第二百三十五話・俺こそが絶対なのだっ!
「ああぁぁぁ―――ん!!今のはもしかして、この俺に言ったのか?」
商売の邪魔だと文句を言ってくる店から出てきた親父を、ヴィレンが
冷淡にジロッと睨む。
「お前以外に誰がいるっているっていうんだ!さぁ!理解できたなら、
さっさとそこを退い――――」
「黙れぇぇえっ!このクソ平民がぁぁああっ!!」
「―――グハッ!?」
そんな態度を取ってくるヴィレンに更に腹が立った店の親父が手を振って
シッシとあしらおうとした瞬間、ヴィレンから思いっきり殴られた。
「キャァァァァアッ!お、お父さぁぁあぁんっ!?」
それを見た店の親父の娘が、血相を変えて悲鳴を上げながら店の親父の
下に駆け寄って行く。
「き、貴様!い、いきなり何をしやが―――――ガハァ!?」
突如ヴィレンから殴られた事に、店の親父が怒りを露にして立ち上がり、
怒を含んだ文句を叫声しようとするが、ヴィレンの部下から羽交い締めに
されると地面に思いっきり叩きつけられてしまう。
「や、やめて下さい!父が何をしたというのですかぁっ!」
酷い目に合う自分の父親を見て、娘がヴィレンをキッと睨みつける。
「したんだよぉお、小娘!クソ平民の分際でこの王族たる俺に意見を言う、
これは立派な重罪なんだよっ!」
「ふ、ふざけないで下さい!このレスティー大陸の法には、その程度の事で
罪になる法律なんてありません!」
「ふん!知らんわ、こんな小国如きの法なんぞはぁあっ!いいか、よく聞けよ
小娘!俺こそが絶対なのだぁぁあっ!ナグザーの長たるこの俺こそが、全てを
裁ける存在、つまりは法そのものなのだよっ!アハハハァァァァァアッ!!
クハハハハハァァァァァアッ!!」
「な、なんですか、この人は!?あ、頭がどうかしちゃってんじゃないの!?」
話が一切通じないうえ、自分勝手な理論を威風堂々とした態度で宣う、目の前の
ヴィレンに対し、娘がただただ困惑し、茫然唖然としてしまう。
「ところで小娘?良く見ると貴様、平民の癖に中々良い身体をしているでは
ないかあ~♪おい、そのクソ平民!こいつは俺様への慰謝料代わりに
貰っていくぞっ!」
「キャァア!?」
ヴィレンがいやらしく下卑た笑みをこぼすと、先程から悲痛な声を
出している娘の腕を掴むと、自分の懐に強引に抱き込んだ。
「な、何をしやがるんだ!そんなの駄目に決まっているだろうがっ!
わ、私の娘を今すぐ放せぇえぇっ!」
「おい...」
「ハッ!」
ヴィレンが後ろにいる部下達に目で合図を送ると、その部下達が
悲痛な声を上げていた娘の父親を囲んでいく。
「な、なんだ!ど、どけ貴様ら!」
「ぐふふふ。悪いなおっさん。ヴィレン様がああ仰っているんだ。
運が悪かったと思って諦めなっ!」
「ごふ!?」
「ヴィレン様がこうだと言えば、それが正しい事になるんだよっ!」
「ぐが!」
騒いでいたおっさん...ヴィレンの部下達が、悲痛な声を上げていた娘の
父親を次々と殴りつけていく。
「キャァアア!や、やめて下さい!それ以上やるとお父さんがあぁっ!」
「くくく♪やめて欲しくば、貴様がこのクソ平民の代わりに俺様の慰謝料と
なればいいんだよ♪さあ、こっちにこい!」
「キャッ!?な、何をするんですか!は、離して下さい!やめて......下さい!」
喧騒の声の中に、悲痛な声を上げる若い女性と、さっき騒いでいたヴィレンの
いやらしい下品な荒声が響いてくる。




