第百九十八話・感涙、感動、雨霰
「ちょ!大野さん!?言い方、言い方ぁぁあっ!嗚呼もう、わかったよっ!
回復魔法をかければいいんだろ、かければさっ!だから、そんなに目を
血走らせてこっちを見るんじゃないっ!」
鬼気迫る勢いで回復魔法をかけろと強要してくる芽々に、光太郎は気押されて
しまい、しぶしぶと回復魔法をかける事を了解する。
「コホン...そ、それじゃあ、本当にやるけど、後で怒るんじゃないぞ!さっきの
発言はやっぱ無し...なんてこと、絶っ対に言うんじゃないぞ!や、約束だからねっ!」
芽々に近寄って行き、回復魔法をかける準備に入る光太郎は、お尻を触った後に
あれこれ冤罪をかけられては堪らないと、真顔の表情でそう述べ、改めて芽々に
釘を刺しておく。
そんな光太郎を見ていた久美が、
「はぁ......光太郎よ。この期に及んで......ちっとも男らしくないな。光太郎は
ボク達のリーダーなんだから、そんな保身に走らず......もうちょっとシャキッと
してくれ......シャキッと......」
嘆息を吐き、呆れ口調でそう言うと、ジト目の表情で光太郎を叱咤する。
「うぐ、か、勝手な事を...この局面を作ったのは、一体誰なのさ......」
やれやれといった表情で棚上げ発言をしてくる久美に対し、光太郎が元々の
原因はキミの魔法のせいじゃないかと、呟くように愚痴をこぼす。
そして腑に落ちないという表情で、芽々の下に駆け寄って行くと、
『我が光よ!その光の波動にて、相手を癒せ!ヒィィィルッ!』
光太郎は回復魔法を発動させ、芽々のお尻の火傷を治していく。
「ひあっほおぉぉう!はうぅくうぅぅう!き、効いてきたぁぁあ―――っ!
お尻からヒリヒリした痛みがドンドン消えていくぜぇぇぇぇいっ!!」
「ち、ちょっと、大野さん!そ、そんなに動かないでよ!治療がやりにくい
ってば!」
ヒールの効果にて火傷の痛みが引いていく感覚に、芽々が身体をクネクネと
動かしてその感動に浸っていると、光太郎がそれをやめてくれと注意する。
「たはは♪ゴメン、ゴメン♪」
そんな光太郎の注意に対し、芽々がニャハハと笑い謝ってくる。
そして光太郎と久美の方に顔を向けると、
「......あ!そうそう、そういえば話は変わるけどさぁ。ここにやって来た
騎士の人って、何であんなに慌てていたんだろうね?」
先程ここにやって来た騎士の事を話してくる。
「あたしそれがさっきから気になって、気になって、仕方がなくってさぁ、
光太郎君はどう思――って、きゃんっ!ちょっと~光太郎くぅう~~ん!
いくらうら若き乙女のお尻を触れて感涙感動、雨霰だからといってもさぁ~、
少し力を入れ過ぎだってばぁあ~~ん♪」
そして光太郎にさっきの騎士をどう思うと聞こうとした瞬間、芽々の表情が
突如ニヤニヤした顔に変わり、光太郎の事をからかってくる。
そんな芽々の態度に、イラッとした光太郎が、
「だ、誰が、感涙感動、雨霰だあぁぁぁああっ!!」
「―――はぎゃぁあぁ!!」
イラッときた光太郎が、手のひらを思いっきり撓らせ、治療中の芽々の
お尻を力一杯引っ叩いた。
「ったく......」
「......おや?光太郎のお顔が真っ赤......やはり図星だったか......ニマニマ」
「な、何を言うんだ、雨咲さん。お、俺は別に、あ、赤くなんか、なっては
い、いないぞっ!!」
光太郎が久美のからかいにそう返すと、真っ赤になった顔を隠すように
横へ背ける。
そして、
「ゴホンッ!そ、そんなくだらない話より、さっき大野さんが言いかけていた
あの騎士さんの話だけどさ......」
これ以上二人にからかわれて堪るものかと、光太郎は大きく咳払いをして
その場の雰囲気を変えると、先程芽々が話そうとしていた騎士の話へと
シフトさせていく。




