第三十四話・おっさん、恩を仇で返される
ルコールの衝撃波を至近距離で受けたジェントが、その身をズタズタに
切り刻まれて、その場にバタンッと倒れ込んだ。
「ふん...そこでしばらく寝ていろ、この恩仇者めがっ!」
そしてルコールが、地面に転がっているジェントを蔑む目で見ている。
「よ、よくも俺達の仲間をやりやがったなぁ、小娘ぇぇっ!」
「この盗賊風情が...絶対に許さんぞ、覚悟しやがれっ!」
「見ていろ、ジェント!俺達がきっと仇を撃ってやるからなっ!」
「そうさ!こんな盗賊二人如き、直ぐに退治してくれるぜぃっ!」
血気盛んな騎手や兵士達が気合いを入れると、俺とルコールの回りを
円で囲んでいく。
「やれやれ...。いつの時代も騎士というものは、どうしてこうも人の話を
聞きやしないんだろうねぇ...」
全く耳を貸す気のない兵士達に呆れるルコールが、深い嘆息を吐いてしまう。
「お前...こんな大ピンチだっていうのに、よくもまぁそんな冷静な態度で
いられるよな?」
「え?大ピンチ?レンヤにはこれが大ピンチなの??」
動揺を見せて慌てているレンヤに、ルコールが「嘘でしょう?」と言う顔を
して首を傾げる。
「アホかぁぁあっ!相手は王族なんだぞ、王族っ!その連中に俺達は今、敵の
認定を食らっているんだぞぉおっ!これを大ピンチと言わず、何を大ピンチと
言うんだよぉぉおっ!」
今の状況がまるでわかっていないルコールに、俺は説教に近い激おこを返す。
「う~ん。そんなに面倒ならさ...もういっその事、全部まとめて消しちゃう?」
ルコールは悪代官がしそうな悪どい微笑みをニヤリと浮かべると、自分の爪を
シャキンッと鳴らして伸ばす。
「おい!間違っても絶対に消すんじゃないぞ!もしそれをやってしまったら、
もう大ピンチどころの騒ぎじゃなくなるからなっ!」
俺は目を見開いて喫驚すると、戦闘体勢に入っているルコールに、マジの
注意を促す。
ふう...はてさて、この拮抗状態をどうするか?
キサリ皇后様かアリア皇女様が俺の無実を証言さえしてくれれば、それで事は
済む話なんだが......
俺はキサリ皇后様達の乗っている馬車へチラッと目線を向けると、先程の
将軍が中央に、そして部下数名がその回りに立っており、
「キサリ皇后様達の乗っておられる馬車には、誰も近づさせやしないぞっ!」
...といった感じでガッチリと馬車が守られており、誰も迂闊には近寄れない
状態だった。
「おいおい、おっさん!どこを目を向けていやがるんだぁぁぁぁあっ!」
俺が馬車に気を取られていると、周囲を囲っていた兵士のひとりが持っていた
槍を突き構え、こちらへ一直線に突っ込んでくる!
「あんたこそ、どこに目を向けている!この恩仇者めがぁぁぁぁあっ!」
『焼き燃やせ!ドラゴン・ファイアァァァァ―――――ッ!!』
ルコールが息を大きく息を吸って、それを思いっきり吐き出すと、吐き出した
息が螺旋状の炎へと変わる!
「な!?ほ、炎がぁぁあ!?炎が俺の身体に巻き―――ウギャアァアァッ!!」
そして俺に突っ込んでくる兵士に螺旋状の炎が直撃すると、その身体を瞬時に
紅蓮の炎が包み込んでいく!




