第百四十三話・あいつらの話
「宿屋でそんな事が......そいつはマジですまなかったな、レンヤッ!
安心と言って、お前達に紹介した宿屋だっていうのによっ!」
俺の愚痴と説教を聞き終えたギルマスは、真面目な顔をして席をスッと
立つと、自分とこの冒険者が申し訳ない事をしたと謝罪をし、
俺に向かって頭を深々と下げてくる。
「いいって、いいって。そこまで真剣に謝らなくても。プレシアの宿屋が
何かっていう訳じゃないしな。まぁ、あんときはどうお前に責任を取って
もらおうかと打算もしたが、今はもう特に気にしてないから。それに
これ以上何かをお前から請求したら干上がってしまうしな。なので
その不始末は酒で勘弁してやるよ♪」
俺はそう言うと、テーブル上に置いてあるお酒の入ったとっくりを
ギルマスに見せる。
「......レンヤ」
「だから頭を上げろって、ギルマス。それにお前にこの話をしたのは、
ちょっとばかりあんときの愚痴をこぼしたかっただけだしな。それよりも
ほれ、何時までもそんな所で突っ立ていないで酒を飲め、酒を♪」
俺はニカッとした笑顔を浮かべると、ギルマスに見せたお酒が入ったトックリを
手に取り、注ぐ動作をする。
「お、おう。わかったぜ!」
ギルマスがもう一度俺に頭を軽く下げると、座っていた席に再び腰を下ろす。
そして俺のお酒を受ける為、手元にあったお猪口を手に取った。
「しっかしよ~ギルマス。さっきは気にしていないとは言ったが。敢えて
一個だけ言わせてくれるか?あれはさ、いくらなんでも酷すぎるんじゃないのか?
言っちゃなんだが、どういう教育を受けたらあんな性格に育つんだ?」
「はは...見た感じでわかるとは思うが、あいつら全員、上級貴族育ちの超ボンボン
なんだよ。更に俺が平民育ちって事もあって、あいつら俺の言うことなんぞ、
まったく聞きやしなくててな...」
レンヤから注がれた酒をグイッと飲み干すと、ギルマスが不愉快全開の顔で
ランス達の事で思いっきり愚痴ってくる。
「それによ、それだけでも面倒くさいこと、この上ない連中だっていうのに、
あいつらの血筋がこれまた厄介極まりなくてな......」
「あいつらの血筋が?」
「ああ。あいつらの血筋はな、昔この世界を救ってくれた勇者様の仲間だった
五大英雄王の末裔...子孫なんだよ」
「五大英雄王?ああ、はいはい。確かあの女神官もそんな感じの事を言っていたな?
えっと...剛力なんちゃらと、破壊なんちゃらの子孫...だっけ?」
俺は残念イケメンの仲間、アンナリッタと名乗っていた女神官の言葉をうろ覚えで
覚えており、それを口にする。
「『剛力格闘王』と『破壊魔導王』な!このお二人の二つ名を知らないなんて...
お前、一体どんな田舎に引っ込んでいたんだよ!」
え!そ、そんなに有名人なのか、その二人って!?
ヤ、ヤベェ。またうっかり発言をしてしまったようだぞ!?
「あ、ああ...そ、そうなんだよなぁ。お、俺の住んでいた場所ってさ、
かなり町外れな場所にある超ド田舎なものでさ。噂や情報が中々入って
こないんだよなぁ......あはは」
呆れ口調をこぼしてジト目でジィィッとこちらを見てくるギルマスに、
俺は慌てつつも、田舎を理由にした言い訳でギルマスを何とか誤魔化す。




