第百五十七話・帰るわよっ!
「感謝...ですか?はて?何でギルマスが感謝をしてくるんでしょうか?」
罵倒の言葉を投げても喜び勇んで感謝をしてくるギルマスに、ちょっと引き
気味の表情でアンナリッタは後退りながらそう問うと、
「何を言っている!感謝するに決まっているだろうがっ!下手したらこの
リタイが完全に滅びる可能性があるんだぞ!そしたら、あいつの上司の俺に
どんな咎めがくると思っているんだ!流石にそこまでやられてしまうと、
貴族不介入でギルドは無罪だぜ!...なんて理屈が通じるわけないしなっ!」
ギルマスは真剣な表情でその理由を切実に話し、アンナリッタとネージュに
ランスの説得を嘆願していく。
「そういうわけだからよ、た、頼むから意地でもなんでもあいつを説得して
きてくれぇぇぇっ!切実な嘆願だぁぁぁっ!本気に頼むよおぉぉぉおっ!
アンナリッタァァァッ!ネージュゥゥゥッ!!」
そして改めて二人に深々と頭を下げると、必死な形相でランスの説得を
頼んでくる。
「ま、町が滅びる?ああ...なるほど、ルコール姉さんの事だな?たははは、
まぁそれは確かに...滅んじゃう可能性が大きいかもな。ルコール姉さん、
自分を狙う輩には慈悲も道理も通じないし.........うん」
ルコールから圧倒的力でボコボコにされたネージュだから、絶対にそうなる
だろうなと断言する。
「もう!失礼だなぁ~ネージュは!あたしにだってね、慈悲の心くらいは
あるわよ♪」
ルコールがニコニコと笑った表情で、右の手をスッと前に突き出す。
そして、
「あたしに逆らったやつを一瞬で葬ってやるっていう慈悲がねっ♪」
笑っているのにその瞳は全く笑っていないルコールは、突き出した右手を
静かに力いっぱいにギュッと握り締める。
「それ、慈悲の心全然ないじゃん...」
そんなルコールに対し、レンヤが呆れ顔をして突っ込みの呟きをこぼす。
「おっと、そうそう。因みに言っておくがよ、ギルマス。俺もルコールと
同様、あいつらからの報復行為なんてもん、そう簡単に屈っするつもりは
ないからな。もしあいつらが報復行為に打って出るというのなら、躊躇わずに
遣り返すのは決定済みだからな!」
ま、極力手加減はするけどさ。
だけど、命の危機となれば、話は別だ。
貴族に逆らうなとか、そんな下らない理由につき合って命を落としたくはない。
俺も命は惜しいからな。
だからあの時、王族の直属だろうが、容赦なくボコボコにしたわけだしさ。
でもミュミュやプレシア達を面倒ごとには巻き込みたくないんで、最悪リタイに
被害が及びそうになった場合は、ルコールと一緒に空へと脱出して、そのまま
ここを去るという選択肢を選ぶだろうけどね。
それを選ぶと、後に残されたギルマスには随分な迷惑をかけてしまうけど、
でも基本ギルドに貴族の介入はご法度らしいので、俺の責任をギルドや
こいつが背負うって事は恐らくないと思う。
まぁ大体この問題の発端は、こいつがあのイケメン君を今の今まで野放しに
していたせいでもあるんだし、あいつを相手にするのかなり骨が折れるとは
思うけど、まあ頑張ってくれ。
でも一応、謝ってはおきますか。
俺ごとに巻き込まれたら、本当にゴメンな、ハッピー。
俺達の面倒ごとに巻き込まれる可能性があるであろうギルマスに対し、
取り敢えず先にお詫びをしておく。
さて...仮に逃げる選択肢を選んだ場合、問題はルコールの奴だ。
こいつがイケメン君の理不尽な報復から逃げるという選択肢を選ぶとは
到底思えないしな。
俺がそんな不安要素の可能性を思考し、ルコールをチラッと見ると、
「いや~しっかし報復行為かぁ~♪来るなら来なさいってなもんだぁ~っ!
あたしはちっとも構わないからさぁ♪でもその時はこの世に生まれてきた事を
死ぬほど後悔するくらいの遣り返しをその身に刻み込んであげちゃうからねぇ!
うふふ、うふふふ~~♪」
―――や、やっぱりだ!
こ、こいつ、手加減するって腹が一個もないっ!
ルコールの表情はニコニコした笑顔をこぼしているが、しかし身体からは殺る気の
オーラが全開で噴き出していた。
「そんなどうでもいい未定ごとの話はここまでにしておくとして、ほら、レンヤ!
夜が明ける前にさっさと宿屋に帰って寝るわよっ!」
「へ?い、いや、しかし...こ、ここに来て、まだ一時間も経っていないし......
そ、それにまだまだ飲み足りな――――ハギャ!!」
レンヤはルコールに、もうちょっとお酒を飲みたいと言おうとするが、その瞬間
ルコールからガシッと顔を鷲掴みにされて持ち上げられる。
「そんじゃねぇ~ネージュ、アンナ!あ、ついでにギルマスも~♪」
「うっす!ご苦労様です、姉さん!」
「はい、お姉様。御機嫌よう!」
「お、おう。じゃあな......」
ルコールはみんなに向かって大きく手を振ると、そのままレンヤと共に
宿屋へと帰って行った。
こうして、レンヤとギルマスの飲み会はお開きと相成った。




