神と息と涙
クロと姫は楽しく新婚生活をしています。
【懸念……ですか?】
【御前達が神に成った頃の龍神帝王だ。
あの強い方の龍神帝王は、ジャスパ様ではないのか?
会った事は無くとも、御前ならば何か拾っているのではないのか?】
【龍神帝王の個神の気を拾う事は、とても困難です。
皆、闇の神の子孫なのですから。
その上、仰る通り、私はジャスパ様の気を存じません。
ですが……】
【違うのであろう?
ジャスパ様だけは龍神帝王になど、されてはいない。そうであろう?】
【外に出ましょう】
言い終わる前に、ルバイルは出て行った。
♯♯ アオの酒倉 ♯♯
「引き出します!」
アオの掌握が、壁から緑竜を引き出した。
水晶と禍石を並べていた匠神達が集まり、一斉に光を浴びせる。
「アオ兄♪ はい♪」颯竜丸♪
「ありがとう、サクラ」にこっ♪
「次はコレ~♪」笛を振る。
「そうだね。吹こう」
「始祖様、だいじょぶ?」
【もちろんだ】
再び笛の音が酒倉を満たす。
♯♯ 静寂の祠 ♯♯
外に出たルバイルは、両手を広げ、光を纏った。
静かな夜の涼やかな気を吸い込み、拾知を全開にし、気を高めていった。
芳小竜達が飛んで来て、腕や肩に止まる。
周りに漂うもの、足元から見上げるもの、そっと寄り添うもの。森の家から次々と飛来し、集まっていった。
【心配してくださったのですね。
大丈夫ですよ。お手伝い、お願いしますね】
♯♯ アオの酒倉 ♯♯
【あっ!】【動きましたね】【もう大丈夫だな】
【あ……】【如何した?】【笛を……】【ん?】
【コバルト様が笛を吹いていらっしゃいます!】
【あ、確かに……】【管楽器の匠神を集めよ!】
(匠神様達どしたのかなぁ?)
(大騒ぎだね)
(うわわっ! いっぱい来たよ!)
(泣いて……いらっしゃる?)
(始祖様ぁ、また何か悪さしたのぉ?)
【してないっ!
あれは皆、管楽器の匠神達だ。
神は息をしていない。
だから俺と同じく、吹けなくなっていた者達だ。
俺も、アオが釈迦様を起こす為に教えてくれるまで気付けなかったのだ。
アイツらも同じだろうよ】
(身体が無いから?)
【そうだよ】
(でも泣いてるよ?)
【ん? それがどうした?】
(涙。身体が無いから息できないのに、涙は出てるよ?)
【あれは感情の結晶だ。
水になるとも限らない。石なんかも多いぞ】
(なんか痛そぉ~)
【身体は無い!】
(そっか~)きゃはっ♪
【時には、宝石や真珠、花になる事だってあるんだよ。
他にも色々とな。虹や光なんかも普通だ。
ただ、身体が有った頃の名残で、水が最も出し易いんだよ】
(へえぇ~♪ 神様って面白~い♪)
【面白いって、お前……】
(お花 出して~♪)
【言われて出るかっ!】
(ケチ~)
【お前なぁ】(始祖様、ロズオラ様が――)
「ここ……は……?」
歓喜の声が酒倉に響く。
【ロズオラ、助かったのですよ】
「お祖母様……助かった?
あっ! ジャスパは!? ウォメロは!?」
【ウォメロは、そこに。無事ですよ。
ジャスパ様は、引き続き探します。
その前に、あなたを解呪しなければなりません。
金虎様、最高神様に、大神様方を集めるよう、お伝えください】
♯♯ 静寂の祠 ♯♯
ルバイルが両手を下ろし、気を鎮めた。
【ジャスパ様の気は掴めません】
【滅された……のか?】
【いいえ。そうではなさそうですが……闇神城でもなさそうです】
【それでは――】【ルバイル様!】
【あ……カルサイ……】【アオの酒倉ですね?】
【はい! ゴルチル様も直ぐにお願いします!】
【言うだけ言って消えおった……】
【大神様を集めているのですよ。
急ぎましょう】
【何が起こっているのだ?】
【行けば分かりますよ】ふふっ♪
【見えたのだな?】
ルバイルは笑うばかりで答えず、ゴルチルを連れて移動した。
――アオの酒倉。
その外、アオの屋敷の庭では、大神と匠神達が犇めき合うように魔法円を囲んでいた。
中央の原神竜の正面にロサイトが立つ。
【最高神様、真後ろに。
左、前最高神様。右、ルバイル様。
アオ様、サクラ様、コバルト様、ドルマイ様。
その間に、お願い致します。
フローラ様、対象の背に掌握を当て、神眼の光景を伝えてください。
では、呪魂の解呪を始めます】
ルバイルと共に来た芳小竜達が、喜び勇んで魔法円に飛び込んだ。
ロサイトは微笑み、唱え始めた。
♯♯ 神楽の風穴 ♯♯
(やはりクロの料理は絶品なのじゃ♪)
(ったりめーだっ!♪
でも……食材の補充は、どうなってるんだ?
買い出しに行けって事なのか?)
(誰ぞ来た時に確かめればよかろ?)
(朝の分は十分だけどな。
あ……明日、オレ、どーすりゃいいんだ?)
(ワラワではなく、アオに聞く他は無かろ?)
(だな)(アオ……アオ? アオ!)
何やってんだ? アイツ……あ!
解呪かぁ。そりゃムリだな。サクラもか。
じゃあ他は?
ハク兄、まだ暗記中なんだな……
オレどうしよう……あ、キン兄とフジだ。
帰って来たって感じだな。
んじゃ、フジに聞くか♪
(フジ♪)
(クロ兄様、どうしましたか?
ああ、夕食なのですね?)
(終わったトコだ♪
あ、明日の食材、どーすりゃいいんだ?)
(では、運びます)
(ありがとなっ♪)(姫、フジが来る)
大きな木箱を抱えたフジが現れた。
(他に必要な物があれば仰ってください)
(ん)ガサゴソ――(十分だっ♪)
(姫様、修行の方はいかがですか?)
(まだ奥にも行けぬのじゃ)
(少しずつ慣れてくださいね)にこっ。
(うむ♪)
(なぁフジ。
明日は、いつ、どこに行きゃいいんだ?)
(これからのイベントは、全てサクラがクロ兄様をするそうですよ)
(えっ!?)
(それでは、修行に集中してくださいね)
(待てっ! サクラがオレやるって!?)
(ええ。私は、そう言いましたよね?)
(オレはオレがやるっ!!)
(今は、そんな余裕なんてありませんよ。
地下に行けるようになってください)
(だがっ!)
(輝竜衆が求めている『輝竜のクロ』は、サクラが演じている方ではありませんか?
すっかり定着してしまったのですから、修行に集中してください)
(フジ……)
(姫様も、その方が嬉しくはありませんか?)
(あ……確かにのぅ)
(では、頑張ってくださいね)にっこり。
フジは曲空した。
(姫は……サクラのオレがいいのか?)
(そぅではない。ワラワは……)
また真っ赤になって俯いた。
(姫? 何だよ?)
(修行するのじゃっ!)ぷいっ! すたすた――
(待てよっ! 話が先だっ!)
姫へと曲空し、腕を掴んだ。
(放せっ!)
(どうして……サクラのオレが嬉しいんだ?)
(言わねば分からぬのか?)
(分からねぇから聞いてるんだよ)
(仕方のないクロじゃ……ばかクロじゃ)
(姫に嫌われたくねぇんだよ。
あのオレがいいんなら、そうするから……努力するから……な?)
深い深い ため息――(そぅではないのじゃ)
姫は俯いたままクロの方に身体を向けた。
(ワラワが始めてしもぅたのじゃから、言えたものではないのじゃが……)
(……うん。いいから言えよ)
(クロを……)
(……ん?)
(他の女共が見詰めるなど許せぬのじゃっ!)
(え? じゃあ……)
(クロはワラワだけのクロなのじゃっ!!)
(そうだよ。オレが好きなのは姫だけだよ)
そっと引き寄せ、ギュッと抱きしめた。
(クロ……すまぬのぅ)
(なんで謝ってるんだよ?)
(輝竜を始めてしもぅて……)
(おかげで人は竜を認めてくれたんだ。
まだオレ達は『竜使い』だけど、大きな一歩だよ。
だから感謝してるよ)
(クロぉ~)ぐすっ。
(泣くなってぇ。
でも、王子の仕事になっちまったから、続けなきゃなんねぇ。
だからガマンしてくれよ。
メオトになったんだし、オレは揺るがねぇ。
信じてくれよ。な?)
(クロは信じておるのじゃが……ワラワが、クロを見ておる女共が許せぬよぅになってしもぅたのじゃ。
こんな嫌なワラワのままじゃと、いずれクロに嫌われてしまうのじゃ)
(婚約者の皆さんも同じなのかな……)
クロの呟きに、姫が身を震わせた。
(姫?)
(きっと……いや、間違いのぅ、皆そぅなのじゃ!
ワラワは酷い事をしてしもぅたのじゃっ!)
(すまねぇ!
姫を責めるつもりなんて無かったんだ!
大丈夫だ。皆さん、ちゃんと解ってるよ)
(理解でのぅて感情なのじゃっ!
こぅして居りたいのはワラワだけでない筈なのじゃっ!)
(大丈夫だから落ち着けよ、な?)
(ワラワが……ワラワが皆を……)
(アオは今、解呪してるんだ。
それが終わったらルリさんを連れて来てもらうからな。
大丈夫だから確かめてみろよ)
(ワラワが……聞くのか?)
(オレが聞いてもいいのか?
それでよければ聞いてみるけど……姫がここに居るのは、ルリさんも知ってるんだぞ。
ホントにいいのか?)
(そぅじゃったな……逃げ隠れは卑怯じゃな。
ワラワがした事なのじゃから、ワラワが確かめねばならぬな……うむ!
決めたぞ!
ワラワは責を果たさねばならぬのじゃ!)
(そう気負わなくても大丈夫だよ)
クロは、勇んで顔を上げた姫の涙をそっと拭って、額に口づけを落とした。
銀「アンズは嫁には……なれんぞ」
常「だから困っているんだよ」
銀「本人に確かめてみるか……」
常「確かめなくても無理に決まってるだろ」
銀「だよなぁ」
常「そもそもギンがフザケて広めたんだろ」
銀「うっ……」俺じゃなくて呪なんだが――
常「とにかく、上手く断る理由を考えてくれ」
銀「俺がかっ!?」
常「他に誰が居るんだよ?」
銀「うっ……だよな……」