第二百六話・予定変更
「て、てめえぇえ、ふざけるなぁぁぁあ!お、俺は冒険ギルドでちゃんと
聞いたんだぞ!お前がレンヤと呼ばれてい......って、おい!こっち向けや!
俺が話をしてい――――――」
「だぁあぁあ、もうっ!煩いなぁあっ!」
人の話を全く聞かないレンヤの態度に、二十代半ばの男が苛立った顔をして
レンヤに詰め寄り、そしてその肩を掴もうとしたその時、
「さっきからギャーギャー、ギャーギャー......いい加減、その口を閉じて
黙れやぁぁぁああっ!」
「―――――ほぎゃぁぁぁあぁぁぁああっ!!?」
レンヤの横にいたルコールも相手の傍若無人な態度に対してイライラの
限界にきていたようで、レンヤに近寄ってきた二十代半ばの男の顔面に
裏拳を叩きつけ、遠くへと思いっきりぶっ飛ばす!
「...ったく、うっとしい態度で話しかけてくるんなっていうの!何様だっ!」
裏拳でぶっ飛ばされ、白目を剥いて気絶している二十代半ばの男を未だに
苛立ちの引かないルコールが、文句と愚痴をブツブツとこぼす。
そしてその引かない苛立ち全開の表情で、
「......それで、そこのあんた?」
「は!はひいぃぃぃいい――――――っっ!?」
「もしかしてだけど......あんたもあたし達に何か言いたいがあるのかしら?
あるんだったら、一応聞くけど?」
残った小太り貴族の顔を『竜の威圧』を発動させた鋭い眼光でギロッと
睨んで静かにそう問う。
すると小太り貴族は、
「べべべ、別に何もあああ、ありませぇぇええぇぇえん!?かか、勘違い!
そう私どもの勘違いだったようですっ!ほほ、本当に...本当に、すいません
でしたああぁぁぁぁあああ~~~~っ!!」
ルコールから発される『竜の威圧』に恐怖し、表情は一瞬で真っ青に変わり、
その全身はブルブルブルブルと震えが止まらず、覚束ない足取りで後退りを
した後、慌てざまであたふたしながらどこかにスタコラ逃げ去って行く。
「ふう。やれやれ......」
そんな情けなく逃げて去って行く小太り貴族を見て、俺は呆れ顔で深い
嘆息を吐いてしまう。
そして、
これはもう俺がレンヤだとバレるのは、時間の問題かな?
...と、想像に浮かぶと、
「うっし、予定変更だ!今日中にここを立つぞ、ルコール!」
俺は急遽、明日リタイの町を去る予定だったのを、今日に繰り上げる。
「ほえ!きょ、今日中!?」
「ああ。俺の正体がバレて大事になる前にな!そんじゃ、ルコール。
まずは予定通り、冒険ギルドに...いや、ちょっとばっかり予定通りとは
違うけど、ここを去る別れの挨拶をしに行こうか!」
「う~ん。あたし的にはリタイの町を去る前に、屋台の食い物を食べ収め
しておきたかったんだけどな......ま、いいか!......って、ちょっとレンヤ!
あたしを置いていくんじゃなあぁぁいっ!」
リタイの町を今日中に去るべく、冒険ギルドに急げと駆けて行くレンヤの後を、
ルコールが慌てて追いかけて行く。
―――冒険ギルド。
「はあぁあぁぁ!?き、今日リタイの町を出ていくだってぇぇぇえ!?」
「のわ!こ、声が大きい!耳がキンとくるだろうがぁっ!」
大声をあげるギルマスをレンヤが軽く窘めると、
「おっと!すまん、すまん!あまりにもビックリしちまってな......」
レンヤの窘めに対し、ギルマスが軽く詫びを入れる。
「しかし、えらく唐突だな......」
「別に唐突でもないんだけどな。このリタイの町に来たその日に、大体の
大まかな滞在期間をルコールと決めていたからさ!」
「だったらよ~、せめて昨日か一昨日くらいに教えてくれや!ホンット、
冷たてぇ奴だなぁ~っ!」
「いや、実を言うとな、ホントなら明日ここを去る予定だったんだよ」
「明日の予定?じゃあ、それが何で急に今日中に変わったんだ?」
「それがさ、ここに来る途中で俺にとっての凶事が突如発生しやがってな......」
「凶事?」
「ああ。......で、その凶事を回避するべく、今日中にここを去る事を即決したと
いうわけだ!」
「即決過ぎるわっ!」
俺の決断に対し、ギルマスが困惑した表情で眉をヒクヒクさせる。




