よろしくお願い致します!」
「あっ、お願い致します!」
【娘なんだから、他人行儀は嫌よ?
私は、今日のアンズちゃんがサクラ様でないって、ちゃ~んと判ってたんだから、母親合格よね?】
【えっ!? 私は不合格ですか!?】
ルリが笑いだし、ミモザの控えめな笑い声が重なり、アンズとユリも楽しげに合流した。
アメシスがルバイルとアオに救いを求める視線を投げる。
【大丈夫ですよ。不合格なんて有り得ません。
この笑顔が、その証拠ですよ】
ルバイルは微笑んだ後、真顔になり、
【私の娘達をどうかどうか宜しくお願い致します】
深く頭を下げた。
【いやっ、あのっ、ルバイル様!】
アメシスが大慌てで起こそうとしているのを見て、女性達の華やかな声は高まり、アオとヒスイはアメシスに加わって、ルバイルを起こした。
「それでね、アンズとミモザもアオの妃として迎えて、私とアオで、しっかり護ろうと決めたの」
【ええっ!?!】
【その目は、もう決めたから揺るがないって目ね?
ルリの好きになさいな。
娘達♪ みんなで力を合わせてアオ様を支えてねっ♪】
「「「はい♪」」」
暫し呆然としていたアメシスが、アオを引っ張って離れた。
【ルリを幸せにすると誓いましたよねっ!?】
(はい。俺はルリだけを愛していますので。
ただ、護る為には、常に近くに居なければなりませんので。その為の婚姻です)
【護る為とは言え――】
(ごもっともです。
ですが、闇の神がロズオラ様、セレンテ様を拐った理由も、あの卵を石に封じた理由も不明なんです。
生きていると知られた時点で、執拗に命を狙われる可能性は高いと思うんです)
(だから私は、妹達を私の二の舞にさせない為に護ると決めたの。
お父さん、アオを責めないで。
アオに無理を言ったのは私なんだから)
背を向けたまま神眼でアメシスを睨んでいたルリが来て、二人の間に入り、アメシスと対峙した。
(お父さん、私達は夫婦以前に双青輝なの。
何事も二人で戦うと誓い合っているの。
でもね、アオはお父さんより強くても、お父さんとは戦えない。
無防備なアオを虐めるのなら、私がアオを護るわ。
大好きなお父さんでも、全力でね)
【ルリ、それで十分よ。
アオイも腹を括りなさいな。
アオ様とルリの間には、父親なんて入る余地は無いのよ。
ルリはアオ様としてステージに立てるし、アオ様のルリ先生も完璧だったでしょ?
あなたはアオ様に『ルリ』って声を掛けてしまったんだから~♪】
【見ていたのですか?】
【ええ♪
それ程に二人の愛は確かなものなのよ】
(お父さん、私達を信じて。ね?
心配してくれて、ありがとう)
ルリに抱きつかれたアメシスは、ただ頷いた。
【それで、ミモザちゃんは、どういう設定にしたの?】
(あ、そうね。話さないとね)
ルリはアオとアメシスの手を引いて、心配そうに見ている集団へと戻った。
「ミモザは、私からは離されて護られていた卵って事にしてほしいの」
【そうなると、アオバ伯父様の所ね?】
「うん。私は大伯父さんの事は、よく覚えていないんだけど、得体の知れない卵を持ち帰るくらい優しいから、有り得ると思うのよね」
【得体の知れないって……あんまりです】
【でも、その通りだわ】うふふ♪
【ユリまで……でも、伯父は行方不明なのですよ?】
「大伯父さんは退役後、山奥で木こりをしていたんでしょ?
だから、木こり仲間の方が育ててくださっていて、今まで見つからなかったって事にしたいんだけど……どうかな?」
【そうね。それでいいんじゃない?
ね、あなた♪】
【ええ……では、そういう事にしましょう】
♯♯♯
アメシスとユリを、ルバイルが別の話が有るからと、連れて行った。
「ね、アオ兄」
「どうしたの? サクラ」
「アメシス様、次の看護師もしてくれるって、ホントにいいの?」
「ヒスイも協力してくれるし、慣れてきたし、ルリと居たいんだろうし、ミモザとアンズとも仲良くなりたいんだろうし、いいんじゃないかな」
「そっか。んじゃあ、虹紲補佐は?」
「明日からはアンズがやるよ」
「父上にも紹介するの?」
「サクラだと思って話し掛けない程度には、しようと思っているよ」
「ふぅん。で、ミモザは?
ミモザだって、モトがアオ兄だから補佐できるでしょ?」
「私も、それを考えていた。
アオと私が別行動する事も有るのだから、補佐も二人の方が良くないか?」
「あ……話し方が戻った……」
「放っといてくれ。ちゃんと話を聞け」
「ちゃんと聞いているからね。
そうなると、ミモザも王族として加えられてしまうよ?
ミモザは、それでいいの?」
「そうしないと……私……ここから出られない?」
「偽装で顔を変えれば出られるよ」
「私って存在は……」
「うん……そうだね。
明日、エレドラグーナのお屋敷に行こう。
アンズもご挨拶しないとね」
「はい♪」
「ミモザも、ちゃんと考えるからね」
「はい」
「サクラ、輝竜衆の送りは、頼んでもいいかい?」
「うん♪ アオ兄する~♪」
「あれ? そういえばヒスイは?」
「スミレ見に行った~」
「そうか。ルリ先生と看護師が救護室に居るんだね?」
「そゆコト~♪
スミレ、ルリ先生見てたいんだって~♪
キン兄が困ってるかも、ってヒスイ行ったの。
じゃ、俺そろそろ帰る~♪」
「どっちに?」
「ラン補充~♪ まった明日ね~♪」曲空♪
「サクラ、とっても嬉しそうね」
「それだけ虹紲補佐は大変なんだろうね」
「だから二人に増やせ」
「アズキ様にご相談するから待ってよ」
「ふむ。では、アオは寝ろ。
結局、寝ていないだろ」
「はい。ルリお姉様」
ミモザとアンズが笑う。
「二人も寝ろ」
「「はい♪ ルリお姉様♪」」
匡:やっと巡回にも加えて頂けたで御座る。
其に丁度、機も良かったと見えるな。
静香姫様のお通りで御座る。
やはり、暗き刻は衝立が少なく、
見易いので御座る。
おや? 人影か? 姫様の方に!?
「曲者っ!」
人影はサッと去り、見えなくなった。
姫「如何致したのじゃ?」背を向けたまま。
匡「人影が姫様に近付いたので御座る!」
姫「然様か。して、其の曲者は?」
匡「去りまして御座いまする」
姫「では、ご苦労じゃったな。下がれ」
匡「いえ! まだ安心出来ませぬ!
御部屋迄、御供致しまする!」
姫「無用じゃ。下がってよいぞ」
匡「しかし!」
姫「妾は奥に居る志乃に用が有るのじゃ。
お主には立ち入れぬ場。下がられよ」
匡「御言葉では御座いまするが、
御護り致すが我が役目!」
姫「ならば、上位の者を此へ」
付「はっ」
腰元が小走りに去り、侍を伴って戻った。
岩「匡鷹、何を騒いでおるのだ?」
匡「曲者を発見致しまして御座いまする!」
岩「では、此より交代致す。下がれ」
匡「ははっ」
あと少しであったのに!
悔しいので御座る!
いい加減 気付け!