第百十六話・ギルマスの暑苦しい感謝
南門を抜けてリタイの町を歩く事、数十分後。
俺とルコールは冒険ギルドに戻ると、早速クエスト中に起きた出来事を
ギルマス達に伝えた。
そして、ことの経緯を全て伝え終わったその瞬間、
「うおおおぉぉぉーーーーッ!レンヤァァァッ!ルコールゥゥゥウッ!
本当によくやってくれたあああっ!キミ達には感謝するよぉぉおおっ!!」
頭をキラリと輝かせたハゲマッチョこと、ギルマスが叫声を荒らげて
俺に飛び込む様に抱き付くと、力強いハグをギュッとしてくる。
ギャアアァァァアッ!あ、暑苦しいぃぃぃぃい―――――っ!!
ハゲマッチョの抱擁なんて、マジでやめてええぇぇぇぇ―――――っ!!
いきなりハグをしてくるギルマスに対し、俺は喉が潰れるくらいの声で
そう叫びたかったのだが、しかし息が出来ないレベルで俺の身体を
ギルマスが思いっきり締め上げてくるので、俺は声が詰まって一言も
発する事が出来なった。
「ギルドマスター!レンヤ様が締め上げる力と嫌悪感で気絶しかかって
いますので、いい加減、その暑苦しいハグをやめて上げて下さいっ!」
レンヤがギルマスのハグでもがき苦しんでいると、受付嬢のサオリナが
呆れ顔をしながらギルマスの頭を軽く小突いてそれを注意する。
「おっと!悪りぃ、悪りぃ。つい、感涙で勢いがあまっちまったぜぃっ!
許してくれや、レンヤ!ガハハッハハハッ♪」
サオリナさんの注意を受けてハッと我にかえったギルマスが、レンヤから
離れると全く悪気のない豪快な笑顔でレンヤに謝りを入れる。
「ゼェ...ゼェ...ゼェ......」
お、おのれぇ...マッチョハゲめぇ......え。
暑苦しい包容のせいで、危うく精神と身体が死にかける所だったぞ。
未だ俺の身体に残る、おぞましいハゲマッチョの生暖かい感触に、
俺の気力がガクッと落ち込んでいく。
「......そ、それでギルマスよ。いきなり俺に抱きついてきたのは、
一体全体どういう訳があっての事なんだ?」
最低底まで落ち込んだ俺の気力だったが、今は取り敢えずそれを横へと
置いておき、先程の包容は何なんだとギルマスをジロリと睨みながら問う。
「ガハハハハ!素がもう完全に出まくりだな、レンヤ♪」
「ハッ!」
おっと...いかん、いかん!
ハゲマッチョの抱擁で、つい我を忘れて平常心を失ってしまった。
「まぁ、その方が俺も話しやすいからよ、敬語は止めてそのままの素で
喋ってくれや!俺たちゃ、同じくらいのおっさん同士なんだしよ♪」
「ぐぬ。そ、そうだな...うむ、分かったギルマス。あんたがそれでいいと
言うなら、これからはそうさせてもらうよ!」
それにもう、さっきの暑苦しい抱擁のせいもあって、ギルマスに対して
敬語で喋る気が一切しなくなったしな。
「コホン...それじゃ、改まってギルマスに聞くが、なんで俺にハグをして
感謝を述べてきたんだ?」
もし冗談でとか抜かしやがったら、お前のそのハゲ頭を布で磨きまくって、
毛細血管の全てに終止符を打ってやるからなっ!
「ぐふふ...それはだな!今まで散々ギルドの手を焼かせてくれやがった、
あの『新人殺し』をお前達が撃退してくれたからに他ならないからさっ!」
「る、新人殺し?それって、俺の様な初心者の冒険者を殺している輩って事か?」
「ええ。レンヤ様の言う通りで、その新人殺しというのが、このギルドの特定の
新人冒険者達を暗殺していたんですよ!」
「特定の?」
「......その特定のって言うのはね、レンヤさん。ミュミュが担当する事に
なった新人の冒険者達の事だよ......」
レンヤがギルマス達と話しをしていると、奥に見える部屋の中からゆらりと
出てきたランカが、こちらにフラフラと近づいてくる。
「そしてね、それを実行したのはわたし付きの冒険者達らしいのよ......はは」
そしてゲッソリとした色の落ちた表情をこちらに向けると、呟く様な
か細き声でカラ笑いをこぼす。




