第百六十九話・偽物も多いけど、それでも買う?
「ギ、ギフト・スクロールって、ももも、もしかして、お前が宿屋で
言っていた、技や魔法を取得できるという、あのレアアイテムの事かっ!?」
「うん。あの二つのスクロールこそが、技や魔法を取得できるアイテムだよ♪」
「マッ!?」
マジでかぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ!!
「で、どうする、レンヤ?本物かどうかまだわかんないけど、一応見に
行ってみ――――って、いないっ!?」
ルコールがレンヤに声をかけようと振り向くが、レンヤの姿がそこになかった。
「お姉さん!そこのスクロールを売って下さい!」
ダッシュで駆けて来た俺は、目的の露店の前に辿り着いた瞬間、
人差し指を二つのスクロールにビシッと突き出してそう懇願すると、
地面につきそうな勢いで頭を深々と下げる。
が、
「はあ?いきなりやって来て、何なんですか、あなたは?ひ、冷やかしなら
やめてくださいなっ!」
気持ち悪いニヤニヤした顔でスクロールを売ってと荒らげるレンヤに、露店の
お姉さんが引き気味の表情でシッシッと手をひらひらさせる。
「冷やかしじゃありませんよ、キレイなお姉さん!そのギフト・スクロールを
マジで欲しいんですよ!」
「あんた、このスクロールの値段を知っているのか?一本、金貨五百枚だよ?
それでも買うって言うのかい?」
「じゃ、二つで金貨千枚ですよね?はい!どうぞ、お受け取り下さいなっ!」
「へ!?」
お姉さんからギフト・スクロールの値段を聞いた俺は、アイテムボックスから
金貨の千枚入った皮袋を取り出し、目の前のテーブルにドサッという鈍い音を
響かせて置いた。
―――――――
「...九百九十八、九百九十九...千。ま、間違いなく千枚入ってあるわね?」
露店のお姉さんが、硬貨を数えるアイテムでレンヤの皮袋に入った金貨の
枚数を数え終わる。
「そんじゃ、そのギフト・スクロールを売ってくれますねよ!」
レンヤが興奮気味に鼻息をフンスと荒く吐くと、露店のお姉さんに顔を
グイッと近づけて、売ってくれるかどうかを確認してくる。
「え、ええ。お金はちゃんとあるようですし、お売りしたし――」
「ちょっと、ストォォォップッ!」
レンヤが二つの魔法スクロールに手を伸ばそうした瞬間、ルコールが
待ったをかけてくる。
「もうなんだよ、ルコール!やっとこいつを手にする事ができるっていうのに、
邪魔をすんなよなぁ!」
「昨日言いそびれちゃったんだけどさ、そのギフト・スクロールってね、
結構偽物が多いんだよ!特にこういう露店で売っている物はね!」
「偽物?でもさ、そんな事をしたら町から出禁を食らうんじゃないのか?
商人にとって、それって死活問題だろうに?」
「ならないんだよ、これが。こういう露店で売っているものって、基本、
悪質な場合を除いて全て自己責任なんだよ。なので相手が損をしようが
店側には何の罰もないんだよ!」
レンヤの疑問に対し、ルコールが露店の買い物ルールの説明をする。
「じ、自己責任...」
ああ。そういえば、俺の世界もアンティーク類ってそんな感じだったっけ?
「その子の言う通りだよ、おじさん。だから売った事でこっちが損する場合も
あるし、はたまた、大儲けをする時だってあるのさ。それでどうするんだい?
そいつを買うのかい?それとも買わないのかい?お金は受け取り体勢だけど、
私も真っ当な商売人と言われたいから、おじさん達に買うか買わないか、
その選択肢をあげるよ♪」
「うぐ。そ、そうだな......」
あぐぐ。ああ言われちゃうと、買うのをちょっと躊躇ってしまうな......
俺がどうするべきか、頭を悩ませて戸惑っていると、
「――いいわ、買うわ!」
「へへ♪毎度あり~♪」
ルコールがあっさりした口調で買うと口にすると、露店のお姉さんは俺の出した
金貨の入った皮袋を奥の金庫に素早くしまい込んだ。
そして二つのギフト・スクロールをルコールに手渡す。




