第百四話・元気なババア
「......まぁいい」
それより、よくよく考えてみたら、その簡易型魔物図鑑とやらに
ルコールが登録されなくて正解だったかもしれんな。
こんなチートドラゴン。
もし登録でもされようものなら、絶対大騒ぎになる可能性が高いだろうし。
そうなってしまった場合、どんな奴だったとか、どこで出現したとか、
ギルドから色々問われるのは必至だろうからな。
俺はそれを想像してしまい、嫌厭した表情をこぼしていると、
「あ、あの...?レンヤ様、何やらお困りというか、ご不満そうな顔の
ご様子ですが?も、もしかして私の今のご説明で何かお分かりに
なられない事でもございましたでしょうか!?そ、それならもう一度、
改めて最初からご説明いたしますが!」
厭う表情で何かを思考しているレンヤに気付いたミュミュが、先程伝えた
自分の説明に何か不備でもあったのかと勘違いをしてしまい、申し訳の
なさそうな表情をして、再度クエスト説明のやり直しを求めてくる。
そんなミュミュに慌てて、
「いやいや、べ、別にこの顔はミュミュのせいじゃないんだよ。ただ
ちょっと、気になった事を思い出していただけで!だ、だからさ、
ミュミュがそんなに畏まる事ではないんだよ!」
俺はその誤解を解いていく。
「そ、そうなんですか?それでしたら良かったです!私ってこういう
説明があんまり上手くないものでして、ちゃんと伝えきれていなかった
のではと思い、つい焦ってしまいました!」
レンヤの説明で自分が勘違いしていると分かったミュミュは、安堵で
ホッと胸を撫で下ろす。
「ふう...ミュミュの誤解もどうやら無事解けたみたいだし、それじゃ
ルコール。そろそろクエストに行こうか!」
俺はミュミュの安堵を確認した後、横にいるルコールに顔を向けて
そう声を掛ける。
「おお!やっとクエストタイムかぁ!ったく...せっかく朝から意気揚々と
クエストをやりに来たっていうのに、こんな下らない事にいつまでも
時間を割きおってぇ!もう待ちくたびれたっていうのっ!うっしゃあっ!
そうと決まれば、善は急げだぜぃっ!うぉぉぉぉぉ―――っ!!」
ルコールが軽く愚痴をこぼした後、拳を天に突き上げ高々と気合いを
入れ直すと、ギルドの出入りに早足で勢いよく駆けて行った。
「......やれやれ。相変わらず元気なババアだな、あいつ」
若い連中のように元気いっぱいのテンションでギルドから出て行く
数百歳のババアに対し、俺は目を細めた呆れ顔で嘆息を吐いて肩を竦める。
「コホン...それじゃミュミュ。俺らも頑張って成果を上げてくるから、
そっちも受付の仕事をしっかりと頑張れよ!」
俺はミュミュに軽いエールを送ると、ギルドから駆け足で颯爽と出て
行った元気なババア...ルコールの後を急ぎ追いかけるべく、ギルドの
出入りに身体をクルッと振り向けたその時、
「あ、あの!ま、待って下さい、レンヤ様っ!」
焦った表情を浮かべているミュミュが、ギルド内に響き渡る大きな声で、
急遽俺の事を呼び止めてくる。




