第百五十八話・ランスの企み
ギルマスの隠れ家こと、居酒屋で様々な騒動をレンヤ達が起こした
あの夜から幾日後。
「ママァァァ―――ッ!ママァァァァ―――――ッ!!」
レンヤとルコール......主にルコールから完膚なきまでにボコボコにされた
ランスが実家へと急ぎ逃げ帰ると、泣きながらランスの母親のシゼスに
甘える様にギュッと抱きつく。
「ど、どうしたんですの、ランスちゃん?そんなに血相を変えて?」
血相を変えて泣きながら帰ってきた、目に入れても痛くないと豪語できる
最愛の我が子...ランスのその泣きっぷりに、シゼスは目を大きく見開いて
動揺し、あたふたと大慌てしてしまう。
「聞いてよ~ママ~!僕は正しい事をしようとしたんだよ~!それなのに、
それが気に入らなかったのか、いきなり僕に因縁を吹っ掛けてきた冒険者が
いてさ~!そいつったら理不尽な事を散々言ってきた挙げ句、問答無用と
いわんばかりに僕に対して暴力を振るってきたんだ~~っ!」
「な、なんですってぇぇえぇぇっ!?わ、わたくしの命である、可愛い
可愛いランスちゃんに、ぼ、ぼ、暴力を振るったですってぇぇぇえっ!!」
「ぐす...うん、そうなんだよ、ママ!で、でもね、僕そんな理不尽になんて
負けたくないから、そいつに頑とした態度を取って反論したんだ。そしたらさ、
その冒険者、そんな態度を取る僕が気に入らなかったのか、殴るわ蹴るわって、
ホントヒドかったんだからあぁ~っ!」
「ムキィィィイィィッ!正義の塊と言っても過言じゃないランスちゃんの
高貴なる行動を邪魔しただけでも有罪だというのに、更に暴力に訴え出るだ
なんて、なんて躾のなっていない冒険者なんでしょうねぇぇぇ!一体全体、
ギルマスはどんな教育をなさっているのかしらねぇええっ!!」
「だからね、ママ。僕とっても悔しいからさ、そいつに仕返しがしたいんだ!
ねね!良いでしょう、ママ?協力......してくれるでしょう?」
ランスは上目遣いで瞳をウルウルとさせながら、シゼスに頼みごとをする。
「ええ!勿論ですわよランスちゃん!ギルドへの抗議は勿論の事、その暴力を
振るったという冒険者にもキッチリと制裁を受けていただきますわ!わたくしの
可愛い可愛いランスちゃんに行ったその罪への罰......絶っ対に償わせてさし
あげますからねぇぇぇっ!!」
ランスの言い分を百パーセント信じるシゼスは、表情をこれでもかという
くらいに真っ赤に染め上げ、怒りのボルテージを上昇させると、ランスの
頼みごとを聞き入れた。
そして、
「セバン!セバァァン!」
ランスの母が大きく手をパンパンと叩き、セバンという名の執事を呼ぶ。
「お呼びでしょうか、シゼス様!」
「大急ぎでグラーゼ団長をここにお呼びなさいっ!」
シゼスに呼び出された執事のセバンが、大慌てシゼスの下に駆けつけると、
グラーゼ団長をここに呼び出せと、セバンに向かって大声を荒らげる。
「グ、グラーゼ団長様を...ですか?しかし、こんな夜分遅くに呼び出すのは
些か失礼な行為に当たるかと......」
「おや、このわたくしに逆らうのかしら?」
「い、いいえ!そのような事は決して...っ!?わ、分かりました!今すぐに
グラーゼ団長様をお呼びいたしますっ!」
冷たい目線でジロリと睨まれたセバンは、焦りを拭う様にハンカチで掻いた汗を
拭き取ると、急ぎグラーゼ団長を呼び出しに駆けて行く。
「まったく、わたくしの命令ですのよ。失礼に当たるわけがないではありませんか!
良かったでちゅね~ランスちゃん。今から呼び出すグラーゼ団長とその部下である
紅蓮騎士団を使い、その小生意気な愚かな冒険者を徹底的にいたぶってあげなさい!
そしてわたくし達に逆らったらどうなるか、徹底的に悔やませておあげなさいなっ!」
「うん!ありがとう、ママ!僕頑張って、あいつらに不相応ことをしたって事実を
その身体に教え込んであげるよっ!」
ランスはシゼスに再びギュッと抱き付くと、両の瞳をキラキラと輝かせて感謝の
言葉をおくる。
「くくくく...見てろよぉぉお、おっさんにぃぃ小娘ぇぇぇ!このエリート様の俺に
恥をかかせくれた礼は、何百倍にしてキッチリ返してやるからなぁぁあっ!」
ランスはあの夜に起こった嫌な出来事の仕返しを、どうやってレンヤとルコールに
返してやろうかと、人を蔑む様な笑みを浮かべながら妥策していく。




