第二百七十七話・至高感福のなでなで
「え......っと、ですね。わ、私的には別に構わないのですが、しかし
王女様の頭を俺みたいな平民おっさんが気軽になでなでするっていうのは、
そ、その...さ、流石に如何なものかと思うんですよ。な、なので―――」
平民...更にはしがないおっさんなるこの俺が、王女様の頭をなでなで
するのは立場上を考えると駄目なんじゃと思い、やんわりした口調で
お断り申し出ようとしたその瞬間、
「平民がどうしたというのですか!それにレンヤ様はおっさんでは
ありませんわっ!わたしにとって、レンヤ様は白馬の王子様ですのでっ!」
「は、白馬の王子様!?」
アーニャちゃんが頬をポッと染めると、興奮気味の大きな声で俺の事を
おっさんどころか、王子様だと主張してくる。
「ああ!それによりもレンヤ様!話し方がまた敬語に戻っていますわよ~!
わたしとの会話で敬語は禁止だって、先程言ったではありませんかぁっ!」
そしてその後、レンヤの敬語に対し、アーニャはご立腹といわんばかりに
頬を再びプクッと思いっきり膨らませて注意する。
「おっと。これはすいません、アーニャお嬢...ゲフンッ!ゴ、ゴメンね、
アーニャちゃん。保守の心が勝手に働いて、ついつい.........あはは」
プンプンと激おこしているアーニャちゃんのご機嫌を、俺は苦笑をこぼし
つつ、言い訳がましい謝罪にて宥めていく。
「まぁいいです。今回だけは特別に許してさしあげますわ♪そ、それでは
レンヤ様!」
レンヤの謝罪を聞き入れた後、アーニャはレンヤの下にトコトコと近づいて
行く。
「あ、改めてわたしの頭をなでなでして下さいませっ!」
そして熱のある目線...上目遣いでレンヤの顔をジィィーッと見てくる。
「うう。そ、そこまで言われてしまうと......やらない訳にもいかないか。
コホンッ!で、では失礼して......」
そんなアーニャの熱意目線に負けたレンヤは、アーニャの頭に手をポンと
置くと、優しくその頭を撫でていく。
「――はう!こ、これは!?よ、良いですわ!とっても良いですわっ!
ホノカ様がさっき仰った通り、レンヤ様のなでなでは至高で至福ですわぁっ!
くうふふ...はうぅぅ......はぁ~あ......」
レンヤからなでなでされる度、アーニャの表情がはにゃ~と崩れていく。
「そうだろ、そうだろ!我の主のなでなでは至高感福モノだろっ!」
「はい!これはもう他の人のなでなでなんて、到底受けつける事、
叶いませんですわ!」
自慢気に語るホノカに対し、アーニャが頭を小さくコクコクと何度か縦に
振って、ホノカの言葉に賛同する。
アーニャの頭をなでなですること、数分後。
「ふう~。さて、アーニャちゃん、ホノカ。なでなではこれくらいにして
おくとして、そろそろ食事室に行かないか?」
レンヤがそう言うと同時に、ホノカとアーニャのお腹からグゥ~~という
音が鳴り響いてくる。
「ぐぬぬぬ。な、なでなでも捨てがたしだが、しかしお腹が空いたのも
また事実。し、仕方ない。今回のなでなではここまでにしておくか......く!」
「むむむ。わたしは正直、レンヤ様のなでなでの方が良いのですが、二人が
お食事をと言われるのでしたら、ここは素直に聞き入れ従いますわ......く!」
ホノカもアーニャもレンヤの言葉に従いはするものの、なでなでをやめたく
ないという気持ちが口からこぼれる。




