女性輝竜を探せ!
サクラは、イベント会場の救護室で
アンズ先生しています。
看護師はアメシス、ヒスイ、スミレ兄妹です。
♯♯ 天竜王城 ♯♯
「コモモさん……」
「あっ、アンズ様」深々と礼。
廊下でコモモを呼び止めたアンズは、虹紲執務室に連れ込んだ。
「さっきは、ごめんなさい。
とっても驚いて、焦ってしまって……アオ様の事を言い当てられてしまったので……お姉様にも知られないようにしていたのに……だから、ごめんなさい!」
「アンズ様っ、お顔をお上げくださいませっ」
「コモモさんはご心配くださっただけなのに、私ったら、失礼な態度で……」
「いえっ! いえいえ!
私の方こそ不躾に申してしまいまして!
誠に申し訳ございません!」
「そんなにお謝りなさらないで、ね?
でも、お互いに謝り続けるのは良くないわよね……でしたら……お友達になってくださらない?」
「え……?」
「私、今の状態を幸せだとは思っているの。
でも、時には悲しくなる事だってあるのよ。
ですから、お城にもお友達が欲しいの。
お願いします、コモモさん」
「私なんぞで……よろしいのでしょうか……?」
「だって、とっても私をご心配くださったわ。
お願い、コモモさん」
「私なんぞでよろしければ、はい。
どうか宜しくお願い致します」
「嬉しい♪ ありがとう、コモモさん♪」
「アンズ様……」ホッと肩の力を抜く。
「あ♪ でしたら、こちらを。
アオ殿下は、掃除をしていた私に『独り言だと思って聞き流して』と仰ってお話しくださったのですが、『こんな話を聞かせてしまって、すまない』と、お詫びだと、お守りをくださったのです。
アオ殿下の物ですし、お守りですし、アンズ様がお持ちください」
コモモが両手で差し出したのは、アオが渡した壁耳だった。
「ありがとう♪ 友達の印ねっ♪
アオ様のお守り……大切にするわ♪
では、私からは――」
アンズは髪飾りを外して、コモモに着けた。
「うん♪ とっても似合うわ♪」
「でも、高価な物では――」
「アオ様のお守りには値段なんて付けられないわ。
今は何も持っていないから、それで我慢してね」
「我慢だなんて……ありがとうございます!」
「お友達なのだから、あまり畏まらないで」
「で、でも……」
アンズが笑いだした。
その楽しげな声に、コモモも釣られてしまった。
「よろしくねっ♪」
「はい♪」
♯♯ エレドラグーナ屋敷 ♯♯
ギクシャクカクカクと、どうにかこうにか外に出たスオウは、玄関扉が閉まったとたん、その場に崩れるように座り込んだ。
「スオウ、腰が抜けたのか?」
アオとルリが覗き込む。
「だって……王族のお屋敷でお茶なんて……」
「なら、王子の屋敷に行こうか」「そうだな」
スオウを掴んで曲空した。
――アオの屋敷、正門前。
「アオ様、ルリ様、お帰りなさいませ♪」
その声で、どこからともなく使用人達が集まり、門から玄関まで両側にズラッと並んで、一斉に礼をした。
「いつも、こう、なのか?」
「門から入ると、こうなってしまうね」
「普段は曲空で直接部屋に行くからな」
「だから余計に張り切るんだろうね」
「とにかく入ろう。皆が礼をしたままだ」
「そうだね」
二人はスオウの両脇を抱え、引き摺らないように浮かせて運びながら話していた。
「ここも物語の舞台になるからね」
「しっかり見ておけ。
いい加減、自分の足で立てぬのか?」
応接室まで、こんな調子だった。
♯♯ イベント会場 ♯♯
「あ♪ アンズ先生♪」ちょんちょん♪
「えっ?」
熱中症対策の『潤い水』を巨大凍鉱庫に補充していた女性が振り返ると、輝竜衆達が先の声で集まりつつあった。
「えっと……いえ、アンズでは――」
「ルリ先生でもないわよねぇ?」
「そうよね、雰囲気が違うわよ」
じーっと見られ、後退りたくても逃げたくても、輝竜衆に囲まれ、後ろに巨大凍鉱庫で、身動きがとれない状況に困り果てていると、手首を掴まれ、サッと引かれた。
(走れ)(あ、はい!)
見事に人を避けつつ、関係者以外立ち入り禁止の立札を目指して、二人の女性は一目散!
「あ~あ……逃げちゃったぁ~」
「とってもカワイイわよねっ♪」
「他に、もっといるのかしら?」
「並べた~い! 探しましょ!」
ドドッと輝竜衆が動いた。
「私は、さっきの二人を出待ちするわ」
一団、立札の前に立ち塞がる。
「髪の色……最初にアオ様と一緒にいた看護師が金色だったわ。
ルリ先生が青で、アンズ先生が桜色。
さっきの人が藤色と赤でしょ……きっと輝竜に合わせているんだわ!
7人コンプするのよ!」
またドドッと動く。
「何事……?」
騒がしいので、確かめに来た弥生と皐月は、暫し呆然としていたが、顔を見合せ、
「控室に」「そうね」
駆け去った。
♯♯ アオの屋敷 ♯♯
「ここでルリが眠っていたんだ」
ベッドサイドに椅子を運び、座った。
「この位置で副長が治療していた、と」
図を描いてメモる。
「やっと落ち着いたな」
「なんとか……ギリギリ気持ちを保ってるよ。
それにしても広いよなぁ」
「だからアンズが来ても、各々自由に暮らせると思うんだ。
それじゃあ、次に――」掴んで曲空。
――広大な畑。
左には、区画毎に異なる草が、さざ波のように爽風に揺れそよいでいる。
右に並ぶ木々には様々な花が咲き、実っているが、その中でも、黄色い小花で こんもりと膨れた枝が、ふわふわと揺れ、目立っていた。
「もしかして竜宝薬の原料畑か?」
「そうだよ。あれが研究所」
遠くに見える藤色の建物を指した。
「あの森の木も、向こうの果物畑も全て原料なんだ」
「あれって……葡萄畑?」
「そうだよ。真愛葡萄」
「聞いた事も無い葡萄だよ」せっせとメモ中。
「これが真愛葡萄酒。これも竜宝薬だよ。
飲んでみてよ」グラスを渡した。
「どれもこれも凄過ぎるよ。
あ、いい香りだな……味も凄い!
こんなに深くて美味いのは初めてだ!
『紅雫』? 名前も初めてだ。
どこで売ってるんだ? 病院か?」
「まだ試作なんだ。残りは家で飲んで」
「くれるのか!?」
「頼みを聞いてくれたからね。
それじゃあ、研究所の中を案内するよ」
♯♯ イベント会場 ♯♯
「睦月! 新たな騒ぎが起こっている!」
月衆の控室にスッと入った弥生と皐月は、睦月を見つけて叫んだ。
「ここに来る迄に耳にした感じだと、どうやら女性輝竜を探しているらしい」
「女性の輝竜? ……まさか!
救護室は!?」
「確かめる!」水無月と葉月が走った。
「輝竜衆を静めるには王子様方に出て頂く他に無し!
ハク様ならば長月と共に動いている。探して!」
睦月が文月と氷月を見、二人が走った。
「弥生、皐月、他の会場を探って。
残りの月衆を見つけたら、ここに戻るよう伝えて」
「皐月、行くぞ!」二人も外へと走った。
♯♯♯
「コレ……なんで???」
救護室の扉の向こうにも、窓という窓の向こうにも輝竜衆が犇めいていた。
『これは何事ですか!?』
窓の向こうにルリ先生の青い髪が見えた。
その正面の人垣が分かれていく。
『ここは救護室だ。
本当に体調が悪い者だけ残れ。
こんなに密集するなど、熱中症を増産する気か?
仮病は直ぐに判る。早急に解散なさい』
腰に手を当て、仁王立ちしているルリ先生の言葉に、輝竜衆は散って行った。
人が減り、数人が立ったまま揺れていたり、しゃがみ込んだりした。
『看護師!』
ヒスイ達が窓から出、患者達を抱えた。
ルリ先生も、ひとり背負い、ひとり抱えて、建物入口へと向かった。
「早急に解散なさい! 命を奪う気か!?」
外の事を知らず、救護室の方を向いていた集団が振り返り、驚きの表情が波紋のように広がり、急いで外へと動きだした。
「他人を押すな! 列になって出なさい!」
水無月と葉月が来た。
「皆に潤い水を配って欲しい」
「「はい!」」
廊下の壁に凭れ、踞っている者達を残し、輝竜衆が外に出た。
「行くぞ」
患者を抱え、背負ったまま、ルリ先生は白衣を靡かせて走って行った。
看護師達も同様の姿で駆けて追う。
アンズ先生が廊下の患者を連れて救護室に入る。
「カッコいいわ~♡」
「ルリ先生ステキ♡」
「お姫様抱っこされた~い♡」
「看護師さんって三つ子?」
「そっくりだったわよね♪」
「「可愛かったわよね♪」」
「アンズ先生も可愛いわ♪」
水無月と葉月に木陰へと誘導され、潤い水を飲みながら、輝竜衆は、まだ騒いでいた。
救護室の中では――
【アンズ、ベッドが足りないよ】
(築造するから、ここお願い)
アンズは曲空しようと、神眼で場所を探したが、どこもかしこも輝竜衆だらけで、築造どころか曲空も出来そうになかった。
(ダメだぁ、とりあえずベッド詰めよ)
築造で廊下にベッドを出し、部屋に引き込んで並べていった。
(イッキに増えちゃったね~)
【これ以上、収容できないよ?】
(何が起こったんだろねぇ?)
♯♯ 竜宝薬研究所 ♯♯
「あと1ヶ所だよ」
「本当に、こんなに盛り込むのか?」
「スオウ大先生なら出来るよね?」
「やってみるけど……」
「じゃあ、移動するよ」掴んで曲空。
――乾の祠。
「これが祠だよ」
「神聖な感じ……声を出すのも憚られるような清らかさだな」
「深蒼は今、大勢の方々が治療を受けているからね。
この乾で我慢してね」
「あ、アオ様」
淡い黄色の竜がアオを見付けて礼をした。
「羽……まさか!?」
「うん。神竜様だよ。
協力してくださっているんだ。
でも、この事は、まだ公表しないでね。
俺達天竜よりもずっと闇の神に狙われているんだから」
「解った。それは書かないよ。
と言うか、これ以上は盛り込めないよ。
ところで、班長は?
研究所を見てるうちに居なくなったけど?」
「人界に行ったよ。
色々と活動しているからね。
それじゃあ、出版社に戻って、登場人物の名前を考えよう」
控室に駆け込んだアカとフジを見て、
キンがハクから離れた。
金「どうしたのだ?」
藤「いえ、何も」緋月煌する。アカも。
金「そうか。ならば良いが……それで、
アカのセットリストは決まったのだな?」
藤「はい♪ 1曲目、2曲目は新曲で、
ダンスとバラードです。
『相想う』『煌星』『鮮紅』と続いて、
『薫緑の雫』で、互いに片想いの関係から
想いが通じて永遠の幸せを願い合う関係
へとストーリーが出来上がります。
いかがでしょう?」
金「素晴らしいな。
最初2曲は、もしや――」
赤「そうだ。シノビマンの主題歌だ」
金「最後に皆の台詞とポーズが有るが、
そこは、どうするのだ?」
赤「やって欲しい」ニヤッ。
金「それではアカのソロステージでは
なくなるではないか」
赤「ドラマの宣伝として是非にとの事だ」
金「許可を得たのか!?」
赤「ああ」千里眼を見せる。
藤「どのような曲なのですか?
ポーズとは……もしや、あの――」
赤「その通りだ」フフッ。
金「アカも、やらねばならぬのだぞ?」
赤「俺ひとりならば間違っても遣らぬ。
しかし、兄弟揃ってならば……面白い」
アカの予想外の言葉に絶句してしまった
キンとフジであった。
ハクは? ――お説教で放心状態である。