第二百七十三話・まぶたの上に光を感じる
「やっぱあん時のやり取りが原因のせいで、アルティメットポーションが
オークションに出品されるかもという噂が広まってしまったのかな?」
ギルマスがアルティメットポーションの相場ってやつを、オークションの
会場にアクセスして調べていたからな。
俺はあの時の状況を思い出し、アーニャちゃん達の無駄骨は俺達のせいかと
ニガ笑いがこぼれる。
まぁいい、今はそんな事よりも。
「......コホン!」
そんな心の痛む気持ちを切り替えるよう、俺は軽く咳払いをすると、
「私とアーニャお嬢様はまだ出会って間もなりません。そんな相手から
差し出された物を身体に取り込み、摂取するのは戸惑いも躊躇も致しま
しょう。ですので、私の言葉を信じてそれを飲むも良し。はたまた、
私の事などは信じられないとそれを飲まない。それもまたアーニャ
お嬢様のご自由な選択です」
「............」
「ですので、ノーという選択をなされても私は嫌な顔など決して致しは
しません。それでアーニャお嬢様。貴女はどちらを選択をなされます?」
少し脱線した話を元に戻し、真面目な表情と真面目なトーンでアーニャ
ちゃんにどちらの選択肢を取るのか、その決断を迫る。
「......そんな選択、考えるもありませんわ、レンヤ様!頂くという選択肢
以外、わたしの思考にはございませんのでっ!!」
考える間もなく、あっさりそう決断したアーニャは、両手で大事に持って
いたアルティメットポーションの栓をゆっくりポンッと開けた。
「......本当によろしいんですね、アーニャお嬢様?」
「勿論です。実はわたし、こんな状況になって以来、相手の発する言葉から
嘘や偽りを何となく感じる事ができるんです。ですがレンヤ様から発する
言葉には、その嘘や偽りを含んだもの...揺らぎが一切ありませんでした。
ですので、きっとこれは本物なのでしょう。それではレンヤ様。改めて
このアルティメットポーション、喜んで頂きますわね!」
アーニャがニコッと微笑んだ後、
......ゴクゴク。
アーニャは栓を開けたアルティメットポーションを口にソッと持っていき、
ゆっくりゆっくりと飲んでいく。
それを俺とホノカが固唾を呑み、見守っていると、
「は!?はぐぅぅう!?あ、ああ...嗚呼ぁぁぁあ!ううぐぅう......か、か、
身体が熱いぃぃいぃぃい!?か、顔が......ううぐぅぅう、め、目が......い、
痛いぃぃいい!?」
アーニャちゃんの身体全体をホワッとした白い光が輝き包んでいく。
が、それと同時にアーニャちゃんが顔を両手で力強く抑え、声にならない
声で苦しそうにもがき始めた。
「えっ!?ええぇぇぇええ~~!?ホ、ホホ、ホノカさんっ!?こここ、
これ、本当に大丈夫なのかぁぁぁぁあっ!?!?」
目の前で苦しんでいるアーニャちゃんを見て、俺は動揺全開で喫驚して
オロオロしてしまう。
「フッ!心配ご無用だ、主よ。本来は年月をかけて治すべきもの......
まして治る事のない欠損した部分が元の状態に戻ろうとしておるのだ。
あれくらいの痛いや苦しみ、当然の現象だっ!」
あたふたとテンパって慌てる俺に対し、ホノカが冷静な表情にてアーニャ
ちゃんの状況を詳しく説明してくれた。
「へ、へぇ...なるほど。そ、そう事なんだ......」
ホノカの詳しい説明を聞き、俺は取り敢えず安堵でホッと胸を撫で下ろす。
「でもよくそんな情報を知っていたな、ホノカ?」
「当然だろ、主!我は魔法なのだぞ。そこら辺の理には精通している!」
レンヤの驚きに、ホノカは当然といったドヤ顔で胸をドンと叩く。
「それよりも見ろ主。そろそろ、アルティメットポーションの効果が
完了するみたいだぞ!」
「え?あ、本当だ。アーニャお嬢様の身体を纏っていた輝きが消えて
いくな?」
ホノカの言葉に、俺はアーニャお嬢様のいるベッドに顔を向けると、回復の
輝きが消えると共に、アーニャお嬢様の苦しむ姿も収まりを見せていた。
「ハァ...ハァ...ハァ...」
「そ、それでどうですか、アーニャお嬢様?何か身体に変化がありましたで
しょうか?」
「へ、変化...ですか?あ、ああぁあ......っ!め、目に...目に光が入って!?
か、仮面の隙間から光が......入ってくる!?」
戸惑いと驚きを隠せないアーニャは、顔に着けている仮面を慌てて取り外す。
「ああ!ま、まぶたの上に...光が......光が射し込んでくるのが、分か...り
ます......わ!?」
仮面を外したその瞼の上に、アーニャは暗きを白くする暖かい光を感じる。




