第七十七話・おっさん、ゴミを見る様な目で見られる
「おお、これが俺達の泊まる部屋か。結構広いじゃないか!」
俺は部屋の中を覗き見ると、部屋の奥にベッドがあるのが見え、
その反対側には、食事をする為のテーブルと椅子があるのが見えた。
あ。良く見ると、部屋の中に数個のドアが見えるな?
ん?それぞれのドアに、何か札みたいな物が貼ってある...えっと、
あの右側のドアにはトイレと...書いてあるな。
どうやら、トイレは部屋の中に備えているみたいだ。
それであっちのドアには...シャワー室...と、書いてあるな?
シャワー室っていう事は、もしかして浴槽は備わってないのか?
あのドアのある壁の間隔を見るに、多分なさそうだな。
く、だとしたら...残念だっ!
お湯の中にドブンッと浸かって、のんびりしたかったのにぃぃっ!
俺は浸かれる浴槽がない事に、心底ガッカリしてしまう。
「ねぇ!レンヤ、レンヤ!」
そんな悄気中の俺の裾を、ルコールが元気な口調でちょんちょんと
摘まんでくる。
「ほら!見てみてよ、あのベッド!何と、ダブルなんだよ、ダブルベッドッ♪
あのベッドならさ、あたしとレンヤの二人で一緒に寝られそうだね♪」
「ブゥゥゥゥ――――ッ!?」
そしてお日様な笑顔を俺に向けて、そう述べてくるので、ふいうちを
食らった動揺で、息を思いっきり吹き出してしまう。
「ちょ!?い、一緒に寝るだとおぉぉぉおっ!?」
「え...一緒に寝ないの?もしかして、ひとりでベッドに寝るつもりとか!?
だったら、あたしはどこで寝ればいいっていうのよ!嗚呼!ひょっとして、
あたしに床で寝ろってかぁ!」
驚きを見せるレンヤの姿に、困惑した表情のルコールがフルフル震えながら
後退りし、そして叫声を上げて抗議する。
「アホ!逆だ!逆っ!お前がひとりでそのベッドで寝ろ!俺はこっちの床で
寝るからさ!」
だから娘さん、俺をそんな蔑んだ瞳で見ないでくれぇぇっ!
宿屋の元気っ子な娘さんがまるでゴミを見るような目線でこっちをジィィーと
見てくるので、俺はその要らぬ誤解を解く為、慌ててルコールの意見を
全力で否定する。
「床で寝るって、駄目だよそんな所で寝ちゃ、疲れだって取れないじゃん!」
「大丈夫、大丈夫。俺って結構こういう場所で寝るのには慣れているんだ!
だから、そのベッドはルコールが使ってくれ!」
「ハァ...レンヤ...何て無駄な気遣い......」
「この人...良い歳なのに、つまらない人ですねぇ......」
「―――はうっ!?」
な、何でさぁぁあっ!?
今の俺、超紳士的な態度を見せたよねっ!?
何のになんで二人共、そんな卑下する目線で俺を見てくるのぉぉおっ!?
...と、俺は心の中で叫ぶのだった。




