いろいろ動き出す
アオはアンズも妃にするようです。
♯♯ 天竜王国 王都 ♯♯
アオは複製と共に、王都で最も大きな出版社の一室に居た。
扉を叩く音がし、『こちらです。どうぞ』の声と共に扉が開くと、入ろうとした男が目を見開き、踵を返した。
アオとルリは間髪を入れず曲空し、各々が男の腕を掴むと、待っていた部屋に戻った。
「どこに行くんだい?」
「久し振りだな、スオウ」
「班長……あっ! いや、中隊長殿っ!
じゃなくて! カムル少尉殿!」
勢いよく跪き、額を床に着けた。
「副長! 違っ! アオ王子殿下様っ!
申し訳御座いませんっ!!」
「謝らなくていいよ」
「早く椅子に座れ」
「ルリ、もう少し優しく、ね?」
「ぐずぐずするからだ」
「とにかく座って。
名前は呼び辛いだろうから班長と副長でいいよ」
「スオウ、聞こえないのか?」
「ルリ、怖がらせないでよ。
スオウ、俺達は怒ってなんかいないんだ。
とにかく座ってよ」
それでも伏せたまま動かないので、二人で引き上げ、椅子に座らせた。
「スオウ、本当に怒っていないんだよ。
頼みが有るから来たんだ」
「何でも聞くっ!」焦り顔を上げた。
「だから、そういうのじゃないんだ。
後の事も考えて呼び出してしまったけど、本当にお願いなんだよ」
「何でも言って――違っ、仰ってくださいっ!」
堪り兼ねたルリがスオウに光を放った。
「ああっ!! ・・・あ? これは?」
「浄化と治癒だ。とにかく落ち着け」
「はい……すみません……班長」
「『双青輝伝説』の事は本当に怒っていない。
軍にも双青輝のルリが生きていると認知してもらえたからね。
その点では感謝しているんだよ」
「感謝? あ! ですかっ?」
「敬語とかも使わないで、会話し辛いから。
ただね、ここのところ外交で訪れた国で、なんだか意味有りげな視線をよく感じていたんだ。
仕事に若干の支障が有るから、物語だとは発表してほしいんだよね」
「解った! すぐに発表する!」
「それと、もうひとつ。
急いで次作を書いてもらいたいんだ。
またブルーとラピスが出る物語をね」
「何でも書く! で、どんな話なんだ?」
「『双青輝伝説』の空白の140年を埋める話なんだ」
「その話! 書きたい!」
「ルリには妹が居るんだ」
「えええっ!?!」
「煩い。落ち着け、スオウ」
「……はい……」
「ルリが大怪我をした後、孵化してね。
俺は見守ってきたんだけど、そのアンズは縁談を断り続けているんだよ。
どうしても結婚したくないってね。
それでルリと相談して、俺の妃にすれば、もう縁談は来ないから、そうしようと思っているんだけど、『双青輝伝説』が広まってしまったからね。
二人目の妃は肩身が狭くなると思うと、縁談との闘いを続けた方がマシなのか、と悩ましい所なんだ」
「で……副長としては、その妹さんも好きなのか?」
「俺にとっては、妹半分、娘半分みたいな感じだからね。
好きは好きでもルリとは全く違うよ。
妻にする、と言うよりは、妹を保護するって感じかな?」
「アンズがアオを好きならば、いずれ名実共に妻にすればいい。
結婚それ自体が嫌なのならば、名だけの妻で自由に生きればいい。
他の誰かを好きになったならば、その相手と結婚できるよう、自由にしてやればいい。
私は、そう考えている。
アンズはまだ子供なのだからな」
「そうか……140歳手前って事だよな?
でも結婚かぁ。
そもそもどうしてそんなに縁談が来るんだ?」
「ルリとアンズも王族だからね」
「がっ……ぁぅ……」
「おい、顎が外れたのか?」
ルリが立ち上がり、光を纏った手でスオウの顔を挟んだ。
「あ……治った……すっかり。
班長、ありがとうございます。
班長も医師なんですか?」
「スオウも書いていたと思うが?」
「あれは想像で……話の流れで、そうしたんですよ。
それで妹さんのお気持ちは?」
「話してくれないんだよ。ルリにも。
アンズは、城の使用人達とも仲がいいらしくてね。
だからスオウの奥さんに聞いてもらおうと、頼んだんだ。
あ、アンズの声だ」
ポケットから取り出した物をテーブルに置いた。
「あ、それ……壁耳か?」
「そうだよ。弟に小さくしてもらってね。
これの相方はコモモさんに持ってもらっているんだ。
何なのかは説明していないんだけどね。
音を大きくするよ」
♯♯ 天竜王城 ♯♯
アンズはコモモに呼び出されて倉庫に入った。
このアンズは、サクラの複製ではなく、アオの複製なのだが、見分けられるのはギンくらいのものだろう。
「コモモさん? どこですか?」
「アンズ様、こちらにお願い致します」
少し奥の棚の向こうで手招きしている。
そこに向かって行き、棚の向こうを覗き込む。
「どうしたのですか? 倉庫って……」
「アンズ様がご縁談をお断り続けていらっしゃると伺いまして……何か私に出来ます事は御座いませんか?」
「それは……私がお断りする他には……でも、ご心配くださって、ありがとうございます」
「私……アオ殿下には大変なご迷惑をお掛けしてしまいましたので、本当に何かしたくて……」
「ご迷惑?」
「あの……私、スオウ=バクテルの妻なのです。
『双青輝伝説』の。
アオ殿下がご婚約をなさる前に、つい夫に話してしまったのです。
ルリ様が、あまりにお美しくて、凛となさっていて、素敵なお方でしたので、『ご婚儀が見たいわ』と……つい。
まさかそれが、あんな小説になってしまうなんて……広まってしまうなんて……」
「そんなにお悩みなさらないで、ね?
アオ様もお姉様もお怒りになられてなどおりませんわ」
「そのお優しいアオ殿下が、アンズ様をご心配なさっておられたのです。
ご結婚そのものがお嫌なのか、それとも心にお決めになられていらっしゃる殿方がいらっしゃるのか……と。
確かめようもなく、お困りなのですとか……」
「コモモさん、アオ様に私の答えを伝えようとなさっていらっしゃるの?」
「いいえ! 滅相も御座いません!
ただ、裏方として何か出来る事があればと……それだけなので御座います」
「そう……ありがとう、コモモさん。
私、基本、ひとを信じるの。
でもね、結婚は別なの。
何方かを信じて、ついて行くなんて……出来ないの。
ついて行きたいのは、ただひとりだけなの。
でも、その方が私を向く事は無いの。
だから結婚は……私には出来ないの」
「アンズ様……もしや、そのお方とは――」
「言えないわ。言ってはならないの!」
「アオ殿下なので御座いますね?」
「後押しなんてなさらないでね?
私は今の補佐で十分なの。
この関係を壊したくないの。
だから、そっとしておいてくださいね。
コモモさんのお気持ちだけで十分なの。
ありがとう。でも何もなさらないで。
それが私の望みよ」
泣き顔のような微笑みをコモモに向けたアンズがサッと動いた。
足音が駆け去っていく。
「アンズ様……」
♯♯ 出版社 ♯♯
「おい。何の事は無い。
アンズ様も副長が好きなんじゃないかよ。
結婚すれば解決じゃないか」
「スオウが『双青輝伝説』を広めたから、結婚し辛いんじゃないか」
「あ……そうだったな……すまん」
「それで、頼みなんだけど。
空白の140年、アンズと俺の話を書いてほしいんだよ」
「アンズがアオとの結婚を望んでいると判ったからな。
私も後押ししたいのだ。
アンズが育つのを見守れなかったのだからな。
幸せを掴んで欲しいのだ。
だからスオウ、早急に頼む」
「解った。頑張るよ。
で、何があったのか話してくれよ」
♯♯ 中の城下 イベント会場の救護室 ♯♯
【サクラ――アオと一緒ではないのですね?】
「バナジン様、何かありましたか?」
【昨日の異空間捜索で見つけた水晶にも大勢の神が封じられておりました。
今、当時のお話を伺っておりますので、来ませんか?】
「んじゃあ、複製が千里眼持って行く~♪」
【それと、緋晶様もお会いしたいと仰っておりましたので、アオと揃って赤虎工房の方にも行ってくださいね】
「緋晶様ってコトは禍石なんですね?」
【おそらく……】
「ん~と、夜には行けると思います」
【では、そうお伝えしておきますね】
「ありがとうございます♪」
【おや? あれは――】
「うん♪ スミレじゃなくてヒスイ♪」
【ああ、スミレは、あちらですね。
え? もうひとり……】
「うん♪ アメシス様も来ちゃった~♪
ユリさんの水晶、コレ♪
ミカンさんと行っちゃった~♪」
【そういう事ですか】ふふふっ♪
♯♯ 神楽の風穴 ♯♯
風穴の最奥に辿り着いた姫は、風が吹き荒れ、真っ暗闇の中、クロと共に瞑想していた。
(アンズ殿が来ぬ……)
(姫、集中しろよな)
(しかし、気になるのじゃ)
(ん~、あ。今、イベント会場の救護室に居るよ。医者してる。
こりゃ、夜まで来そうにねぇな)
(然様か……)ホッ。
(ん? 待てよ。神眼発動中に供与すれば――)
抱き寄せて――
バシッ!
(何をするのじゃっ!)
(いや、だから試そうと――)頬をなでなで。
(修行中に、突然とは如何な事なのじゃっ!
真剣に――)
(オレは真剣だよ。姫がボーッとしてたんだろ)
(う……すまぬぅ)
(オレが神眼で見てるのを、姫にも供与で見させてやれっかな、って思ったんだよ)
(さ、然様か……)
(試していいか?)
(うむ)
(じゃ、やり直すぞ)
姫が頷いたので、クロは抱き寄せ、神眼をアンズに合わせてから供与を発動した。
(何か見えるか?)
(うむぅ……ぼんやりと白い人が動いておる)
(ぼんやりかぁ。強めるぞ)
(うむ)
(どうだ?)
(少し明瞭になったぞ。
アンズ殿じゃとは判るよぅになったぞ♪)
(どーすりゃいいのかなぁ……ん?)
(如何した?)
(アレ……何だろな……)
(中断せよ)
(だな)
クロは離れて、気を察知した方に神眼を向けた。
(竜宝か?)
(アオかサクラが来ておったのでは?
あっ!!)
(どうした?)
神眼を姫に向けると真っ赤になって踞った。
(見られてしもぅたぁ……)
(あ……でも、この気、アカだ)
(同じじゃろぅがっ!!!)
(真っ暗なんだし見えるかよ)
(見えたから無言で置いて行ったのじゃろ!!)
(アカの無言は、いつもの事じゃねぇかよ)
(しかしっ! およ?)
姫の握り拳の中に紙の感触が現れた。
(どうした? あ……アカの字だ。
説明書? コイツのだな。うん。水鉄砲だ。
魔物を浄化する水を入れてあるらしい。
補充の要無し……ふぅん。無限に放てるんだと)
(やはり、見られてしもぅたのじゃ……)
(んで、簪!? あ、竜宝か。
コレを挿せば……そっか!
さっきのが、ちゃんと見えるんだ!♪
って……簪ってアレだよな……もしかして、わざわざ簪の形にしたのか? アカのヤツ)
(何をブツブツと――)
(姫、外に行こう)手を取って曲空。
――風穴入口。
「姫、さっきの見えにくいのを解決する竜宝なんだが、アカが簪にしてくれたんだ。
だから……中の国式で、改めて求婚させてくれ」
「クロ……」うるうるっ――
「泣くなよぉ」
繋いだ手を引き寄せ、背に手を添えた。
「静香、オレと結婚してくれ」
髪を撫でて整え、慎重に簪を挿した。
「ずっと一緒に、な?」
「うむ……この上のぅ幸せじゃ……」
「そっか」
姫の顎に指を添えて上げ、唇を重ねた。
(一緒に、皆が笑える国にしよう)
金「では、フジのセットリストは、
『輝竜』のダンスバージョン、
『揺れる花の季節』、『白百合の想い』、
『竜と共に』アコースティックバージョン、
『優しい光』虹笛バージョン、
『相想う』で決まりだな?」
藤「はいっ♪」
金「全ステージ、このセットリストなのか?」
藤「駄目でしょうか?」ハクを見る。
金「いや、構わない」ハクを見る。
赤「ならば俺もだ」ハクを見る。
白「何だよぉ?」
金「まぁ、ある意味、良い前例となってくれた」
藤「そうですよね。気が楽になりましたよ」
赤「同意見だ」
白「その次は兄貴だろ?
全部 違うのにすんのか?」
金「いや。だから良い前例だと言ったのだ」
白「だろ? アオとサクラが異常なんだよ」
金「ハクも十二分に異常だ」
白「酷ぇ言われようだなっ」あははっ♪
金「笑い事では無い。
いずれ共に玉座に並ぶのであれば――」
キンのお説教が始まった。
藤「アカ兄様、少しでも決めませんか?
長くなりそうですよ?」
赤「……ふむ」