第二百七十五話・元通り
「良かった。どうやら、ちゃんと目が見える様になられたご様子ですね、
アーニャお嬢様!」
「はい!これもひとえにレンヤ様のおかげ様です!」
「あはは。そう言ってもらえると甲斐もあります。しかしそれにしても、
姉妹というだけあって、ミナルお嬢様とソックリで可愛いお顔立ちをして
いますね、アーニャお嬢様は♪」
「......え!?あ、ああぁ!?そ、そういえば、わたしさっき仮面を外して!?
キャァァァァァ――ッ!みみ、見ないでぇええ!み、醜いわたしを見ないで
下さいレンヤ様あぁぁああぁあっ!!」
仮面を外していた事に気づいたアーニャが、慌てて両手で顔を覆い隠す。
「醜い?いやいや、とても可愛く美しいですよ、アーニャお嬢様!」
そんなアーニャに、レンヤがハテナ顔で首を傾げる。
「ど、どこがですか!こんな大火傷で爛れてしまった顔なのに!」
そしてホノカもまた、
「お前こそ何を言っているんだ、アーニャ?どんな火傷を負ったかのかは
知らんが、その火傷も当然アルティメットポーションで完治したに決まって
おろうが?」
レンヤと同じくハテナ顔で首を傾げながら、顔の火傷も治っている事を
アーニャに伝える。
「へ!?あ!ほ、本当ですわ!ガサガサで爛れていたわたしの醜き顔肌が、
こんなにツルツルと......!?」
ホノカの発言を確認するべく、アーニャが恐る恐る自分の顔を手で触ると、
どこを触っても火傷の痕がない事に、目を大きく見開いて驚いてしまう。
「ほら。私の言った事に、嘘偽りなどなかったで―――――おっと!?」
「レンヤ様ぁぁああ!あ、ありがとうぅぅ...本当に、ありがとう......ござい、
ますぅぅぅうぅぅぅぅううっ!」
感涙で溢れるアーニャが感極まって、レンヤに向かって思いっきりダイビング
し、そして思いっきりギュッと抱き締めてくる。
「本当に良かったですね、アーニャお嬢様......」
「.........はい!」
そんなアーニャの背中を、レンヤはポンポンと優しく叩く。
アルティメットポーションの効果で、レンヤがアーニャの視力と火傷を
回復させていたその頃。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「うへぇ~~苦しい、お腹いっぱい~!もうこれ以上は食えません~♪」
食事室に向かったルコールが、満足至福といった表情でパンパンに膨らんだ
お腹を手のひらでポンポンと叩く。
「うふふ。お粗末様です、ルコール様♪」
そんな満足感のルコールに、ミナルがニコリと微笑む。
「しかし、かなりのレアな食料を買いだめしているわね、ミナル?あそこに
積んである果物も、あっちの樽に詰まっている食材も、そしてあたしが
今食べた物も、中々手に入り難いレア食材じゃなかったっけ?」
ルコールが周囲にある、様々なレア食材を見渡し、そう言う。
「実はこれらは全て、妹の為に掻き集めた食材ですわ。このレア物の中に、
もしかしたら妹の火傷や目を治すきっかけになる物があるやもしれないと
思いまして......」
「妹の火傷や目を?ああ、さっきあんたがレンヤを妹に会わせない様にして
いた理由がそれなのね?」
「はい。お気に障ったのでしたら謝罪いたします。勿論レンヤ様にも......」
ルコールの問いに、ミナルが申し訳ないと頭を下げる。
「それはいいわ。さっきも言ったけど、人には誰にも言えない秘密の
ひとつやふたつはあるもんだしね。レンヤの奴も同意見だと思うから
そこまで気にしなくて良いわよ♪」
「お気遣い、誠に感謝お申しあげます、ルコール様!」
ルコールの言葉に、ミナルが改めて頭を深々と下げる。
「さ、そんな事より、食後のおやつをいただこうかしら♪」
「はい?先程、もうお腹いっぱいとか仰っておられませんでしたか?」
下げた顔をバッと上げ、嘘ですよねという表情でミナルが目を丸くする。
「何を言っているの、ミナル?食事とおやつは別腹だよ、べ・つ・ば・ら・♪
...と、いう訳で、おやつをヨロシクねぇ~♪」
ビックリしているミナルをよそに、ルコールがニコニコした表情で、甘物類の
置いてある方角に向けて、人差し指を意気揚々と差す。
「わ、わかりました!では早速、料理長にこれらを使ったおやつを作らせに
行ってきます!」
ミナルがルコールの指を差した甘物を手に取ると、調理室のある部屋に
駆け足で移動して行く。
そんなミナルと行き違いに、
「ほら、レンヤ様。あの部屋が食事室ですわ!」
「おお、あそこが食事室かぁ!」
「確かに良い匂いがしてくるな!」
食事室へと向かう、誰かがワイガヤと騒ぐ集団の声が聞こえてくる。




