姫の真意は――
前話が短かったので、オマケな続きを――
睦月三日、朝――
『姫様、静香姫様っ、そろそろ起きませぬと――』
「志乃か……入れ」
初夢が初夢だっただけに寝付けず、朝を迎えた姫だった。
そっと障子が開いた。
「失礼致します。お珍しゅうございますね。
私をお呼びになるとは――」
いつもは一喝して追い返されますのに。
「聞きたい事が有るのじゃ」
「はい♪ 何なりと♪」
「志乃は成人せぬのか?」
「静香姫様を差し置いてなど考えてはおりませぬ」
「ならば、知らぬのやも――」
「恋をなされたのではございませぬか?」
目の下の隈は恋患いの証でございますよね♪
「こっ、恋などとっ!」
「違いまするか?」不敵な笑みを浮かべる。
「では、聞くが……よいか?
男と褥を共にするとは、眠る他に何か致すのか?
帯を解くところ迄は、ドラマで見たのじゃが――」
「静香姫様っ!?
とうとう黒之介様と、そこまで進展したのでございますねっ♪」
「いや……まだじゃが……知っておきとぅての」
「然様でございまするか……。
その為の本がございますれば、少々お待ちくださいませ」
「皆、その本を読むものなのか?」
「まぁ……然様でございますねぇ」
「志乃も読んだのか?」
「まぁ……知識として……」頬染める。
「お持ち致しますれば――」逃げた。
暫し待つ。
「静香姫様、こちらを――」
「して、志乃は、これを読んで実践したのか?」
「いえっ! 滅相もございませぬっ!」
「然様か……」
「ではっ、失礼致しますればっ!」また逃げた。
無地の表紙を開――姫は完全に固まった。
♯♯♯
そして、一刻後――
『姫様、お加減が悪うございまするか?』
姫、ハッとして、大慌てで本を掛布団に隠した。
「睦月か。入れ」
「失礼致します。
そろそろ竜の皆様をお迎えに参らねば間に合いませぬが、如何なさいまするか?」
「あ……そぅじゃったな……」
「代わりに参りましょうか?」
「いや、支度致す」ぴょいっと立ち上がった。
「これは……然様でございまするか♪
とうとうクロ様と、で御座いますね♪」
本が掛布団から、はみ出ていた。
しかも開いた状態で――
どうやら、勢いよく立ち上がった時に掛布団ごと蹴り飛ばしたらしい。
「違っ! 違うのじゃっ!」あわあわわっ!
「喜ばしき事に御座いますれば♪」にこにこ♪
「じゃからっ!」
睦月は意味深に微笑み、そそくさと出て行った。
「違うと言ぅておろうっ!!」
♯♯♯♯♯♯
その頃、クロは――
「どうして姫を捕まえられなかったんだ?」
アオに睨まれていた。
「やっと戻って来たと思ったら、閉じ籠るなんて。
いったい何があったんだ?」
――が、クロは答える事も出来ない程に落ち込んでいた。
「どうしたんだ?」今度は優しく問う。
「アオ……」うるうるっ――
「姫は……やっぱ、アオが好きなんだよ……」
「本当に、何があったんだ?」
「姫が……オレの顔なんか見たくもないって……」
「それで、どうして俺を好きだと結論付けたんだ?」
「アオは頼りになるって、この前……」
「それだけ?」
「その後、聞いたら……嫌いだとは言わなかったんだ」
「好きだとも言ってないだろ?」
「それは……そうだけど……」
「だいたい、顔も見たくないなら、俺も、他の兄弟も、クロと同じ顔だ。
どうして俺を好きだと考えたのやら、サッパリ解らないよ。
姫が顔を見たくないと言ったのは、おそらく姫の初夢のせいだよ。
顔を合わせられないくらい恥ずかしかったんだよ」
「どんな初夢だったんだ?
てか、何で知ってんだ?」
「だから、クロと似たり寄ったりだよ」
「オレのも……知ってるんだよな……」
「まぁな。
想いが強いと流れ込んできてしまうんだよ。
防ぎようもなく、ね」ため息。
「信じて……いいんだよな?
姫に嫌われたワケじゃねぇんだよな?」
「自信持てよ。姫はクロしか見ていないよ」
「アオは? 姫の事……」
「そうか……紹介していなかったな……」
「誰を?」
「俺の――」「たのも~お!」「姫だね」
姫がスキップして入って来た。
「輝竜♪ 仕事じゃぞ♪」
「その前に、俺達に言うべき事が有るだろ?」
「何の事じゃ?」はて?
「契約――」「時間が無いのじゃっ!」
「誤魔化すなら、行かないからね」睨む。
「うむぅ……」
「どうして契約更新なんかしたんだ?
姫は、早く平和にしたくないのか?」
「それは……それなのじゃ……」
「だいたい、あと十年も人界に居るつもりはないんだよ。
魔王を倒したら、天界で王族としての職務があるんだからね」
「真か!? クロも帰ってしまうのか!?」
「そうだね。
クロにも公務に加わってもらわないといけないからね」
「帰って……しまうのか……」
「俺達は天人なんだから、当然だろ?」
「アオ! オレは――」(クロ兄! 黙って!)
(うるさいっ! サクラが黙れっ!)
(アオ兄には何か考えがあるんだよ!)
(えっ???)
「ただ、時々は人界にも来るよ」
「然様か……」ホッ……。
「でも、契約したのなら、その『時々』を全て輝竜としての活動に使わないといけなくなるよね?」
「ならば、契約を変更すればよいのか?」
「姫は、クロを人界に留めたくて契約を延長したんだろうけど、クロをアイドルにしてしまったら恋仲になんてなれないよ。
そうじゃない?」
「あ……」真っ赤になって俯いた。
「契約の延長を撤回しないと、姫も困るって解ったかい?」
「アオ~……ワラワは……」ぐすっ。
「うん。悪さしようなんて思っていないよね?
ちゃんと解っているからね」
「アオ~」うっく……ぐすっ。「すまぬぅ」
「うん。解ったから、撤回してね?」
「解り申したぞぉ~」うるうるうるっ――
姫が感極まって胸に飛び込もうとしたのを、アオはサラッと避けた。
「クロは、あっちだよ」
そのまま、サクラの手を引いて去った。
「姫……」背中から抱きしめる。「オレは……」
「クロ……」
「オレだけは、できるだけ人界に居るよ。
姫と一緒に居る。オレが、そうしたいから。
オレは姫が――」
姫がバッと顔を上げた。「舞台じゃっ!」
クロの腕からスルッと抜け出、「アオ!」
アオが行った方に駆け出した。
「何処じゃっ!? アオ! サクラ!」
「オレ……は?」
アオとサクラが渋々な顔で出て来た。
「クロ!」「おう♪」「兄弟を集めよっ!!」
「あ……ああ、解ったよ……」しょんぼり曲空。
(また言えなかったね~)
(せっかくチャンスを作ったのにね)
(困ったクロ兄だねぇ)
デビューライブが終わり、兄弟は洞窟に戻った。
銀「面白い活動をしているんだな」
子「父上っ!?」一斉。
銀「見させてもらったよ。
人との交流とは、素晴らしいな」
黒「じゃあ、このまま輝竜しても?」
銀「構わんぞ」何か問題でも?
金「勿論、魔王を倒す事が最優先ですが――」
銀「だろうな。
だが、その後の為にも、この活動も頑張れ。
公務は七人で分担すれば、何とかなるさ」
青「人界の任としては、不適切では?」
銀「臨機応変だ」ニヤリ。
藤「あまり目立ちたくはないのですが……」
銀「王族なのだからな。前に立つ事にも慣れろ」
白「んじゃ、マジで輝竜やれってか?」
銀「そうだ。竜は皆、人との交流を望んでいる。
まだまだ、竜の姿では無理だろうが、
新たな一歩としては、良い活動だ」
桜「じゃあ、俺の仕事、アイドル~♪」
銀「頑張れよ、サクラ」にこにこ。
桜「うんっ♪」
銀「アカ、不服そうだな」
赤「いや……不服など……」キンを見る。
金「魔界での我々の戦いを知らせる為に
輝竜を利用しようと考えている。
父上も賛成してくださっているのだから
支障の無い範疇で続けよう」
銀「決まったようだな。
各々、婚約者にも話しておけよ」
金白赤藤「あ……」その問題も有った……。
サクラが客間の扉を開けた。
桜「ラン♪ どぉだった?」
藍「とっても格好よかったわ♪」
桜「皆さん、どぉでしたか~?」
金「ボタン、何故?」「お呼び頂きましたの」
白「ゲッ! ミカン!?」「見ちゃった~♪」
赤「ワカナまで……」「アカ♪ ステキよ♪」
藤「リリスも……見たのですか?」「ええ♪」
銀「各々話せばいい。アオ、送ってくれ」
黒「なぁ、アオ……
誰か紹介するとか言ってなかったか?
彼女じゃねぇのか?」
青「それは、後でね。
父上、では、城に送ります」曲空。
黒「なぁ、サクラ――いねぇ……。
誰も……いねぇ……オレだけかよ……」
青(姫の所に行ったらどうだ?
頑張っていたんだから、労ってやれよ)
黒(アオ……オレだけなのか?
なぁ、戻って来てくれよ)
青(父上と話したいんだ。
今夜は戻らないからね)
黒(相談……なぁ、聞いてくれよぉ)
青(あとは自信だけだよ。
姫も待っているんだから、早く告白しろよ)
黒(ん……行ってみる)
青(大丈夫だから!)
黒(おうっ! 行ってくっからなっ!)