第二百六十五話・犬猿の仲
「おっと、そうそう!ねぇ、レンヤ。さっき話題に上がっていた
アーニャとかいう娘、一応ミルナの妹みたいだし、しばらくここで
お世話になる身としてはその挨拶をしておいた方がいいんじゃないの?」
「ふむ、それもそうだな。王族にはそういった挨拶はキチンとやって
おかないと、後々面倒な事になりかねんしな!」
ルコール言う事はごもっともとレンヤが相づちを打つと、
「コホン......そういう訳ですので、ミナルお嬢様。アーニャお嬢様に
この船とミナルお嬢様に御世話となる次第を含め、ご挨拶しをして
おきたいですので、お手数ですが宜しければアーニャお嬢様の
居られる場所をお教え願いしても良いでしょうか?」
ミナルにアーニャのいる場所を問う。
しかし、
「えっと...そ、そのすいません、レンヤ様!アーニャは、とある事情で
誰とも合わせる訳にはいかないんです。ですので、そのお気持ちだけ
受け取っておきますね!」
ミナルはアーニャに挨拶をと告げるレンヤとルコールに対し、申し訳ないと
いった表情でその申し出を断ってくる。
「そ、そうですか、それなら仕方がありません。アーニャお嬢様への
ご挨拶はやめておくとしておきます」
「本当に申し訳ありません......」
「いえいえ。そちらにもやむ得ない、込み入った事情があるのでしょう。
深くはお聞き致しませんので、ご安心して下さい」
「こちらの事情を配慮して頂き、誠に有り難う御座います、レンヤ様」
ミナルがそう言うと、レンヤとルコールに向けて、頭を深々と下げた。
「そ、それでは、レンヤ様。ルコール様。取り敢えず、休憩をいたしますか?
それとも何かお食事でもお取られにでもなられますか?」
そしてミナルが気持ちを切り替えて、表情を笑顔に変えると、レンヤ達にこの後
どうするか、それを聞いてくる。
「う~~ん、そうだねぇ。あたしはさっきの戦いで腹が減ったから食事を
したいかな?レンヤはどうする?」
「俺はまだちょっと具合がすぐれないから、少しばかり休憩を取らせて
もらう事にするよ!」
ミナルの問いに対し、ルコールは食事。そしてレンヤは休憩の選択肢を取る。
「わかりました。ではルコール様を食事室に、レンヤ様を休憩のできる部屋に
ご案内いたしますね♪」
ミナルはニコッと微笑んでそう言うと、ルコールとレンヤをそれぞれの
場所へと案内して行く。
「おっと、その前に......っと。ホノカ、ユキ。俺達はミナルお嬢様に
ついて行くけど、お前達はどうする?」
復活した魔法部隊、そして補佐部隊達に興味津々と囲まれていた、
ホノカとユキにレンヤが声をかけると、
「勿論、主についていくぞ!」
「ボクがいないとおじさんも寂しいだろ~しぃ、しょうがないから
ついて行ってあげるっすよ♪」
...と、二人が返事を返す。
「ふん、主はしょうがなく思ってはおらぬから、お前はついて来なくて
良いぞ、白いの!」
「はぁ!あんたこそ、ついてくんなしぃ!このお邪魔虫め!」
鼻でフッと笑い、ユキに向かってシッシと追い払う仕草を見せるホノカに、
ユキがふざけんなと言わんばかりの表情で怒りを露にしてくる。
「ほう、面白い事を言う。お邪魔虫は一体誰か......それをその身を以て
知らしめてやろうか、白いの!」
ホノカがニヤリと口角を上げると、静かに剣をユキに向けて身構える。
「ハン!あんたこそ、面白い事を言うじゃないのさ!だったらそれを見事に
コテンパンと返り討ちにして、あんたの悔しがる泣きっ面を見てやるっすっ!」
そしてユキも、ホノカに向けて人差し指をビシッと突き出してそう宣言した後、
背中から剣をスッと引き抜いて戦闘体勢に入る。
「ハァ、また始まった......」
いつものやり取りにレンヤがやれやれと嘆息を吐くと、二人の喧嘩を
とめに行く。




