第百二話・受付嬢達、羨ましがる
「ちょ!?ラ、ランカ!?」
ランカの述べた言葉が図星だったのか、
サオリナは見た目でも分かるくらいの動揺を見せてうろたえる。
「ちち、違うんですよ、レンヤ様!それは――」
そしてサオリナが慌てながら、その言い訳をしようとするが、
それを遮る様に、
「ギルド外での冒険者同士のいざこざってさ、基本的にギルドは
不介入なんだ。けどさ、流石に何の罰則も無しじゃギルドの信用に
キズがついちゃうじゃない?だからさ、ギルドは不介入だけど、
担当者の受付孃には連帯責任っていうのが発動するの。その連帯責任の
形がお詫び金なんだよ。そういう訳があるからさ、それをレンヤさんが
受け取ってくれないと、あいつらの担当受付孃であるサオリナが
ギルドから注意を受けてしまい、その結果、サオリナの受付嬢ランク
ポイントが下がっちゃうのよ!」
ランカがお詫び金...つまりレンヤが金貨を受け取ってくれないと、
連帯責任でサオリナの受付嬢ランクポイントが下がるんだという説明を
詳しくしてくる。
「へ、へぇ~そ、そうなんだ......」
受付嬢ランクポイントか。
そういえば、ミュミュ達の説明の中にも、そんなランク制度があるとか
言っていたっけ。
「そういう訳だからさ、そのお詫び金は貰ってくれた方がサオリナに
取っては逆に嬉しい事なんだよ。だからさ、レンヤさんも悪気を感じずに
それを素直に受け取ってあげてよ♪」
「お、お願いしますレンヤ様!ランカの言う様に、そのお詫び金を
受け取ってもらう事で、このいざこざを許してもらえると...その...
こ、こちらとしても大変ありがたいです......あはは」
サオリナがレンヤを上目遣いでチラッと見て、バツが悪そうな表情で
お詫び金を受け取ってくれと嘆願してくる。
「......まぁ確かに、酔っ払いの絡みからくる延長戦程度の出来事で、
サオリナさんが罰則を食らうのは流石に忍びないか。はい、分かりました!
ではこのお詫び金を貰う事にて、あいつらを許すとしましょうか♪」
俺はニコッと微笑みを浮かべつつ、サオリナさんの謝罪を受け入れ、
お詫び金を懐にしまい込んだ。
「あ、ありがとうございます、レンヤ様!」
俺がお詫び金を受け取ってくれたのを確認したサオリナさんが、
満面な笑顔を浮かべて深々と頭を下げると、俺に感謝の意を表す。
「しっかし、手痛い失敗をしちゃったよねぇ!まさか、レンヤさんが
ここまでできるおじ様だったなんてさぁ......」
「ええ。ギルドで指名手配していた強盗犯を掴まえてくるし、ドラゴンの
素材は持ってくるし...加入していきなりこれだけの成果を上げるだなんて、
ミュミュがホント羨ましいですよっ!」
「そ、そっかなぁ。いや~それほどでもないと思うんだが、デヘヘ......」
いや~こんなべっぴんさん達から絶賛の褒め言葉を貰える事なんて、
俺の人生の中でそんな事、タダの一度もなかったから、頬のやつが緩みを
抑えきれませんなぁ♪
「いやいやホント、サオリナの言う通りだよねぇ~。今すぐにでも
レンヤさんを引き抜きたいとこだけどさ、残念ながらそれはギルドじゃ
御法度なんだよねぇ~。ハァ、もう本当失敗したぁ~っ!」
へぇ、ギルドでは冒険者の引き抜きって出来ないルールなんだ?
でも考えてみたら、それが許されてしまうと良い冒険者が一ヶ所に
偏り過ぎるだろうし...うん、それは賢明なルールかな。
「あ!そうそう、そう言えば!レンヤ様の持ち込んだドラゴンの素材の件で
ミュミュの受付嬢ランクが上がるのは決定らしいよ!更にドラゴンの素材が
良い値で売れたらさ、ミュミュの手元にも結構な額が入るんだって!」
「ドラゴンの素材の十パーセントをかぁ...はあ、もうホンマジでミュミュが
羨ましいぃぃいっ!」
目の前でサオリナとランカが、ミュミュに対し、羨望と嫉妬の入り混じった
嘆息を洩らしていると、
「すいませ~ん、レンヤ様ぁ~。お、お待たせしましたぁぁ~~!」
そんな羨望と嫉妬を受けているとは露知らず、ミュミュが受付の横にある
通路奥からドタバタと音を上げてこちらに駆けて来た。




