第三十三話・おっさん、最上級の面倒事に巻き込まれる
「な、なんだと...」
こ、皇后様!?皇女様!?
「そ、それじゃ、このお二人...もしかしなくても王族って事ですかっ!?」
俺は目を見開いて二人のいる方へ恐る恐る振り向くと、その目線にはニコリと
微笑みを見せるキサリ皇后様の姿が映った。
「や......」
やべええぇぇぇぇぇえ―――――――っ!!
立派な紋章だから、ひょっとして高貴なお家柄なんじゃ、とは思っては
いたけど、まさか王族だったとは!?
あの忌々しい城のせいで、もう二度と王族とは関わらないぞと心の中で
密かに誓ったばかりだっていうのに、
その決意の根も乾かず、再び王族と関わってしまうとはぁぁぁああっ!!
そりゃ~チューの為には、多少の面倒はしょうがないとは思ったよ!
思ったけれどもさ、
いざその面倒事の蓋を開いてみれば、それが王族ですとぉぉぉおおっ!?
多少どころか、最上級の面倒事に巻き込れてしまったぁぁぁぁあ―――っ!!
俺が心の中でそう叫声を上げながら、頭を抱えて悶えていると、
「おい、貴様!それ以上動くんじゃないぞ。もし動いたら、問答無用で
ブスッといくからな!」
悶えている俺の後頭部に、後ろに立っている人物が先端の尖った物をツンツンと
突きつけてながらそう述べ、注意を促してくる。
「ちょっと待ちなさい、マッシュ将軍!その御方は違うん......」
「良いのですよ、キサリ皇后様!こんな盗賊風情にお情けをかけなくとも!」
「だ、だから、違うんです!その御......」
「この下賎な盗賊風情が!いつまでその汚らわしい身をキサリ皇后様達に
近づけるかっ!」
「うべぇっ!?」
キサリの言葉をまるで聞かないマッシュと呼ばれた初老の将軍が、キサリ達の
乗っている馬車から、レンヤの首根っこを掴んで外へ引きずり出すと、
そのまま地面へと放り投げた。
「おい、ジェント!こいつを我らの馬車まで連行し、手枷をはめておけっ!」
「はっ!了解しました!マッシュ将軍っ!」
マッシュ将軍の命令に、馬車の外で待機していた部下のひとり...ジェントが
ビシッと敬礼する。
「いつまでも転んでないで、さっさと立ってこっちへ来いっ!」
「―――はぐっ!?」
馬車から放り投げられ、地面に転がっているレンヤをジェントが足蹴にして
強引に立たせると、自分達の乗って来た馬車へと連れて行く。
「ふう、これは参ったな......」
あのマッシュとか言う男、証人のひとりであるキサリ皇后様の言う事に
まるで耳を貸しやしない...
それにルコールの奴もいないしよ。
ったく...あいつめ、一体どこに行きやがったんだ?
俺はキョロキョロと辺りを見渡して見るものの、ルコールらしき姿が
どこにも見当たらなかった。
「ああ!さてはあいつ!俺を置いて逃げやがったなぁあっ!」
俺がどこにもいないルコールに、逃げたなと文句を叫声していると、
「失敬だな!このあたしがこんな連中如きから、逃げ出す訳ないでしょうがっ!」
ルコールが近くの巨木の上から飛び降り、俺達の目の前に颯爽と降り立った。
「のわっ!?き、貴様、どこから出―――」
『相手を斬り刻め、風の旋風たちよっ!ドラゴン・ソニィックゥウッ!』
「な、なんだ、この風は!?き、斬れる!?俺が斬り刻まれ―――」
「ウギャアアァァァァア―――――ッ!!」
いきなり目の前に現れたルコールに、ジェントがビックリして動きを止めると、
その隙を見計らうように、ルコールが口から空気を斬り裂く衝撃波を次々と
放ち、ジェントの身体を斬り刻んでいく!




