第百二十五話・ミュミュへの嘆願
「おやおや。この流れ......どうやら、私もお金を出さなきゃいけない
流れのようですね。うふふ、いいでしょう。ギルマスにばかり良い格好を
させられませんしねぇ♪」
ギルマスとランカのやり取りを見ていたサオリナは「しかたがない」と
言いつつも、自分もランカのお詫び金に寄付すると名乗りを上げる。
「サ、サオリナまで!だ、駄目だよ、あなたにまでそんな真似をさせ――」
「おっと、ランカさん。断らないで下さいね。だって、ランカさんにギルドを
辞められてしまいますと、競う相手がいなくなり、私の張り合いが無くなって
しまいますので。ですから、そうならない為にも微力ではありますが、
私からも寄付をさせていただきますね♪」
だがサオリナは、ランカの言葉に全く引く事はなく、自分の思いを伝えると、
再度、ランカに寄付をすると言ってくる。
「サオリナ......ありがとうね。わたし、あなたと同期で本当に良かったよ!」
そんなサオリナの見せる粋な計らいに、嬉しさと感謝の涙がランカの頬を
ポロポロと流れ落ち、その胸は幸せでいっぱいになっていく。
―――その時、
「ランカさんっ!大方の話は大体聞かせてもらいましたっ!」
「え!あ、ミュミュ!?」
レンヤ達の会話を少し離れた場所にて聞いていたミュミュが、大きな声を
上げてランカに声をかけると、レンヤ達の集まっている場所に早足で
スタスタと近づいて行く。
「お、おい、ミュミュ。お前、一体どこをほっつき歩いていたんだ?
お前を見つける為、あっちこっちと探し回ったんだぞ!」
「え?ど、どこをほっつき歩いてと言われましても、ギルマスから頼まれた
用事で伝達商に......ですが?」
「は?お、俺が?」
「も、もしかして、お忘れになられているんですか、ギルマス?ギルマスが
今日の朝、ミュミュに昨日のクエスト達成の報告をまとめあげた書を伝達商に
持っていき、ギガン城に出してこいと言われていたではありませんか?」
ミュミュの言葉に首を傾げてハテナ顔をしているギルマスに、呆れた顔をしている
サオリナがやれやれと言わんばかりの口調でミュミュが居なかった訳を教える。
「あ、ああ...そ、そういえば、そうだった!いや~スマン、スマン。朗報の
案件が舞い込んできたせいで、その事をスッカリ失念していたぜ、がははは♪」
サオリナの窘めにより、自分がミュミュに用事を頼んでいてギルドに居なかった事を
思い出したのか、バツが悪そうな顔をしながら謝罪をし、ニガ笑いをこぼす。
そして、しばらくニガ笑いをこぼした後、
「ゴホンッ!ミュミュ。お前のその慌てぶりを見るに、俺達の話を聞いたんだな?
だったら、話は早い!まぁ、そういう訳なんだよ。お前が担当した冒険者達に
起こっていた不幸ごとはよ......」
ギルマスは気持ちを切り替え、表情を真面目なモードにスッと変えると、
ミュミュが担当していた新人冒険者達に起きた、事の経緯を申し訳なさそうな
声で述べてくる。
そしてランカも、
「ゴメンなさい...ミュミュ。わたしの愚かな嫉妬のせいであなたに対しても
あなたの担当した冒険者に対しても、とても償いきれない罪を犯してしまい
ました......。本当に...本当に申し訳ありませんでしたっ!!」
顔を下に向けて何も言わないミュミュに、ランカが申し訳ないといった表情で
目を潤ませながら、上半身をバッと垂直に下げると、感情で大きくなった声で
ミュミュへの謝罪を口にする。
「お、お前の怒りはごもっとだとは思う、当然の行為だ!だがよ、こいつには
悪気はなかったんだよ!だ、だから、ここはお詫び金という手打ちで許して
やってはくれないだろうか?なぁ、頼むよ、ミュミュッ!」
「わ、私からもお願い、ミュミュ!ランカさんを...どうか、許してあげて!」
未だに下に顔を向けているミュミュに、ギルマスとサオリナが懸命な嘆願を
述べ、頭を深々と下げてくる。




