第二百八十三話・ユキのご機嫌取り
『......こい、ユキッ!』
レンヤはユキを召喚するべく、両手を前にバッと突き出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そ、そろそろ解散してくれないっすかね?ボク、いい加減疲れてき――
――あ、あれ!?こ、ここは?...って、ああ!そ、そこにいるは赤いの!
そ、それにおじさんっ!?」
「お、来たなユキ♪ほれ、お前の御飯も頼んであるから、一緒に食べ……
......ん?ど、どうしたんだ、ユキ?そんな膨れっ面をしちゃってさ!?」
「むむ。そりゃ~膨れっ面にもなるってもんっすよ!何でそいつだけ
呼んでさ、ボクの事は呼んでくれなかったんすかぁ~おじさんっ!」
ユキが頬をプクッと膨らませた表情で、自分を呼ばなかった事に対し、
納得がいかないとレンヤに猛烈な抗議をする。
「い、いや…そ、それはな、あん時はドアを破壊してもらうと思――」
「ふん。それは貴様が単に役立たずだと思われたからだ!そう…我だけ
いれば良いと主が判断されたのだよっ!」
しかしホノカが俺の言い訳を遮り、ユキにそう言い放つとニヤリと口角を
上げてふんぞり返る。
「...ホントっすか、おじさん?こいつの言っているのは...ホントっすか?」
ホノカの言った事は本当なのかと、ユキがウルウルした瞳でこっちを
上目遣いで見て訴えてくる。
「い、いや、それは誤った誤解だぞ、ユキ。さっきも言ったが、今回は
たまたまホノカの力が必要だっただけだ!だから、もういい加減に機嫌を
直してくれよユキ......な!なっ!」
今にも泣きそうなユキの頭を、俺は落ち着けと言わんばかりにワシャ
ワシャと撫で回す。
「ふ、ふん...そ、それくらいのなでなでじゃ...許さ......ない...ぬふふぅ♪
うにゃ、あわわ...も、もうちょっと強くお願いするっす、おじさ~ん♪♪」
ユキが文句を言おうとするものの、しかし撫でられるのは気持ちよいのか、
さっきまでの泣きっ面がゴキゲンの表情へと変わっていく。
「よしよし。もっと強くか。これでどうだ、ユキ♪」
俺はユキの催促通り、撫でる力を少し上げて頭をワシャワシャと撫で回す。
「おお♪いいっす!丁度良い感じっすよ、おじさん♪んじゃんじゃ、次は
そのままギュッと後ろからハグをよろしゃっすっ!」
ユキが頬をポッと赤く染めて、俺に背中を預けてくる。
ハ、ハグ!?
「い、いやしかし...ハグは流石にミナルお嬢様達の前ではテレると
いうか、恥ずかしいというか......」
「う、うう。おじさん......ボクとのハグはそんなに嫌なんっすか?」
レンヤがやんわりとお断りの言葉を口にしたその瞬間、ユキのつぶらな
瞳が再びウルウルとし始める。
だあぁぁあ、ヤメてぇぇえぇえっ!
そのウルウル瞳、マジでヤメてぇぇぇぇええっ!
「わ、分かった!やる!やりますからっ!ハグやらせてもらうから、
だ、だからそのウルウル瞳をやめてえぇぇえぇええっ!!」
俺はそう叫ぶと意を決め、ユキの背後に回りギュッとハグをする。
「こ、こんな感じで良いか?」
「うひゃぁあ~~っ!?よ、良いっす!マジいい感じっす、おじさ~ん♪
んじゃ、そのままの体勢でさっきのなでなでの続きをよろよろおねっす、
おじさ~ん♪」
「....あはは。了解、ワガママお嬢様♪」
俺は苦笑をこぼしつつも、ユキのツンデレの態度が可愛いなと思い、
ユキの頭を撫でるべくスッと手を動かす。
だがその瞬間、
「こ、こ、このぉおぉぉお、クソ白がぁぁぁああっ!い、いい加減に
しやがれぇぇぇええっ!マジで消し炭になるまでその身体、燃やし尽く
してやろうかぁぁぁぁあああっ!!!」
憤怒の表情に変えたホノカが、俺とユキに向かって大きく振り上げた剣を
思いっきり振り下ろしてきた。




