第二百三十六話・理不尽な要求
―――そして時は現在に戻る。
「キャァアア!や、やめて下さい!それ以上やるとお父さんがあぁっ!」
「くくく♪やめて欲しくば、貴様がこのクソ平民の代わりに俺様の慰謝料と
なればいいんだよ♪さあ、こっちにこい!」
「キャッ!?な、何をするんですか!は、離して下さい!やめて......下さい!」
喧騒の声の中に、悲痛な声を上げる若い女性と、さっき騒いでいたヴィーレンの
いやらしい下品な荒声が響いてくる。
「こ、この声...,,,!?」
う~ん。これはもう話し合いでどうこうなる様な感じではないみたいだな?
「おい、ルコール!」
「あいよ、相棒。どんな様子か見てこいって言うんでしょう?」
「ああ。本当なら俺が行きたい所なんだが、こっちもこっちで放っておくと
厄介な事になりそうだしな......」
レンヤは、未だにガルルと牽制し合っているホノカとユキを見る。
「でもいいの、レンヤ?助けちゃったら、きっと巻き込まれちゃう可能性が
大きいけど?」
「まぁ、今までを考えるにそうだろうな......。なのでなるべくギリギリまで
様子見をして、「あ、これは駄目なやつ」とお前が判断したら、やってくれ!」
「ええぇ~!最初から殺っちゃ駄目なの?」
「駄目!下手したら最悪船に乗れなくなる可能性が出てくる。それに俺は
やってくれとは頼んだけど、殺ってくれとは頼んでいないからなっ!」
「じゃ、じゃあさ、レンヤの言う様にもし殺っちゃった結果、船に乗れなく
なったとしたら、その時はどうすんの?」
「そんときはそんときだ。またパニくりながらもお前に抱き抱えられ、
空を飛んでもらうだけだ!」
「空からかぁ。あいよ、把握した♪んじゃ遠慮なく、殺っちゃっても
いいんだねぇ?」
「言っておくが、あまりやり過ぎるなよ?」
「一応、検討はしておくよ♪」
ルコールが俺の問いにニコッと笑うと、喧騒している場所に向かって
猛ダッシュで駆けて行く。
「うん。あれは自重しないな......」
だって最後まで殺っちゃうとか言っていたしな。
ルンルン気分の笑顔満天で駆けて行くルコールを見て、俺は呆れ顔で
そう呟く。
そして、
「さて、あっちはルコールに任せておくとして、俺はこっちの方を
どうにかしますかね......」
レンヤはもう何度目かわからない、ホノカとユキの喧嘩を止めに
入るのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「キャアッ!た、助けてぇぇぇえ、お父さぁぁぁんっ!」
「ふ、ふざけるなよ!そんな理不尽、通じるわけがないだろうが!
セレナを...俺の娘を返せぇぇぇえっ!」
悲痛な声を上げてた娘...セレナの父親が、先程ヴィレンに殴られた頬を
押さえながら、娘を返せと荒らげる。
「がははは!それが通じるんだよ!あの御方のマントを見てみろ!」
「あいつのマントを......あ、あの紋章は!?」
ヴァレンの部下言われたマントを見てみると、そこには隣の大陸にある
フォーラム帝国の王族を示す紋章が描かれていた。
「がはははは!わかったかな、おっさん?あの御方に逆らったら、
一体どうなってしまうかがよっ!」
「わかるよなぁ~?伊達に港町で商売はしていないだろうしなぁ~?」
「ぐぬぬ......」
ニヤニヤした顔でヴァレンの部下達が、セレナの父親を挑発する。
だが、フォーラム帝国がどういった国か知っているセレナの父親は
何も言えなくなり、拳を震わせる。




