第二百五十七話・大海原と大型船
.........で、結局こうなるのか。
「......ハァ、憂鬱だ」
港町ウィークで目立ってしまった結果、そのまま港から船に乗って
しまうと、あの城の連中から俺達の行く先が見つかってしまう
可能性があると判断した俺は、船での移動を諦めた。
そして前に案とあげていた、ルコールに掴まれて空を飛んで行くと
いう一番遣りたくなかった移動手段にて、隣の大陸を目指すべく
大海原を横断していた。
「あ~あ、それにしても残念だな。港町から立つ前に、恐漢から助けた
あの女性から、お礼のひとつにキスとかしてもらいたかったなぁ......」
「いやいや、待てや!あの女性を助けたのはあたしなんですけど!?
それにあの助けた女性、あんたのストライク外だと思うよ。だって助けた
あの女性の年齢って、恐らくこの間盗賊どもから助けたあの王族の娘と
あんま変わらなかったしねぇ~!」
「へ、へえ。そ、そうなんだ......」
俺、それを聞き心底ガッカリする。
「それで、ルコール。隣の大陸...グランドディールにはいつ着きそうだ?」
気を取り直し、目的地にはどれくらいで到着出来るのかをルコールに聞く。
「う~んそうだねぇ?このスピードで行くなら、日が暮れるちょい前くらい
までには着くんじゃないかな?」
「ええぇぇ!日が暮れる時間までかかっちゃうのぉお!?あの日の高さを
見るに、後六時間くらいかかりそうじゃん!それまでこのままの体勢なの!?」
ルコールの言葉を聞き、俺はウソだろうという表情で驚愕してしまう。
「それくらい我慢しなさい!大体この状況は、レンヤが勇者は嫌だ~っ!
城の連中から見つかってしまう前に、いち早くここから逃げねばぁ~~っ!
とか言って、散々駄々を捏ねたからでしょうがっ!」
そんな俺の愚痴に対し、ルコールがマジ顔でプンプンと激おこする。
「うぐ...そ、そりゃ、確かにルコールの言う通りなんだけどさ......」
だって、あのままあそこにいたら、確実にあの城の連中がやってくるだろうし、
そうなってしまったら、絶対に面倒じゃん。
それにルコールがあの町で言ったように、もしも勇者達も出ばって来ようもの
なら、あいつらと戦う展開になっちまう。
前にも言ったけど、俺はなるべくあいつらとは戦いたくないんだよ。
「ま、そういうわけなんだし、ここは素直にスパッと諦めてそこで黙って
ぶら下がっていなさいっ!」
「うぐ......」
「もし途中で大型船と出会す事があったなら、その船に降りてあげるから、
その確率を願って願掛けでもしていなさいな!」
「こんな大海原で船と出会す?そんな奇跡、そうそうある訳な―――あっ!」
ルコールのお気楽な慰めに、俺が反論しようとしたその瞬間、
地平線上のちょっと手前の方に、モクモクと煙を出して大海原を横断して
いる何かを発見する。
「なぁルコール。あ、あれってさ、大型船じゃないか?」
「......え?どれどれ?おお~!確かにあれ、大型船だよ~!」
レンヤの言葉を聞き、ルコールがその方向を目線を向けて確認すると、
そこにはレンヤの言うとおり、大型船がいた。
「いや~ホント。レンヤって、こういう運だけはあるよねぇ~♪」
「ふ、俺的には他の運気も上がって欲しいんだけどな......」
俺は気紛れな運気に対して苦笑をこぼした後、ルコールと共に大型船に
向かって移動して行く。
―――いっぽう、その大型船では。
「あ、あれはなんだっ!?た、隊長!な、何かがこちらに向かって
物凄いスピードで接近してきますっ!?」
隣の大陸に横断中の大型船に乗っていた、一人の乗組員が自分らの船に
向かって凄い勢いで迫ってくる黒い何かに気づく。
「な、なんじゃと!?」
乗組員の叫声に反応した初老の騎士らしき人物が、持っていた望遠レンズで
その接近してくるという、黒い何かを見てみる。
「な、なんじゃ!あ、あの漆黒の......羽根は!?な、何と禍々しいっ!?
あれは只者ではないぞ!あ、あれと戦うとなると、かなりの危険を要しますが
どうしますか、ミナルお嬢様っ!!」
「く...分かってます!しかしだからといって、このまま黙ってみすみす船を
やらせる訳にはいきませんっ!そ、総員!直ちに各自の戦闘配置につき、
そしてあれを迎え撃ちなさいっ!!」
「「「「ははっ!お任せ下さい、ミナルお嬢様っ!!」」」」
この船の主人であるミナルが船員達に号令をかけると、乗組員全員がビシッと
敬礼をし、そして各々の持ち場へと駆けて行く。
「一番から十番、撃ち方始めぇぇえっ!不穏なるモノを撃ち落とせぇぇええっ!!」
「「「りょぉぉおぉうかいっっ!!」」」
各大砲にスタンバイした乗組員達が、リーダーの合図と同時に接近してくる
黒い何かに向かって砲撃を開始する。




