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アプリケーション

一瞬の出来事の対価は、一生の記憶と2時間の遅延。喜怒哀楽を散らかした”粗大ごみ”の列に並び、駅員の払い戻しに応じる。こんな時、会社や学校へ行く人たちはどんな気持ちなのだろう。怒るのか喜ぶのか、どちらもか。社会人になり損ねて2年目の僕は、そのどちらでもなく、シラフで用もなく街を歩くだけの存在を予定していた。その予定も潰れてしまったので、おとなしく家に帰る。


 四畳半の1室、コンビニ袋に囲まれた敷きっぱなしで湿り気味な布団に、つま先歩きで着地すると、崩れ落ちるように横たわった。テレビをつけると先ほどの事件は1秒たりとも報道されていなかった。人身事故は差して珍しくはない。当然か。

 テレビは1500万円相当の宝飾が盗まれただとか、無職の僕には無縁なニュースが流れている。強盗の痕跡もなく手口が不明。盗まれたというよりも消えていた。不可解な事件というより店員の虚言の線はないのだろうか。そんな事を考えている内は平気なつもりだが、先ほどの光景が思考の隙間を縫うように横切る。あんな出来事があって、僕は落ち着いているのか、混乱しているのか、傍から見て僕は今まともなのか。フラッシュバックと自分の思考回路が脳をこねくり回す。止めてくれと願っても止めないのは、まごうことなき自分自身だ。


 「今若者の間で話題のお祈りアプリ――Inorisu!アプリを通して願った事が本当に叶ってしまうと評判のアプリなんです!」

 ――希望しかない様な可愛げある声が、苦悩のループを遮った。

 昼のニュースというのは、事件からトレンドまで幅広くやりそうではあるが、”お祈りアプリ”等という何の根拠もない物をテレビでやるほどネタがないのかと、いささかの違和感を覚えた。

 「登録は簡単!ご自身のマイナンバーを入力するだけ!あとはお願い事を書いて送信ボタンを押すだけで叶っちゃうんです!そんな事が実際にあるのでしょうか?」

 マイナンバー。個人情報をそんな得体のしれないアプリに入力していい物なのか?違和感は増す一方だ。これテレビだよな?本当に。

 「少しこわいですが、私もお願いしてみますよ~!何をお願いしようかな……そうだ!」

 「書いてみました!見えますかー?」

 〈皆様に愛される女子アナになりたい♡〉と書かれた画面を映すと、苦笑いしているスタジオに画面が切り替わり、「叶うといいですね」と司会が笑いを誘う形でこのトレンドは区切られた。

 軽快なテンポで宣伝されたInorisuというアプリ。マイナンバーを登録して、根拠もなく願いが叶うと謳うそれをテレビ局は悪びれもなく放送した。常識的に考えれば個人情報収集を目的とした悪質なアプリと思うのが普通ではないか……それを女子アナが疑い半分にやってのけた。今はそういう風潮なのか?現実的な非現実を今日はよく目の当たりにする。

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