第二百七十話・とあるアイテムを求めて
「そ、そんなに謝らないで下さい、アーニャお嬢様!ミナルお嬢様にも
やむを得ない事情がある事は、何となく理解しておりますので!」
「そう言って下さると、こちらも助かります。本当にすいませんでした、
レンヤ様!」
レンヤの気遣いに対しアーニャが頭をペコッと小さく下げると、ホッと
胸を撫で下ろす。
「ところでアーニャよ。話は変わるが、お前はなにうえその様な奇っ怪な
仮面を着けているのだ?」
ホノカがコホンと軽く咳払いをした後、アーニャの仮面を指差しハテナ顔で
先程から心に思っっていた疑問を投げる。
「お、おい、ホノカ!?」
「いいんですよ、レンヤ様」
アーニャはニコッと微笑みを浮かべ、ホノカの悪気のない心無い言葉を
許す。
「この仮面はですね......」
そしてその後、アーニャはこの仮面を何故着けるようになったか、
ゆっくりと話し出す。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「―――そういう訳でこの仮面を着けているんです.........」
「.........そんな事が」
震える口で語った、アーニャお嬢様が仮面を着けている理由。
それは、
アーニャお嬢様が住んでいる城、そこにある宝部屋へ盗みを働きに
やってきた盗賊達と運悪く出くわしてしまったらしい。
自分達の存在をアーニャお嬢様に見られてしまった盗賊のリーダーは
犯行の口封じをするべく、炎魔法をアーニャお嬢様に放った。
その結果、
炎魔法の直撃をマトモに食らったアーニャお嬢様は視力を失ってしまい、
更に両目の周囲にも大火傷を被ってしまう。
それを隠す為、この仮面を装着しているらしいとの事。
「その時の炎魔法で死んでさえいれば、お父様やお母様。そしてミナル
お姉様にもご迷惑も苦労もかけずに済んだというのに。ホント運が悪い
ですね、ワタシは...」
アーニャは申し訳ないという表情で顔を俯かせ、苦笑をこぼす。
そして呼吸を整え、顔をスッと静かに上げると、
アーニャお嬢様は先程の話の続きを口にしていく。
お宝を盗む為、屋敷に押し入った盗賊とそのリーダーは結局城からは
逃げる事は出来ず、
騎士達に捕縛された盗賊連中は、全員死罪...斬首となった。
しかし盗賊如きに城に侵入され、あまつ可愛い娘のアーニャお嬢様に
そんなケガを覆わせてしまった等という不名誉な出来事。
この案件は実力主義の国を謳う帝国グランディールとして、あるまじき
失態であり、これを他国に知られてしまうと、厄介ごとが舞い込んでくる
可能性もあると判断した王は、この事実をうやむやにする為、この事は
公には公表せず、内部処理で全て済ませたらしい。
当然このうやむやも、アーニャお嬢様のお心を痛める原因となる。
それから王とミナルお嬢様は、アーニャお嬢様のケガを治すべく、
様々な徒労を苦し、その術を探した。
時には何でも治すというアイテムの噂を聞きつければ、それをどんな手を
使ってでもゲットするべく行動し、
時には何でも治すというお医様の噂を聞きつければ、その医者がどこに
居ようが、どれだけの時間を消費しようがそこに馳せ参じ頼み込む。
だがしかし、
どんなアイテムも、
名医と名の高いお医者様も、
アーニャお嬢様を治す事は叶わなかったらしい。
今回もアーニャお嬢様の火傷や両目を治す事が出来るというアイテムが
オークション会場に出品されるという噂を聞きつけ、
それをいち早くゲットするべく、ミナルお嬢様はオークション会場のある
大陸へと出向いたのが、しかし目的のそのアイテムはオークションに
出品される事はなかったらしい。
因みに、今度の件はアイテムを持ち帰るだけだったので、アーニャお嬢様は
着いてこなくても大丈夫とミナルお嬢様から言われたらしいが、
だけど自分ごとだからと首を横に振り、ミナルお嬢様と一緒についてきた
らしい。
「......そっか。それはとんだ無駄骨の無駄足だったね」
「......はい。今回もまた結局、お姉様に気苦労をかけるだけの結果と
なってしまい、とても残念です。今度こそミナルお姉様にご迷惑を
かける事が無くなるかもと期待していたのですが......」
アーニャが再び頭を下に下げると、無念といった口調でそう述べる。
そんなアーニャの話を聞いていたホノカが、レンヤの裾を摘まんで
ちょんちょんと軽く動かすと、
「なぁ、主よ。ケガを治すと言えば、主の作ったあの『アイテム』が
ひょっとして効果があるのではないのか?」
上目遣いの表情で、レンヤにそう聞いてくる。
「あの...アイテム?」
俺はホノカの言葉にハテナ顔で首を傾げると、そのアイテムとやらが
何かとしばらく考え込む。
そして数秒後。
「......ああ!あれかぁあっ!!」
ホノカに問われたアイテムの事を、俺は思い出す。




