第百四十一話・ギルマスの本名
「さて...少し話が反れてしまったが...ギルマス、お前のオススメに
しているっていう隠れ家は一体どのお店なんだ?」
俺はギルマスの隠れ家の話に戻すと、どこがギルマスの隠れ家だと、
ド派手な光をピカピカ放っている色んなお店並びに目線を向けて
キョロキョロと見渡していると...
「チチチッ。俺のオススメする隠れ家はあんなド派手で艶やかな
場所にはないぜ!ほれ、レンヤ。こっちだ、こっち!」
ギルマスが人差し指を小さく前に突き出し、それを左右に軽く振ると、
目の前に映る、色華やかで色鮮やかな店と店の間にある小さな脇道に
ギルマスが早足で歩いて入って行く。
それからしばらく歩くこと、数分後。
「...............」
な、何か、さっきの場所とは対極に、ドンドン辺りが暗くなって
いくんだが?
ほ、本当にこんな所に隠れ家なんてあるのか?
暗くて狭い路地を進むにつれて、俺がそんな不安に駆られていると...
「見ろ、レンヤ!あそこに見えるのが、俺の行きつけの自慢なる隠れ家だ♪」
ギルマスは足をピタリと足を止め、そしてドヤ顔をこっちに向けると、
少し離れた場所に見えてくる店に人差し指をビシッと突きつける。
「あれがギルマスの隠れ家......」
表通りのド派手な店と違い、こじんまりとした木造な建物に引き戸の
出入り口。
そして、その引き戸の出入り口の前には、暖簾がかかっている。
「うん。これはあれだな......」
どう見ても紛うことなき、俺の世界の熱燗よろしくなお店...居酒屋が
そこにはあった。
「お、そのビックリした表情。やっぱりあの店の風貌に驚いているよう
だな♪あの店はな、ずっと昔にこの世界に召喚されたといわれる勇者様の
アイデアを元にして作られたっていわれているお店なんだよ!」
......でしょうねぇ。
だってあの暖簾に書いてある文字、思いっきり平仮名と漢字だし......。
「そんじゃ、レンヤ。早速、中に入ろうぜぃ♪」
「お、おう!そ、そうだな......」
ニカッと笑うギルマスが俺の肩に腕を回すと、そのまま店の中へと
引っ張って行く。
「よう、女将さん!邪魔するぜぇっ!」
ギルマスが引き戸をガラッと開けて店の中に入ると...そこにはきれいな
女性がカウンターの奥に立っており、
「あら、あら。ようこそ、いらっしゃいませ、ハッピーちゃん♪」
そのキレイな女性が、ギルマスに満面な笑みで声をかけてくる。
「ハ、ハッピー!?」
「ちょ、女将さん!ほ、本名で呼ばないでくれって言ったじゃねぇか!」
女将に本名を呼ばれた事で、ギルマスが見てわかるくらいに恥ずかしがり、
あたふたと慌ててしまうが、
「うふふ。いいじゃないの♪ワタシにはハッピーちゃんはギルドのお偉い
さんではなく、冒険者だった頃のあのハッピーちゃんなんだから♪」
しかし女将はそんなギルマスに対し、ニコッとした満面の笑みを浮かべて
そう窘める。
「はあ...やれやれ。女将さんに取って、俺はいつまでも経ってもガキ扱い
なんだな。ホント、敵わねぇや......って、おい!レンヤッ!何をさっきから
クスクス、クスクスと笑っていやがるんだっ!」
「だ、だってよ...ハ、ハッピーって、そ、そのハゲ顔でハッピーッて...
うぷ、うぷぷ......くくく♪」
あまりにも似合わないギルマスのその本名に、俺は腹をグッと抱え込み、
今にも噴き出してしまいそうな口を懸命に押さえて、懸命に堪えるのだった。




