第二百十六話・俺の世界の平均労働時間だぞっ!
「また気絶しおったか。まあいい。主からの称賛の為、我の剣の錆となって
ここで朽ち果てるがいいっ!」
「ああ!ズッコイっすよ、赤いの!待てっていうの!自分ばっか先走るなっす!
ボクだってねぇ、手柄を立てておじさんに褒めもらいたいんっすからっ!」
ホノカとユキがそう言い争いながらも、レンヤに褒めてもらう為、ゲログエに
とどめをさそうと大剣を頭上高く振り上げる。
「ストップ、ストップ!そこまでだ、二人とも!さっきも言ったけど、気絶して
いる奴を...ましてや、無抵抗の奴を殺っちまうのは何か気が引けちゃうから、
取り敢えずやめなさいっ!」
「主がそういうなら...ふん、命拾いしたな!」
「ちぇ~残念っす。せっかくおじさんからナデナデしてもらおうと思ったのに~」
ホノカとユキを何とか宥めた俺は、先程のルコールの指示通り、絶対ドロップの
『はい』を選ぶ。
因みにこいつからのドロップアイテムは、
【ド派手な貴族服(上下)】
【ド派手なベルト】
【金の短刀】
【ポーション】×五個
【甘いお菓子】×十個
...だった。
そして服をドロップされた小肥り貴族野郎は、惨めな真っ裸姿で
地面に転がっている。
「うぷ。や、やっぱり見苦しい......!そ、それじゃ、こいつの部下が新たに
やって来る前に、さっさとずらかるとするぞっ!」
俺は召喚したホノカとユキを引っ込めると、目的の港町にルコールと共に
足を進める。
それからしばらく...いやかなり歩くこと、八時間後。
「ゼェ...ゼェ...ゼェ...ゼェ...ゼェ...ゼェ......つ、疲れた...こ、これ以上は
あ、歩け...な...い...ぞ......」
「ええ、もう疲れちゃったの?相変わらず、レンヤは体力が乏しいなぁ~。
まだ八時間しか歩いていないんだけど?」
「ア、アホかぁぁあっ!八時間も歩けば十分だ、十分過ぎるっ!!」
八時間と言えば、俺の世界の平均労働時間だぞっ!
「......と、いうわけで、今日はここまでだ!ここまでっ!」
俺はここで野宿すると決めると、魔物の近づかなそうなエリアに移動して行く。
そして移動した場所に、就寝する為のテントを二つ張った。
「こっちが俺で、そっちがお前ね!」
「別に二つもテントを張らないで一緒のテントを使えばいいのに...本当、無駄に
ヘタレ紳士だよねぇ、レンヤって?」
「ほっとけ!節操がない奴よりもマシだろうが!ほら、人をからかっている暇が
あったら、火をおこしくれ!」
「あいよ♪」
ルコールはそう返事をすると、先程集めておいた枯れ木に向かって、
小さな炎をふっと吐く。
そしてそれから、俺とルコールは軽い晩飯を食べ終わった後、それぞれの
テントに入り、今日の疲れを取るべく休憩をしていた。
「ふう...」
まさか、こんな年になって、冒険をする事になるだなんてな。
それだけじゃない...
勇者になったかと思えば、ドラゴンに出くわしたり、盗賊に絡まれたり、
お姫様を助けたり...
ホント人生何が起こるか、わからないものだな。
俺はテントの中で寝転がりながら、今日までに起こった様々な
イベントを走馬灯の如く、次々と思い出していく。
「う、何か汗臭いな...」
流石に八時間も歩けば汗臭くもなるか。
さっき見つけた川で軽く身体を洗うとするかな。
俺はそう心に決めると、アイテムボックスから布を取り出して
川に歩いて行く。
それからしばらく歩いた後、
川に辿り着いた俺は、服をパパッと脱いで川にドブンと浸かる。
「うぷ、冷たい!しかし火照った体温を下げてくれる良い冷たさだ!」
俺は川にゆっくりと浸かって入り、歩いた事で火照っている身体の
体温を下げていく。
それからしばらく川に浸かった後、俺は持参した布で身体をゴシゴシと
擦って、汗と垢を落としていく。
そして身体を擦り終えた俺は、汲んだ川の水をバサッと掛ける。
「ふう、さっぱりした!しっかし、こういう場面はあいつの出番だろうに。
思いっきり、イビキをかいて寝ていやがったな......」
俺は水浴びにルコールを誘おうと思い、あいつのテントに行ったのだが、
大地が響く勢いでグースカと寝ているルコールに軽く呆れてしまい、
半目の表情で「どっちがおっさんだよ......」と軽く呟いた後、
俺は静かにテントの出入りをソッと閉じた事をふと思い出す。




