第五十一話・キャンセルするの?
お、遅かったあぁぁあ―――っ!??
「あの...どうかなさったんですか、レンヤ様?そんなこの世の終わりの
ような表情をし......あ!も、もしかして、ギ、ギルド登録をキャンセル
するおつもり...なのでしょう......か?」
受付嬢が周囲の冒険者達の目線にふと気付くと、先程まで見せていた
キラキラな瞳が、少しずつ、うるうる瞳へと変わってくる。
―――ちょっ!?
その瞳やめてぇぇぇええっ!?
絶望を訴えるような、悲しさタップリの上目遣な瞳をぉぉおおっ!!
「い、いや...ち、違うんです...いや、違わなくない...いや......あは、
たははは~♪」
ま、参ったな。
これはもう流石に、
「すいません!やっぱり、さっきのギルド登録をキャンセルの方向で
お願いできませんかねっ!」
......何て、死んでも絶対に言えない空気感だっ!
「あ、あの...レンヤ様。やはり、キャンセル...ですか?」
ひゃぁぁぁぁあ―――――っ!
そ、その今にも号泣が溢れ出そうな瞳をおやめになってぇぇぇえ―――っ!!
「あははは!な、何を言っているんですか。キ、キャンセルなんて
絶対にありえませんから!なので、どうか御安心をっ!」
うん。
もうどうにもなれ!
何が死亡フラグだっ!
そんな不確定なもん、クソくらえだってんだいっ!
「あぁ...あのおっさんも、ミュミュさんのうるうる瞳に負けてしまったか...」
「事情を知った連中も、あのうるうるにやられて尻込んだんだよな...」
え...!?
「おっさん...惨たらしい死に様にならないように祈っているぜ......」
「俺も祈っておくぜ!何せ、この間の奴は魔物の群生に出くわしちまって、
骨も残らずに全て食われちまったらしいからな......」
お、おい、そこぉぉぉおおっ!
何をさらっとトンでもない事を口走っているんだ!
そんな話を流すとフラグが立って、俺も同じ目に合っちまうだろうがっ!
「あ、あの~レンヤ様。本当に...本当にキャンセルは無しで良いの
でしょうか?」
挙動不審な俺の行動を見て、不安そうな表情になっている受付嬢が、
恐る恐るキャンセルの話を再びしてくるので、
「も、勿論!んなもん、無しでいいに決まっているでしょう、うん♪」
それを見た俺は、慌てて挙動不審を抑え、受け付嬢に向けて静かに
親指をソッと突き立て、オッケーのサインを見せた。
「ホッ!良かった。あ!で、でも...わたしの噂はその...聞きましたよね?」
そんなレンヤの嘘っぽい笑顔と、周囲の冒険者達のざわめきを感じ取った
受付嬢が、申し訳なさそうな表情をしている。
「はは...まぁ、聞いたっていうより、聞こえてきたんだけどね...」
「だったら、その...いいんですよ。か、悲しいですけど、わたしは
大丈夫で―――はうっ!?」
「はいはい、ストップ。もうそれ以上は言わない!」
冒険者達の噂を聞き、表情を下に落としている受付嬢を安心させる為、
俺はニコッと微笑んだ後、受付嬢の頭の上に手のひらをポンと置く。
「もう一度言いますが、俺は絶対にキャンセルなんてしませんから、
落ち着いて下さい......ね♪」
そしてそう述べた後、頭に乗せた手のひらを優しく動かし、受付嬢の
頭を撫でていく。




