第二百三話・御姉様
「うぐ......た、確かに貴様は魔人族ではなかった!が、しかし!だからと
いって、貴様が敵ではないと誰が言いきれるっ!」
未だに戦闘体勢を解かず、相手を睨んで剣を向ける光太郎。
それに対し、
「あらあら、まだそんな態度をお取りになられますの?リコットちゃんに
竜人族とは極力関わるなと言われたでしょうに......」
謎の少女が驚きと呆れの入り混じった表情を見せてしまう。
「うふふ、どうやら貴方。見た目通りの熱血漢のようですわね♪」
「あははは~正解♪ホント、そうなんだよねぇ~。光太郎ってさぁ~、
熱血漢過ぎて、ちょ~っと暑苦しいよねぇ~♪」
「―――はう!?あ、暑苦しいっ!?」
「ふん。お前に言われずとも......光太郎が熱血漢で鬱陶しいのは先刻承知......」
「―――なう!?う、鬱陶しいっ!?」
謎の少女から光太郎の性格を問われると、芽々はニガ笑いした顔で暑苦しいと
答え、そして久美は真面目なトーンで暑苦しいプラス、鬱陶しい奴と答える。
そして仲間達の心からの本音を聞いた光太郎は、目を丸くして喫驚し、その身体は
石化した様にカチッと固まり、ショックを受けてしまう。
「ふん。そんな事よりも......おい、そこのドラゴン娘!」
「ド、ドラゴン娘!?貴女ステータスを覗き見んだから、わたくしの名前を
知っているのでしょう?でしたら、わたくしの事はその名前...リサーナと呼んで
くださいな!あ、わたくしは寛大ですので、敬語や名前の後に様はつけなくても
よろしいですわよ♪」
自分をドラゴン娘呼ばわりする久美に、謎の少女こと...リサーナが名前で
ちゃんと呼んでくれとお願いする。
...がしかし、
「ふん......嫌だね。断じて却下させて......もらう!」
間も入れず、久美はそれを断った。
「ええぇぇ!な、何でですか!?」
「そんなどうでも......いい事より......こちらに敵意がないというのなら......
ドラゴン娘よ、キサマは何をしにここ......ギガン城に来た?」
「ううぅ...そんなどうでもいい事だなんて、ヒド―――え?ここには何を
しに...ですか?えっとですね?わたくしがここに来たのは―――――ハッ!?」
久美の疑問を聞き、リサーナがそれはと首を傾げ思考したその瞬間、
「嗚呼!?そそ、そうでしたわぁあぁっ!?勇者らしき人達を見かけたので、
つい声をかけてしまいましたけれども、わたくしこんな所で寄り道をしている
暇はないんでしたわぁっ!」
リサーナは本来の用事をハッとした顔で思い出す。
「いち早くトーヴァスさん達に逢って、何故ルコール御姉様が洞窟に
いなかったのか、それを問い詰めなきゃいけないのでしたっ!......とまぁ、
そう言う事ですので、勇者の皆様方。わたくしはこの辺で失礼をさせて
いただきますね♪」
そして笑顔で光太郎達に軽く会釈をした後、リサーナは急ぐようにして
ギガン城に向かってビューンッと飛んで行く。
「げ!ヤバいよ、光太郎君!あの竜女、ギガン城に向かって飛んで行ったわ!
このままじゃトーヴァス陛下やイオナ王妃、そしてリコット王女が危ないんじゃ
ないの!?そ、そうなる前に急いであいつを掴まなきゃっ!」
「わ、わかってるっ!勇者と呼ばれる者として、敵をむざむざ本拠地に入れて......
たまるものかぁぁぁあっ!」
芽々の言葉に相づちを打つ如く気合いを入れる光太郎が、持っていた剣を
ギュッと力強く握り締めた後、ギガン城に向かって猛ダッシュで駆けて行く。
「おお!気合い十分の熱血全開じゃん、光太郎君♪ふふふ...見てろよ、竜女!
その澄ました顔に、あたしの全身全霊なる正拳を突き思いっきり叩き込んで
くれるんだからぁぁぁあっ!!」
そして芽々もまた気合い全開の叫声を荒らげると、光太郎の後を駆け足で
追い駆けて行った。
「ふむ。さっきの発言を修正......する。熱血漢で鬱陶しいのは光太郎だけじゃ
なく......芽々も十分......いや、十二分に......熱血漢で暑苦しく、そして
鬱陶しい......」
光太郎と芽々達二人の掛け合いを後ろで見ていた久美が、呆れ口調で
そう呟いた後、光太郎達と一緒に城の中へと駆けて行くのだった。




