第九十二話・必死な抵抗
「ク、クソ！ぼ、防御が間に合わねぇぇぇええっ！？」
ルコールの攻撃を何とか防御しようと、ネージュが慌てて両腕を素早く
クロスに構えるが、防御体勢が完全に間に合わず、
「ま、負ける...こ、このあたいが負ける！？あの英雄の生まれ変わりと
謳われたこのあたいが...こんなにも無様に、こんなにもみっともなく
翻弄されて――――ぐふぁはぁぁああ！！？」
力が込もったルコールのブローパンチがネージュの顎をマトモに捉え、
クリーンヒットする！
「うがが....くのおぉ...よ、よくも、よくもぉぉ......ぐぬう......」
しかしネージュはヨロヨロと身体をよろめかせ後ろに下げるものの、
何とか倒れずに踏みとどまった。
「お、今の攻撃に耐えるんだ？後衛職の魔法使いなのに、防御力が
バッチリじゃん♪」
「と、当然だ...ハァ...ハァ。あ、あたいは魔法使いは魔法使いでも魔導...
格闘家なんだ！そんなショボいパンチなんて、効く...効くかよ......ハァハァ」
いやいや...思いっきり、効いてますよ、魔法使いのお人！
あなたの顎、倍近くも膨れ上がってるじゃん！
今にも倒れそうなくらいの勢いで、息を乱してゼーゼーしてるじゃんっ！
ルコールの攻撃に痩せ我慢しているネージュに、レンヤが心の中で
盛大につっこみを入れる。
「い、いくぞ、小娘！こ、今度こそ...その余裕ヅラをボコボコに...ハァ...
ハァ...し、していやるからぁぁぁああっ！！」
『ぬおおおおお！鉄鋼拳っ！！』
ネージュは今にも倒れそうな身体を奮い立たせると、咆哮を荒らげて
ギフト技を発動させ、両手の拳が黒い鉄の拳へと変形させる！
「そして焔の炎よ！あたいの拳を熱く...熱く燃えあがらせろぉぉおっ！」
『フレイム・ナックルゥウゥウッ！！』
続け様にネージュが炎魔法...フレイム・ナックルを詠唱すると、先程
変形させた両の鉄拳が、炎の熱にて赤く輝いていく！
「お、おい見ろよ、ネージュの拳を！何か真っ赤に輝いてるぞ！？」
「あの技、通常の鋼鉄拳ともフレイム・ナックルとも違うよね？」
「...ああ、そうだな。確か鋼鉄拳の見た目は黒く、フレイム・ナックルの
見た目は炎がメラメラと揺らいでいるもんな。でもあれはそのどちらとも
違うし......？」
「俺、知ってるぜ！あれはギフトとギフトを掛け合わせる事でギフト技の
威力を上昇させるという上級ギフト技...『融合』ってやつだ！」
「わ、技と技を掛け合わせる...マジでかっ！？」
「ああ。俺が聞いた話じゃ、あれは限られた者にしか使う事のできない
難しい技らしいぞ！」
「限られた者にしか......それをあの若さで使えるのか、ネージュの奴......」
「さ、流石は英雄の子孫で、Aランクパーティの冒険者だな！」
「これはあの嬢ちゃん、終わったかもしれんな......」
宿屋の外からレンヤ達の動向を覗き見ていた冒険者達が、ネージュの
発動させた『融合』を見て、喫驚や尊敬の入り混じった声を響かせてくる。
「......へぇ、技と技って融合ができるんだ？」
良い事を聞いた、覚えておこうっと。
レンヤは冒険者達の話す貴重な情報を、頭の中の引き出しに刻む様に
シッカリとしまい込むのだった。
