第三十八話・おっさん、取り敢えず逃げる
「じっとしててね、レンヤ。じゃないと落ちちゃうからさ!」
「へっ!?落ちちゃう?お、落ちちゃうって、何......」
ルコールがニコッと微笑み、俺にそう述べた瞬間!
「のわわわあああぁぁぁぁぁ―――――っ!!?」
俺の身体が上に昇っていくフワッとした重力を感じ、そしてハッと
気づくと、目の前に映ってくる視界が一瞬で空の風景へと
切り替わっていた。
「な、何なんだ、これ!?周りが空だらけじゃんっ!?」
まだ空の上にいる事に全く思考が気づいていない俺は、回りを
キョロキョロ見渡し、その視界に入ってくるのが、右も左も、
空、空、空、の風景に、思わず「何これ!?」と喫驚してしまう。
「ん?そういえば、さっきから何~か、地に足がついていない感じが
するん―――」
そして足に重力を感じない感覚が気になった俺は、目線を下の方に
スーッと向ける......
「って!?な、なんじゃ、この高さはぁぁぁぁぁ―――――っ!!?」
じ、地面や騎士達が、ああ、あんなに遠くにっ!?じじ、じゃあ!
こ、ここは空の......上っ!!?
俺はやっと自分がルコールに抱きかかえられ、空の上にいる事に気づく。
「ん...?この身体の震え?もしかしてレンヤって、高所恐怖症...なの?」
「そそ、そんな事あるか!ここ、こんな高さ、全然わけないっていうのっ!」
俺はルコールの「ウソでしょう?」と言わんばかりのニヤッとした表情が
気に食わず、つい虚言を吐いてしまう。
「そっか、それは良かった♪んじゃ、もうちょっと高く飛んでも問題ない
みたいだね♪」
「へ!?」
そんなやせ我慢な俺の答えを聞いたルコールが、ニヤりと満面な笑みを
浮かべた瞬間、更に上空高くへと上昇して行く!
「ちょ、まま、待ってええええぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
今のうそですぅぅっ!!
たた、高い所、マ、マジでめちゃくちゃ苦手ですぅぅぅぅぅっ!!
ヤヤヤ、ヤバいって!この高さ、マジで高過ぎるってぇぇぇぇぇぇっ!!
ドンドン遠くなっていく地面を見て、両の目玉がグルグルと回り、
心臓はいつもの何倍も早く鼓動を打ち、俺の恐怖心を加速させていく。
そ、そうだ!目をつぶって回りを見ればいいんだよっ!
あまりにも高鳴った恐怖心から今にも気絶しそうな俺は、それを回避するべく、
急ぎ慌てて目線を遮断させる為、目をつぶった。
「すぅぅぅ~はぁぁぁ~すぅぅぅぅ~はぁぁぁぁ~~~!」
そして平常心を取り戻そうと、ゆっくり、ゆっくりと深呼吸を何度か繰り返し、
グルグルドキドキな気持ちを少しずつ落ち着かせていく。
そして何とか、俺の平常心は持ち直したのだった。




