第二百六十七話・レンヤ、彷徨う
――レンヤが休憩室で寝ること、数時間――
「うぅう......ふああ~、くう~よく寝たぁ~~!」
レンヤが眠りから覚めると、ベッドからゆっくりと起き上がる。
お。頭の痛みが取れて、スッキリしている!
どうやら無事に具合が回復したみたいだな。
「しっかし高所恐怖症だっていうのに、あんな空高く...しかも大地も
何もない大海原なんて飛ぶもんじゃないな......」
落ちたらという不安が想像以上にキツかったのか、頭と身体と心への
ダメージが大きい。
「...まぁいい。それよりも俺は一体どれくらい、ここで寝ていたんだろう?」
部屋の窓から見えてくる風景と日射しを見るに、そんなに時間は経っては
いないとは思うんだけど?
俺は部屋にある窓に目線を移動すると、窓の外に見える景色と日射しの
明るさを見てそう判断する。
グゥゥ~~。
「おっと。具合の悪さが回復したら、何かお腹が空いてきた......」
確か、この赤いスイッチを押せば、誰かがここに来てくれるんだったっけ?
でも俺のせい......と言うよりか、主にルコールやホノカ達のせいで壊れたで
あろう箇所の片付けや、それらの修復で色々と忙しいだろうし、それを邪魔を
するのはちょっと忍びないな。
「ふう、仕方がない。食事室は自分の力で探すとするか......」
食事室の場所は、何となく記憶に残っているし。
俺はルコールが食事室へ案内されていた時の事を頭の中に思い浮かべると、
それを参考にして廊下を歩いて行く。
それからしばらく歩くこと、数分後。
「.........ま、迷った!?」
く...まさか、ここまで複雑な構造になっているとは予想外だった!
「...ったく。似たような通路が多過ぎだろう、ここっ!」
そんな愚痴をこぼしつつ俺は、船の中を北に西に東に南にと移動し、
ルコールの入って行った食事室のあった風景を脳裏に思い出しながら、
トコトコと歩いていく。
それから更に数分後。
「......ん?あそこの部屋、他と比べると何か立派なドアだな?」
目の前に見える沢山の部屋の中で、ひときわ豪華に出来ているドアの
部屋を発見する。
「あ、そうだ!ひょっとしたらあの部屋、俺がさっき休憩していた部屋に
あった呼び出しのスイッチが有るかも!」
俺はそれに期待すると、目の前に見える鍵つきドアの部屋に向かって
早足で駆けて行く。
すぅ~はぁ~すぅ~はぁ~。
「.........よしっ!」
そして部屋のドア前に辿り着いた俺は、数回の深呼吸をした後、
――コンコンコン。
手の甲でドアを数回軽くノックする。
そして耳を澄まして相手からの返事を待っていると、
「はわわ!?だ、だ、誰ですかぁあ!?!?」
突然ノックされてビックリしているのか、部屋の中から上擦る声が俺の耳に
聞こえてきた。
「突然の訪問、誠にすいません。私はこの船の長である、ミナ...コホン、
ミディナールお嬢様にやっかいとなっている者なのですが、ここは何分
初めてでございまして、その...所謂スッカリと迷ってしました。ですので
もしこの部屋に呼び出しスイッチがございましたら、その使用許可をどうか
もらえないでしょうか?」
部屋の中から聞こえてくる声に、俺は慎重丁寧な口調で自分の置かれた立場を
詳しく説明していき、そして本題の呼び出しスイッチの有無を聞く。
「ミ、ミディナール?ミナルお姉様のお知り合いですか!?」
「はい!」
「え、えっと。そのスイッチは確かにここにございますよ。ですので、どうぞ
遠慮なくご使用下さいませ!あ、少しお待ち下さい。ドアの鍵を今すぐお開け
致しますので......よいしょっと......」
レンヤを部屋の中に迎え入れる為、部屋の主がドアに向かってゆっくりと
歩いて行く。
「あ!ドアは開けなくてもよろしいですよ。声を聞いたところ、貴女様は
女性のようですし、素状も見知りもない私を部屋に入るのは不用心ですから、
それはおやめになられた方が。...という訳ですので、大変ご足労では
ございましょうが、貴女様が直接呼び出しのスイッチを押して頂ければ、
これ幸いかと......」
「いえいえ。そんな気遣いはご無用ですわ。それにミナルお姉様のお客人を
疑う不躾があろうはずが......は、はうっ!?ふ、服が何かに絡まって―――
―――キャァアァァァ!!」
レンヤにそのような心配はご無用と、部屋の主が言いかけた瞬間、部屋の
中から、突如ガラガラと何が崩れ落ちてくる大きな音が聞こえてきた。
それと同時に、部屋の主の悲鳴が部屋の外まで鳴り響く。




