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第1話 転生

通勤ラッシュの電車の中に23歳のブラック企業の会社員、玄杉蓮司(くろすぎれんじ)はいた……はずだった。電車はトンネルの中に入った。しかし、何かがおかしいことに気が付いた。車内の電気がついていないのだ。夢だと思い、目を閉じて目をこする。そして目をあけるとそこにはなぜかいつもの車内の風景ではなく、ただ真っ暗な世界が広がっていた。

先ほどまで聞こえていた車内の話し声や、レールの音は全く聞こえない。

(ど……どういうことだこれは⁉俺、仕事向かってたよな……な、何があったんだ⁉)

状況があまり飲み込めていない様子の蓮司は、慌てて走り出した。

「ちょっと……騒がしいわよっ‼」

蓮司の少し前に椅子が出現したと思うとそこに人影が少しずつ露わになってきた。

茶色の長髪に白い修道服を見に纏った正にシスターという格好の少女がいた。眉間に皺を寄せ、腕を腰に当てて蓮司を見下ろしていた。いや、体つきから見て幼女である。

「あっ……幼女……」

蓮司は目の前にいる少女にそう話しかけた。

その言葉にさらに眉間に皺を寄せた少女は顔を真っ赤にした。

「何よあんた‼この私が幼女ですって!?私は正真正銘の神様よっ‼」

蓮司は目の前の少女の言ったことを理解するのに相当時間がかかった。

(神様……ってまさか⁉)

蓮司は昔からそういった作品を読んだりゲームをプレイしたりしてきた。しかし、それが現実になるとは思ってもいなかった。

「もしかして……死んだ?」

蓮司の問いかけに目の前の少女はニッコリと笑った。

「そうよ。あんたはもう死んだわ。ここは≪転生の間≫というところ。あんたを別世界に転生させます」

そこまで言われたとき、蓮司は心から歓喜の声が漏れ出しそうになったが、それよりも前に会社や回りの人間について心配になってきたため、その事について聞こうとした。

神様はこれに気づいていたようで、現実の事を話し始めた。

「あんたは現実で過労死が原因で死んだわ」

 蓮司はその言葉に目を丸くして口をぽっかり開けたままになった。蓮司はブラック企業に勤めていたため、それがどういうことを意味するのかよくわかっていた。

「過労死……か」

 その言葉に神様は頷いた。

「そうだ。あんたは働きすぎて体力が下がり、死んだのだ」

 そこから数秒の間、静寂の時間が流れた。


「願いはあるか?一つだけ叶えてやるわよ」

 神様のその言葉に蓮司は歓喜した。蓮司は異世界転生もののライトノベルを何作も読んでいた。そしてその中にはほとんどの作品で願いを一つだけ叶えてやると言われる。

「王道キタ―‼」

と蓮司は叫んだ。

 その叫びに神様は首をかしげた。

「王道とはなんだ?ここのしきたりで決まっていることだ。さあ、早く言いなさい」

 蓮司はもう既に願いは決まっていた。

「パソコンのデータを消してくれ」

(言えたっ‼やってやったぜ‼)

 今度は神様に気付かれないように心の中で歓喜した。

 すると、神様は手を胸に当てて詠唱のようなものを始めた。

「我らが願いを今ここに。我らが願うはかの者のパソコンのデータの消去。今ここに叶いたり」

 すると、神様を中心に光が出てきて蓮司をも飲み込んだ。

 レンジの脳内には今まで長年かけて作ってきた自作PCがビジョンとして映し出され、そこにあるデータが完全消去されていった。

「あぁ……」

 今まで大切にしてきたデータ達が消えてしまい、蓮司は声を漏らした。

「これであなたの願いは叶ったぞ」

 神様は自慢げにそういった。……とその時、蓮司の中にもう一つ願いが思い浮かんだ。

「もう一つ……願いを叶えてほしい」

 蓮司はダメもとで神様に頼んだ。すると、神様は怒った。

「何言ってるのよ‼一つだけって言ったでしょ‼」

 これはやってしまったと蓮司は思った。何とかしてなだめようとした。

「怒ってちゃ可愛い顔が台無しだぞ」

 蓮司のその言葉に、神様は少しだけ顔を赤くした。

「そんな……可愛いなんて……」

 神様は照れている。そして蓮司のほうを凝視し始めた。

 蓮司は訳が分からず首をかしげる。

「わかるでしょ‼」

 神様はもう一回怒り出した。どうやら説明しなくてもわかると思っていたらしい。実際、蓮司はわかっていた。しかし、わからないふりをしたのだ。

 もう一度可愛いと言わせたいみたいだ。そこで一つ賭けに出た。

(所詮は幼女だ。ちょろいもんだ)

「願いを叶えてくれるというなら言ってやる」

 蓮司がそういった瞬間、神様は目をキラキラさせて蓮司のほうを向いた。

「ホント?ホントだよね⁉」

 その問いかけに蓮司は頷く。

「じゃあ願いを叶えてあげる。願いを言って」

 その瞬間、蓮司は復讐心に燃えた声で言った。

「俺が行っていた会社を潰してほしい」

 その願いに安心したように見える神様はもう一度詠唱を始めた。

「我らが願いを今ここに。我らが願うはかの者が行っていた会社の倒産。今ここに叶いたり」

 またも光に飲まれ、脳内に映っていたのは、蓮司が死んだことにより、会見させられ、慰謝料を払い、最終的に倒産に追い込まれた、蓮司が行っていた会社の様子だった。

「ありがとう、神様‼」

 蓮司は嬉しさのあまり飛び上がった。

「うむ。それじゃあ……」

 蓮司は神様に向かって叫んだ。

「可愛いっ‼」

 その言動に、神様は顔を覆った。

「か、可愛いだなんて……」

 その様子を蓮司はまじまじと見ていた。



 数分くらい顔を覆っていた神様は、やっと顔を上げると、本題の話に切りかかった。

「それじゃああんたを転生させるんだけど……その前にあんたに能力を与えるわ。うーんと……」

 神様は先ほどの紙をもう一度読み始めた。

「あんたが過労死したってことは、体力がなかったってことよ。だからこの能力を与えるわ」

「ま、待て。俺に選択権はないのか?」

 蓮司は神様にそう聞いた。

 神様は大きくうなずいた。

「ないのかよ……」

 蓮司はしょんぼりした。選択権があれば、俺TUEEEができると思っていた。しかし、現実はそうはいかなかった。

「体力が減らないようにこの耐性をつけてあげる」

 そういって神様は蓮司に一枚の紙切れを渡した。

 そこには《HP変動耐性》と書かれていた。

「その能力は名前の通りHPの変動がない。つまり体力がなくなって死ぬことはない。これで転生しその世界を大いに楽しめ。あ、そうそう、魔法は使えるから安心せい」

 神様はそういうと、蓮司には聞こえない言葉をぼそぼそ言い始めた。その瞬間、蓮司の視界がだんだんぼやけた。うっすらと見える神様は小さく手を振っている。

(本当に……転生するんだ……)

 蓮司は転生することに少しわくわくしていた。

 この先の人生が過酷なものになるとは知らず……。

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