第百七十八話・キャンセル不可
「うぐ...ボク......ぐす...な、泣いて...うぅ...泣いてなんか...いない...
いないっす...から!ひく...うぐぐぅ......泣いてなんか......いないしー!」
アイス・カッターの少女が顔を上に向けてグッと上げると、身体を
震わせてながら泣く事を懸命に堪えている。
ええぇぇぇえぇぇ――――――っ!?
なな、何故、泣くんですかぁぁああっ!?
「だ、だってさ、キミがキャンセルオッケーだっていうから、俺はじゃあ、
キャンセルで...と言っただけなのにぃ!そ、それにキミも俺が主なのを
めちゃくちゃ嫌がっていたじゃないのさっ!?」
アイス・カッターの少女の突然なる号泣に、俺はめちゃくちゃ慌ててしまい、
だってキャンセルしろって言ったじゃん、だからキャンセルしただけじゃん!
それなのに納得がいかんという顔をして、俺は意義の申し立てを口にする。
だが、そんな動揺と意義の申し立てをしている俺に対し、ギルマス、
サオリナさん、ルコール、そしてフレイが、
「ハァ...やれやれ。お前、かなりの鈍感なんだな?」
―――はう!?
脳筋のギルマスに鈍感って言われた!?
「ふう...レンヤ様。流石にそれはないと思いますよ......」
―――あひゃう!?
サオリナさんが唖然とした顔でドン引きしてらっしゃるっ!?
「あはは、駄目駄目♪レンヤに乙女心を説いてもさ~♪だってレンヤは
純情と少年心(笑)を拗らせた中年さんだもん♪」
おい!(笑)ってなんだ、(笑)ってっ!
「あ、主!今すぐそいつからキャンセルされろ!あ、主には我以外の
魔法擬人なぞ、いらぬっ!」
フレイは俺と同意見...いや、ちょっとニュアンスが違うな?
アイス・カッターの少女に対する俺の態度に、フレイ以外の三人が様々な
表情と口調にて小馬鹿にしてくる。
「ぐす...ほ、本当に...キャンセル...してもいいんっすか...おじさん?ぐす...
ほ、本当に...本当にキャンセル...しちゃうっすよ?」
「え?あ、ああ...はい、どうぞ。それでどうかよろしくお願いし――――」
「うわわわああああぁぁぁぁぁぁ――――――んっ!!」
はいぃぃぃぃいぃぃぃぃっ!?
だ、だからどうして、泣くのぉぉぉよおぉぉぉっ!?
「お、お前マジか...お前マジか......いやいや、お前マジか......」
「これほど鈍いと流石に笑えませんよ、レンヤ様......」
「あははは♪さっすがはレンヤだ、基本を忘れてないよねぇ~♪」
うう...げ、解せぬ。
だってさ、この子も俺からの召喚を嫌がっているんだぞ。
そして俺も『普通』の魔法が使ってみたい。
ならさ、ここはキャンセルをしたら、どちらもウィンウィンじゃん!
...って、思っただけなのに!
なのに、どうして泣くんだよっ!?
「ほれ、聞いたか白いの。主はキャンセルをご要望なのだ。身の程を
知ってさっさと消え去るがいい!そう...お前なんぞ、主に必要なし。
主には我さえいれば問題無しなのだっ!」
フレイは他の三人とは違って俺に賛同しているのか、さっきから変わらずの
威嚇を放ち、アイス・カッターの少女に向かって、ガルルと噛みつきそうな
勢いで牽制を取っている。
そんなフレイの態度が勘に触ったのか、アイス・カッターの少女が
流れ溢れる涙をパッと拭うと、
「ぐす...嫌っす!もうこうなったら、意地でも...キャンセルなんてして
あげないっす!絶っ対のぜったぁぁいにしてやらないっすからねぇぇぇっ!」
俺に人差し指をビシッと向けてきて、ムキになった表情でそう宣言してきた。
はあぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――っ!?
「な、何でですかああぁぁぁぁあぁぁぁあっ!?」
俺は本当に意味がわからず、心の底から納得できないと叫声を上げた。




