第二百十七話・それは便利な身体だね。
「でもまぁ、翌々考えてみたら、数百歳過ぎたバアアの水浴びシーンなんて
誰特だよなぁ!あはは~~♪」
おっと、そうだ。
「ホノカとユキもさっきの戦闘で、いっぱい動いていたみたいだし。汗とか
いっぱい掻いているんじゃ?」
俺はそう思うと、ホノカとユキを召喚して呼び出した。
「主、なに用......うひゃ!?」
「何々、こんな夜遅く呼び出し......ひゃあ!?」
召喚で呼び出された目の前に、パンツ一丁で立っているレンヤの姿を見た
ホノカとユキは、顔中を赤らめて気を飛ばす。
「すまんな、二人とも。急な呼び出しにビックリしちゃったようだな?
いやな、お前達ってあのアホどもとの戦いで沢山動いたじゃん?だからさ、
この川でその時に掻いた汗を落とさないかと思って呼んだんだよ♪」
「か、川?」
「あら、確かに川があるっすね?じゃあ、おじさんはここで行水をして
いたからその姿だったってわけっすか。ホント紛らわしいっすねぇ~!
そんな状態で呼び出すから、ボクはてっきり......」
「......ん?ボクはてっきり?」
「な、なんでもないっすよ!なんでもっ!そ、それよりも、いつまで気絶を
しているんっすか、この赤いのはっ!」
「――はぐ!?」
横で未だに気絶しているホノカにイラっときたユキが、思いっきりその頭上に
鉄拳を叩き込む。
「い、いつの間に我は気絶を!?ハッ!も、もしかして既に事を済ませた!?」
「済ませていないわよ!あんた、意外にムッツリなんっすね......」
それから、ホノカはユキから呼び出された理由を聞く。
「な、なるほど...そういう事だったら、心配ご無用だ、我が主よ!我は身は炎!
そんな汚れなんぞ、全て消し飛ばすっ!」
「あ、ボクも氷が元の身体だから、そういった類いの汚れはつきにくいんっすよ!」
「へぇ...そ、そうなんだ。それは便利な身体だね...」
俺がそんな二人の体質が羨ましいなぁと口にすると、
「あ、因みにあたしも『クリーン』って魔法のおかげで、身体に付着した
埃や汚れなんかは全て浄化できるんだよ♪」
レンヤの背後からソッと近づいた誰かが、レンヤの耳元に顔を持って行くと、
ニコニコした笑顔でそう語りかけてくる。
「へぇ~お前もかよ、ルコール。何て羨まし――――――はうぅぅうう!?おおお、
お前はルコールッ!?いいい、いつからここにいたんだっ!?」
「いつからって...そうだねぇ、確か...「でもまぁ、翌々考えたら、数百歳過ぎた
ババアの水浴びシーンなんて誰特だよな!あはは~♪」...って、ほざいたくらいに
......かなっ♪」
「ちょっ!?そ、そんな最初からいたの―――――――アギャッ!!」
ルコールがレンヤの問い...「いつここにいたのか?」その説明をし終えると
同時に、無言でレンヤの顔面をガシッと鷲掴みする。
「まったく、こんなプリチーなあたしを掴まえて、何が誰特......よっ!」
「はぎゃん!!」
そして鷲掴みにしたレンヤを、川に向けて思いっきり投げ捨てた。
「あ、主ぃぃ~っ!?」
「お、おじさぁあ~~んっ!?」
それにビックリしたホノカとユキが、慌ててレンヤの下に駆け寄って行く。
「だ、大丈夫か、主!く、仇を討ってやりたいが、あの規格外には到底勝てぬ。
不甲斐なくて済まんな、主っ!」
「ホント、赤いのが言う通りっすよ。どこをどう取ったらプリチーなのよっ!
.........って、レベルの化け物っすからねぇ~あれって!」
自分の主のお返しをしてやりたいが、絶対返り討ちに合うとわかっている
ホノカが無念といわんばかりに拳と身体を震わせて悔しがる。
そして同じく、ユキもあれを倒せって無理だよねぇ~と、肩を竦めて
苦笑をこぼす。
そんな二人にルコールが、
「......ん?二人とも、今...なにか言った?」
顔をゆっくりと振り向け、ニコッとした...然れど、その瞳の奥が全く笑って
いない笑顔でジワリジワリと近づいて行く。
その威圧感タップリの能面笑顔で、自分達に近づいてくるルコールに、
「「いい、言ってませんっ!ななな、何も言ってませんですっ!」」
ホノカとユキが涙目になっている両の瞳を丸くしながら、直立不動でガバッと
立ち上がると、首を左右にブルブルと何度も振って、先程発言した自分達の
言葉を全否定してくる。
それから俺達はテントに戻り、明日の為の眠りにつく。
そして夜が明けた次の朝。
俺とルコールは、帝国グランディーネに渡る船がある港町ウィークを目指し、
再び移動を開始する。




