第百十二話・おっさんも強いんです
「ちくしょぉぉぉう!ま、まさかこんなおっさんや小娘に俺達の
完璧なる芝居がバレ、あまつ、ここまで追い込まれてしまうとは!」
「ああ、まるで悪夢を見ているようだぜ。だって俺達はよ、Bランクや
Cランクで構成したチームなんだぜ!だというのに、こんな小娘如きの
攻撃でこうもあっさり、こうも呆気なくやられちまうだなんてよっ!」
自分達の完璧なる芝居がバレてしまったというショックと、
自分達の仲間達がルコールの様な少女に、次々と倒されていく無残な
光景を垣間見、
黒と黄色のズキンをかぶった青年二人が、信じられんと言った表情で
目を大きく見開くと、恐れを抱いてその身をブルブルと震わせていく。
しかしそんな青年達の気持ちなんぞ、全く気にも留めないルコールは、
「ねぇ、ねぇレンヤァ~。あたしお腹が空いてきちゃったんだけど~!
こんな連中さ、さっさと片付けてリタイの町に戻ろうよ~っ!」
グーグーと鳴り響くお腹を擦りながら、このやり取りにもう飽きたという
口調でレンヤに愚痴をこぼす。
「そうだな...俺も初クエストの疲れが結構溜まっているし、こんな面倒と
茶番は早く終わらせるとするか......」
レンヤもまたそろそろリタイの町に戻って、この疲れた身体を癒やしたいと
思っていたので、ルコールの愚痴に同意する。
「うっし!そうと決まれば、残ったこの盗賊達をちゃちゃと退治しちゃうね!」
レンヤの同意を得たルコールがニヤリと口角を上げて指の骨を鳴らすと、
それを実行するべく、攻撃体勢へと入る。
「だ、誰が盗賊だぁぁぁあっ!ぐぬぬ...こ、こうなれば、おっさんっ!
てめえだけは...てめえだけでも、なんとしてでも殺してやるうぅぅぅうっ!!
覚悟しやがれやあぁぁぁ――――っ!!!」
ルコールの吐いた暴言なのに、何故かレンヤに対して怒り狂う黒いズキンの
青年が剣を大きく上に振り上げると、叫声を荒らげながらドタバタと
足音を立ててレンヤに向かって突撃して来る!
「おいおい...だからさぁ、何で俺に恨みごとをぶつけるんだよ!お前や
その仲間達をやったのはルコールであって俺じゃないだろうが......ハァ、
やれやれっ!!」
黒いズキンの青年の見せる理不尽な攻撃に、レンヤが軽く嘆息を洩らすと、
それを迎え伐つ為、ギフト技...『怒髪天』を発動させる。
「うははっはははっ!死にさらせやあぁぁぁ、ロートルぅぅぅぅっ!!」
レンヤの射程内まで接近した黒いズキンの青年は、大きく振り上げた剣を
レンヤの頭上に目掛け、勢いよく振り下ろした!
...がしかし、
「―――なっ!!?」
レンヤに向けて振り下ろしたはずの剣が虚しく音を立てて空を切ると、
そのまま地面にグサリと突き刺さる。
「き、消えたっ!?お、おっさんの姿が消えたっ!?」
これはどういう事だ?何が起こったんだ?と言わんばかりに、黒いズキンの
青年の表情が驚愕の表情へと変わる。
「ど、どこだ!?あのロートル、どこに消えやがったぁぁぁあっ!?」
そして困惑しながら、黒いズキンの青年が周囲をキョロキョロと見渡し、
レンヤの姿を必死に捜していると、
「どこを見ているんだ、青年?ここだよ、こ・こ・っ!」
『怒髪天』の発動と同時に発動させた『瞬歩』にて黒いズキンの青年の
背面に素早く移動していたレンヤが、青年の肩を指でトントンと優しく叩く。
「はぁあっ!?いい、いつの間に俺の後ろに移動し――――ホゲエッ!!」
不意に肩を叩かれ、慌てざまに後ろへと振り向く黒いズキンの青年の頬を
目掛けて、レンヤは力を込めたビンタを思いっきり食らわせた。




