第百五十話・居酒屋を覗き込んでいる二人の少女
「ちょ、お、おい!?どうしたんだ、レンヤ!?い、いきなり噴き出し
やがって、ビックリするじゃねぇか!?」
「ゲホ、ゲホ...ス、スマン。ち、ちょっと酒が器官に詰まって......ゲホ」
「だ、大丈夫ですか、レンヤさん!?ほら、ゆっくり深呼吸をして下さい...!」
シルビアさんが咳き込む俺を心配し、慌てて俺の背中を優しく擦ってくれる。
「......それで、どうなんですか、ギルマスさん?一応ギルマスさんも冒険ギルドの
はしくれなんだし、その噂が本当かどうか、知っているんじゃないんですか!」
オリビアがギルマスに人差し指をビシッと突き出し、噂の真相を問う。
「は、はしくれって...こ、これでもギルドのトップなんだぞ。まったく...
まぁいい、悪いがもし仮にその情報を知っていたとしてもギルドの規約上、
おいそれと機密情報を部外者に露呈はできねぇんだよ。すまねえな!」
ギルマスはバツの悪そうな表情をして、両手のひらをパンと会わせると、
オリビアに頭を下げて申し訳なさそうに謝った。
「ああ。その思わせ振りな言葉、やっぱ知っているんだ!ねぇ教えて下さいよ、
ギルマスさぁ~ん!」
「ダァ~~メッ!」
「ちぇ、ケチ。そんなナリや性格をしている割にはお堅いんだから!ここには
軽口や吐露するような人はいないんだし、気楽に教えてくれてもいいのにぃ~!」
どう頼み込んでも勇者の情報を教えてくれないギルマスに、オリビアは軽い
舌打ちを打つと、落胆した口調で愚痴をブツブツとこぼす。
そんな二人のやり取りをゴホゴホと咳き込みつつ、黙って傍観していた俺は
心の中で静かにこう呟く。
いやいや、ハッピーさんよ。そこは完全に否定してくれよ!
露呈しちゃ駄目な機密情報なんだろう!だったら、必死懸命になって
隠し通せよ、半人前かっ!
もし俺が勇者だとバレてしまったら、一体どうしてくれるんだよっ!
...............しかし参った。
よもや勇者の情報がギルドにもう聞き及んでいるとはな。
正直あの城で俺の扱いが今どうなっているのか、それを聞いてみたいが...
まぁ、ギルマスやギルドの連中が俺の事を怪しんでいない時点で、
俺=勇者とはまだ気づいてはいないみたいだが...だけど少しでも不安な
要素がある限り、ウカウカもしてはいられんよな。
これはいつ俺の正体がバレてもいい様に、急いで資金と旅に必要な道具を
揃えておいた方がいいか。
俺が今後の予定をどうするべきか、それを思案して俯いていると、
「......ん?どうかしたのか、レンヤ?そんな訝しい顔をしちゃってよ?
あ。もしかして酒が器官に詰まったせいで、酔いが一気に回ってきたのか?」
俺の表情が具合悪く見えたのか、ギルマスが俺の肩をポンと叩いて大丈夫かと
声をかけてくる。
「はは、そうじゃないよ。ちょっとばかり、考え事をしててな.....」
「ああ!さてはレンヤさんも勇者様の事が気になったんでしょう~♪
ほぉら、ギルマスゥ~。レンヤさんもこう言っているんだからさぁ、
勇者様の情報をちゃちゃと吐いちゃいましょうよぉ~~!」
「だぁ、もうしつこいぞ、オリビア!駄目なもんは駄目なのっ!」
「ぶぅぅぅう!ギルマスさんのケチィィイィィッ!」
オリビアがレンヤをダシにして、再度勇者の情報をギルマスから聞き出そうと
試みるが、それでも頑なにギルマスは教えてくれないので、オリビアは
膨れっ面でプンプンと怒ってしまう。
「こらこら、オリビア!ハッピーさんを困らせるような事を言っては駄目!
それにハッピーさんが茶を濁す時は、大概が秘密にしなくちゃいけない
事案なんだから、それ以上の詮索はしちゃ駄目です!もしもそのせいで
ハッピーちゃんがギルドをやめさせられてしまったら、どうするんですか!」
「はぐぅ!うう...わかりましたぁ~!確かにそれを聞いで、ギルマスさんが
クビにでもなったら、店の売り上げに支障が出て困っちゃいますもんねぇ~!」
女将さんから軽く咎めらたオリビアは、まだ納得していない表情を見せるものの、
これ以上の詮索はお店の売り上げに影響しそうなので、渋々と口を閉じた。
レンヤ達が勇者の噂で談笑を交わしていたその頃...
「......あの店にドスケベ中年野郎がいるんだね?」
「はい、姉さん!依頼料の高い情報屋から聞いた情報なので、間違い
ありませんっ!」
サイドテールを靡かせる少女と、燃えるような真っ赤な髪をポニーテールで
纏めた少女が、ギルマス行き付けの隠れ家を少し離れた場所で見ていた。




