第百八十四話・恩師と幼馴染
「よ、良かった...そ、それじゃ、キミの名前はユキで決―――」
レンヤがアイス・カッターの少女につけた名前を呼ぼうとした瞬間、
「ええ~いっ!待つのだ、我が主よっ!駄目だ!駄目だ!駄目だぁあ!
それは却下だっ!異議ありだっ!!こやつ如きに主の好きな御人の名など、
到底もったいなしっ!!」
フレイが人差し指をアイス・カッターの少女にビシッと突きつけ、両の目を
クワッと見開いて、その名前はアイス・カッターの少女には贅沢だと猛烈なる
抗議をしてくる。
「え?あんたバカなの?これはもう決まった事なんだけど?却下なんてするわけ
ないっしょ?ねぇ~おじさぁ~ん♪うふふふ~♪」
そんな鼻を荒く異議を申し立ててくるフレイに、アイス・カッターの少女こと...
ユキが人差し指をチチチッと左右に振って、そのフレイの抗議を華麗に却下すると、
レンヤに向かって思いっきりギュッとハグをし、にこやかな笑顔を浮かべた。
「く、くくく......なるほどな。やはり貴様と我。所詮は見解の相違なる関係の
よう......だなっ!!」
ユキのハグを見て、強く握り締めた拳をフレイがブルブルと震えさせると、
背中に背負っていた炎色をした大きな剣を静かに引き抜いて、ユキに向けて
突き出す。
「くふふ。いやだなぁ~嫉妬でキレちゃうなんてみっともないんですけどぉ~?
まぁまぁ~ぶっちゃけ、その見解の相違なる関係って言うの、ボクも同意見っす
けど......ねぇっ!!」
ユキがクツクツと笑いながらフレイの言葉に同意すると、地面に突き刺していた
氷色をした大きな剣をバッと引き抜き、攻撃体勢へと入る。
「だぁぁぁああっ!またこのパターンかよっ!おい、レンヤ!大至急あいつらを
とめてきてくれぇぇええぇえっ!」
「レ、レンヤ様~お、お願いしますぅぅぅう~~っ!」
フレイとユキの解き放つ凄まじいオーラに対し、ギルマスとサオリナの二人が
吹き飛ばされそうになりつつ、レンヤに戦闘をとめてくれと嘆願を投げる。
「やれやれ。俺は目立たず、のんびりと生活がしたいっていうのに......」
俺は深い嘆息をこぼすと、喧嘩の原因であるフレイを説得に向かう。
それから幾数後。
何とか、フレイの説得には成功したのだが、剣を収める条件として自分にも
俺の思い人から取った名前を是非つけて欲しいという妥協案を受ける。
俺はその条件を聞き、ニガ笑いをこぼしながら眉をピクピクさせて
しまうのだった。
因みにフレイにどんな名前をつけたかというと。
昔、俺と仲の良かった子...幼馴染の穂華という女性の名が頭にパッと
浮かんできて、それを口にすると、フレイが炎と火が混じった名前っぽくて
いいと絶賛し、それに決めたと声を高く上げる。
更に俺がつけた名前、フレイも折角なので残したいと言い出し、
フレイ改めて...『ホノカ・フレイ』と名乗る事となった。
が、
今度はユキが俺の考えた名前を二つもつけてもらうなんてズルいしぃー、
納得がいかないんですけどぉっ!
...と、駄々をコネ出し、
結局俺が最初に苦笑された名前...リオをユキにつけ足して、
『ユキ・リオ』とあいなった。
だが、ユキは更にその名前に加え、俺の名字もつけ足したいと我が儘を言い
出して、俺は仕方がないと嘆息をこぼしつつも、その案に了承する。
そしてユキは『ユキ・リオ』改めて、
『ユキ・リオ・シロカワ』と名乗る事となった。
しかしすると今度はまたフレイこと、ホノカが「それは図々しいにも程あり!」
...と、異議という名の文句を言い出してユキと再び拮抗状態になる。
幾数分間の話し合い結果、フレイもユキ同様、俺の名字「シロカワ」を名前の
後ろにつけ足すという案で、取り敢えずは納得したと笑顔で満足する。
そんなこんなで、ホノカは『ホノカ・フレイ』改めて、
『ホノカ・フレイ・シロカワ』と名乗る事となった。
あ!そういえば、このやり取りの後、しばらくルコールの奴が思いっきり
不機嫌モードだったけど、何でだろうな?やっぱりこいつらのせい?
しかしそれを聞くと、絶対ロクな事にならないという直感が働いたので、
ここはそれに従って聞かない事にした。




